業種別業界別トピックス「温泉の新しい力」(2023年10月)
1.はじめに
2023年5月に新型コロナウイルスが5類に移行し、日本の観光地に2020年以前の賑わいが戻ってきました。一部ではオーバーツーリズムなどと言われる新しい問題まで発生しています。一方ではアドベンチャーツーリズム等新しい旅のスタイルも登場しています。
日本は、3000を越える温泉が日本各地に存在する温泉大国です。それぞれの温泉は、その土地の自然や風土、そして、育まれた文化や歴史等を反映した様々な魅力を持っています。
今回は、2023年の今、温泉に新しい力を与える3つのキーワード「インバウンド」、「昭和レトロ」及び「非日常体験」についてご紹介します。
2.3つのキーワードについて
① インバウンド
2016年から日本政府の旗振りで始まったインバウンドの増加への取り組みは、2019年には外国人観光客数が年間3150万人まで到達しました。2020年から新型コロナウイルスの蔓延で98%減まで減少しましたが2023年6月200万人、2023年7月230万人と回復してきました、
外国人観光客の旅行先として、当初は東京、富士山、京都などの有名観光地を巡る旅行が中心でしたが、現在は、全国各地に訪れる旅行先が広がっており、温泉地にも宿泊先として、旅行の拠点として多くの外国人観光客が訪れています。
② 昭和レトロ
令和の時代となって、昭和の文化やモノ、街並み等昭和レトロに注目が集まっています。
第2次世界大戦後の復興から高度経済成長を経てバブル経済まで激動の時代の中で様々な流行や商品、サービスが生み出されました。昭和レトロでは、昭和の商品、サービスを懐かしさも含めて価値や魅力が再評価されています。
全国のいくつかの有名温泉地では、高度経済成長の時代に起こった旅行ブームによって発展し様々な温泉街ができました。
今、これらの温泉街を活用した新しい取組みが高度経済成長を知らない若い世代にも魅力を発信し、若者を引き付けています。
③ 非日常体験
これまで温泉は、大きなお風呂に入り、美味しい料理とお酒に舌鼓を打ち、ゆっくりと日頃の疲れを癒すことが主な目的でした。
昨今は、日常生活では経験することのできない体験をするため温泉を訪れる人が増えています。これは旅行の目的が、休息や慰労から新しい体験をすることへの変化であり、アドベンチャーツーリズムを実践した取組みと言えます。
3.3つのキーワードに取り組んでいる温泉の紹介
次は実際に3つのキーワード「インバウンド」、「昭和レトロ」、「非日常体験」に取り組んでいる温泉地を紹介します。
ー 城崎温泉
兵庫県豊岡市にある城崎温泉は、1300年以上の歴史を持ち奈良時代から多くの人々に愛されてきました。
「町全体が大きな宿泊宿」をコンセプトとして、街並みを整備することでまるでタイムスリップしたような温泉街を形成しています。そして、温泉街を観光客が浴衣で散策を楽しむことができるようになっています。
外国人観光客向けに英語対応できるスタッフの配置やサービスなど外国人向けサービスにより、外国人観光客を8年間で45倍にするなど、インバウンドの成功例としてメディアでも多く紹介されています。2016年の温泉総選挙では、インバウンド部門の第1位に選ばれてました。
ー 湯田中・渋温泉郷
長野県山ノ内町にある湯田中・渋温泉郷は、大小9つの温泉が点在する温泉郷です。地獄谷温泉の地獄谷野猿公苑のニホンザルは、温泉に浸かる猿がスノーモンキーの愛称で海外に紹介され、多くの外国人観光客が訪れています。
渋温泉には、国登録有形文化財となっている金具屋旅館があり、「千と千尋の神隠し」の舞台となった「油屋」のモデルではないかとも言われています。旅館の周囲は、石畳の路地に木造旅館が立ち並ぶ風情ある温泉街になっています。
ー 戸倉上山田温泉
長野県千曲市にある戸倉上山田温泉は、開湯130年の歴史を持ちます。高度経済成長期に首都圏からの団体客によって大きく発展した典型的な歓楽型温泉地です。
国際結婚により夫婦で旅館を切り盛りする亀清旅館の「青い目の若旦那」ことタイラー・リンチ氏は、旅館経営に加えて、積極的に英語看板の設置、地元の観光資源の開発や観光振興にも参加するなどインバウンドにも大きく貢献しています。
昭和の面影を色濃く残す温泉街のスナックを地元の観光資源として活用するため「ネオネオン」と称してスナックめぐりやスナック初心者向けセミナーなど情報発信を行い、スナックを気楽に楽しむことができるようにする取り組みを行っています。
また、2022年にオープンしたゲストハウス「昭和の寅や」は、館内に「男はつらいよ」の台本やポスター、戸倉上山田温泉の昭和時代のPRポスターを飾るなど昭和の雰囲気に加えて、自分の家に帰ってきたような「おせっかい」な宿として従来の観光客とは異なる層のゲストが訪れ温泉街に新しい風を吹かせています。
ー 登別温泉
北海道登別市で江戸時代に開湯された登別温泉は、1899年開湯のカルルス温泉と合わせて名湯として知られています。
新千歳空港からのアクセスもよく道央観光の拠点として、洞爺湖畔の洞爺湖温泉とともに多くの外国人観光客が訪れています。
2020年には、近くにアイヌ文化を伝えるウポポイ(民族共生象徴空間)がオープンしました。
ー 水上温泉
群馬県みなかみ町にある水上温泉は、上越線の開通により交通の便が良くなったことで温泉地として発展しました。その後、高度経済成長期の団体旅行ブームによって、さらに賑わいました。
現在、水上温泉は、利根川など周囲の自然環境を活用してラフティングやサップ等のアウトドアスポーツの拠点として賑わいを取り戻しつつあります。
水上温泉と同じような特長を持つ、栃木県日光市の鬼怒川温泉でもアウトドアスポーツの拠点として取り組んでいます。
【プロフィール】
大野 進一 (おおの しんいち)
オフィスBig Field 代表
経済産業大臣登録 中小企業診断士
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部副支部長
公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
製造系システム会社で10年以上金融機関向けシステム開発を担当。現在は、主に購買管理、外注管理を担当する傍ら日本の財産である温泉を活用した温泉地の賑わいを取り戻す取り組みに強い熱意を持つ。
著作: 問題解決に役立つ購買管理(共著) 他