業種別業界別トピックス「物流の技術革新」(2022年4月)
1.物流の変化
コロナ禍で人々の生活スタイルが変化する中、ECサイト利用やフードデリバリー利用が増加しています。皆様も郵便、宅配、引っ越し、出前など、全く利用経験のない方はいないのではないでしょうか?
テレワークや巣ごもりが一般化する中、webで手軽に利用できるサービスは大変ありがたいものです。
ここでは、EC需要の急増により倉庫事業、物流事業がどのような動きをしているのか、その一端を紹介します。
BtoC-EC市場規模の経年推移(単位:億円)
出展:経済産業省国内電子商取引市場規模(BtoC及びBtoB)
https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210730010/20210730010.html
2.倉庫事業者の動向
物流増加に伴い、倉庫の建設ラッシュが続いています。都内ではコンパクトながらスロープ付きで、各階にトラックが接車できる効率の良い倉庫が建設されています。倉庫機能に加えて災害時には避難所として開放することで、自治体と協定を結ぶなど、社会貢献性を付加価値として訴求している物件もあります。倉庫業者はさまざまな物流事業を行うことでノウハウを蓄積し、それをベースとしてコンサルティング事業に乗り出すところもあり、規模のメリットを生かす取り組みをしています。
もちろん、倉庫内部の技術革新も進んでいます。その一つとして、ピッキングを取り上げます。従来のピッキングでは指示書を手に、倉庫内の所定の場所から商品を卸すという作業でした。今では目視チェックに加えて、梱包箱についたバーコードをハンディで読み取ってチェックするという形式が主流になっています。しかし、ハンディを用いたピッキングでは、手がふさがる、ハンディを見なければならない(転倒や接触のリスクが高い)という欠点があります。それを解消するソリューションを紹介します。
①音声ピッキング
ピッキング担当者がヘッドセットを付けると音声でピッキング指示をしてくれるというものです。両手が使える、端末を見る必要が無いため、作業効率と安全性が向上します。
②デジタルピッキング
商品を保管している棚に、デジタル式の数量表示計を付け、数量表示計のランプなどで、ピッキング対象をお知らせするものです。
その他にも、ロボットが所定の商品棚をピックアップして運ぶという技術も注目されています。パワースーツで足腰をサポートしてピッキングを楽にする、という方法をとっている倉庫もあります。
このように倉庫事業では、倉庫の増加に伴い、効率性と安全性を高めています。
パワードスーツ
出展:panasonic お客様と共に創る未来 -アクティブリンクのパワーアシストスーツ開発-
https://news.panasonic.com/jp/stories/2016/45164.html
3.物流事業者の動向
いわゆる運送業ですが、こちらも効率性と安全性を充実させる取り組みがなされています。ラストワンマイルの輸送手段としてはEVトラックを導入する企業も現れました。高層マンションへの配送にドローンを使う実証実験も様々な企業が実施しています。これが実現すれば、ドローンがベランダに置き配してくれる日が来るかもしれません。そうすれば、配送担当者の負荷が減るだけでなく、利用者も宅配ボックスまで荷物を取りに行く手間が省けます。
トラック運転においては、技術向上にVRによるシミュレータが登場し、実務経験に依存することなく、安全性を高める取り組みがあります。物流が増加するにつれて、トラック運転手の人手不足、高齢化が問題になってきています。安全かつ快適に働ける環境づくりが求められています。
物流ドローン
出展:SGH 地方自治体とドローンを活用した複数拠点間輸送の実証実験を行います
https://www.sg-hldgs.co.jp/newsrelease/2020/1104_1630.html
4.物流の2024年問題
物流の2024年問題とは、2024年度から働き方改革関連法によってドライバーの労働時間に上限が設定されることで生じる諸問題のことを指します。最も影響を及ぼすのは、時間外労働を年960時間に制限しなければならないことでしょう。
これにより、従来は1人の運転手が賄っていた仕事を中継地点で運転手を切り替える、配送エリアを絞り込むといった対策が必要になってきます。すでに多くの企業が倉庫拠点の見直しに着手しています。ソフト面では、トラックの空き空間を管理し、できる限り積載率を高めるような取り組みもIT化されつつあります。
物流は経済を支える社会インフラとして、安全性、効率性、社会貢献性(EVによる脱炭素化等)を最大化する努力をしています。普段何気なく利用している物流業務ですが、ポチッたものが明日には届くしくみや、将来の物流業(ドローン、自動運転、ロボットなど)を考えるとなかなか趣があります。物流業には中小企業も多く、変わっていく市場に対し、どのように適応していくか、注目しています。
【略歴】
清水 康裕
中小企業診断士
ファイナンシャルプランナー
システム監査技術者他
シンクタンク、外資系コンサルタントファームでの実務経験を活かし、独立後もプロジェクトマネジメント、業界調査を中心に活動中。