業種別業界別トピックス「中国における経済発展の光と影」(2012年9月)
近年の中国は、安価な人件費を背景に世界中の生産拠点としての役割を担い、その生産量を拡大させるとともに、技術力を高めている。さらに、「世界の工場」としての中国の国際社会における地位は、年々高まっている。これに伴い、経済力も強まり、国民の購買力が向上しており、消費地としての期待も高まっている。
今後は、生産拠点としての役割だけでなく販売先マーケットとしての存在価値がますます高まっていくものと考えられる。
上海市における2000年から2010年までのGDPの推移をみると、一貫して右肩上がりの状態が続いており、約3.6倍に成長していることが分かる。その内訳を分解すると、この10年間に第1次産業では、約1.5倍になり、第2次産業では約3.3倍、第3次産業では約4倍となっており、第1次産業から第3次産業にシフトしている様子が窺える。
しかしながら、2012年9月中旬、尖閣諸島をめぐる領土問題に対する抗議デモが発生した。この影響により、各地で暴動に発展し日本の自動車や企業および百貨店、GMSなどが襲撃され、略奪などの被害を被った。行動はさらに拡大し、放火や破壊行為に発展していった。
ユン・チアンという中国人の女流作家が、「ワイルドスワン」というベストセラーを書いている。中国の文化大革命が舞台となっているが、この時に繰り広げられた過激で残忍な行動と今回の暴動が重なる。皮肉にも、デモ参加者が故毛沢主席の写真を掲げて行進する画像から、文化大革命当時の悲惨な事件を思い出した。
この本に描かれた当時の悲惨さについて、同世代の中国人に感想を聞くと、「この時は、国全体が同様に悲惨だったので、特別なことではなくかわいそうではない。」という返事をもらった。
日本では、2011年3月11日の東日本大震災による津波の被害を受けた地域において、被災者同士が助け合い、限られた救援物資を分けあっていた姿が報道されたが、両国の違いが明確になっている。
このことは、今後の中国に対する信頼を低下させることに繋がり、悪い影響を及ぼすことが懸念される。
・中国に対する国別投資姿勢
2005年から2010年までの上海市における主要投資国の状況をみると、金額ベースでも件数ベースでも、今から15年前に中国に返還された香港が最も大きい。その次に多いのが日本であり、安定している。このことからも、中国と日本の関係は、密接であることが分かる。今回の領土問題が、両国の間に悪い影響を及ぼさないようにしていかなければならない。
主要投資国の投資状況
・購買力の動向
上海市の生活水準は、年々向上している。2000年から2010年までの家電製品の普及率は、驚異的な速さで高まっている。
カラーテレビやエアコンなどの贅沢品では、台数を伸ばし続け、部屋の数に近づくレベルまで普及してきている。このことからも、中国における消費の購買力が伸びている様子が窺える。
冷蔵庫や洗濯機などの白物家電は、2000年の時点でも概ね十分普及していたが、パソコンや携帯電話などの情報家電の普及が顕著である。特に携帯電話の普及率は、この10年で約8倍となり、1世帯当たり平均2.3台を保有し、1人が1台を使用するまでになっている。
今後は、成長の伸びに陰りが見えてくることも予想されるが、拡大した購買力は、急激に縮小するとは考えにくい。
・流通業の中国進出における課題と対応策
今後日本企業が、安全に中国進出を進める上で重要なポイントとして、つぎのようなことがある。
①安全の確保
中国で安全に事業を進めるためには、安全を確保することが必要である。今回のように暴動や破壊行為を受けないためにも、堅牢な建物や設備、セキュリティシステム、保安要員等を整備する。万一、被害を被った場合に備えて保険に入るなどの対策が必要である。さらに、早期に復旧させるために、予め計画を立てておくことが有効である。
また、地域や業種ごとに特殊な商習慣があり、予想外のリベートを要求されないよう、情報収集や調査をしておくことが望まれる。そのためにも日本の支援機関を活用すべきである。独立行政法人日本貿易振興機構(略称JETRO)では、大連市、北京市、青島市、上海市、広州市、武漢市などに拠点を設け、情報提供などの支援を行っている。
②行政機関との関係強化
中国において円滑に事業を進めるためには、現地における法律や制度に精通し、行政機関との協力関係を築いておく事が不可欠である。例えば、コンビニエンスストアにおいて、酒類やたばこは嗜好品として重要な商品アイテムであるが、地域によっては取り扱い許可が得られず、品揃えが不足する場合もある。このような状態を避けるためにも、地元行政機関との連携を強化し、経営環境を整備することが重要である。
③現地企業とのコラボレーション
日本企業が単独で中国進出をするためには、さまざまな困難がある。これらを軽減させ、解決するための方法が現地企業とのコラボレーションである。その方法には、大きく3つがある。すなわち、独自進出、合弁、合作企業(技術提供)であり、利益確保よりもリスクを低減させることに重点を置くべきである。
現地企業とのリスク分担をすることで、安全性を確保するとともに、現地における円滑な事業運営を図る。そのためにもビジネス上の人間関係を超えた信頼関係を早期に築きあげていくことが大切である。
■宮川 公夫
中小企業診断士、ITコーディネータ
一般社団法人東京都中小企業診断士協会 中央支部所属