業種別業界別トピックス「スマートフォンアプリの動向」(2012年4月)
1.アプリを取巻く環境
1)インターネット利用のためのデバイスの変化
1999年にiモードがスタート、2004年にGREEやmixiがサービス開始、2006年にニコニコ動画、2008年にiPhoneが日本で発売と、我々をとりまくネットメディアは、この10年前後で大きく変化してきた。しかし、それを加味したうえでも、「PCからの1日のネット利用時間」が2011年の1年間で173.5分から151.4分へと大幅減少(アスキー研究所調べ)したという事実は、1995年頃からひたすら発展してきたインターネットの歴史の中でも大きな転換点といえる。また、携帯電話(スマートフォンを除く)も、2010年から2011年にかけては所有率が88.3%から80.3%へと減少(同アスキー研究所調べ)。これも、1990年代に一般に普及が加速してから、初めての減少といえる。
MM総研の調べによると、2011年度のスマートフォンの国内出荷台数は2010年度の実に2倍以上、およそ2,300万台超になる見通しである(図1参照)。アップル「iPhone4」が発売され、ソニー・エリクソンの初代「xperia」が大ヒットした2010年度を1,300万台以上も上回る数字だ。さらに、2012年度は携帯電話市場全体に占めるスマートフォンの出荷台数比率は、ついに約7割程度になると見込まれている。
2011年度は、サムスン電子「GALAXYS」シリーズなど数多くのヒット端末が生まれたが、最大の変化は、おサイフ、ワンセグ、赤外線通信という、日本のケータイの三種の神器をすべて盛り込んだ「全部入り」スマートフォンが現れたことである。先駆けとなったのがau「ISO3」(シャープ)だが、乗り換えを躊躇していたユーザーに圧倒的に支持され、2010年11月の発売直後から品薄になり、僅か数カ月で数十万台を売り切ったとみられる。
関連消費の市場も一気に拡大した。2011年度の国内の有料スマートフォンアプリの市場は2010年度の約10倍、750億円規模に上る見通しである(同MM総研調べ)。iPhoneのテレビCMがアプリの訴求を中心にしたものにシフトし、アプリ関連書籍も多数出版された。アプリさえあればパソコンの機能も兼ねられるという「お得さ」が改めて認知された。
アプリだけではない。キングジムの「ショットノート」は、紙のメモ帳ながらスマートフォンとの連係機能で熱狂的な支持を集めた。アプリ経由のユーザー数が急増した「facebook」、アプリがブームのきっかけになった「ラジオ」など、スマートフォンは今やヒットサービスを生み出すために必須のインフラになりつつある。
2)ユーザー動線の変化
ユーザーが欲しい情報を取得したりサービスを利用する場合、PCでは検索サイトを検索するという行動が中心で、これに加えブックマーク機能などを使い使用頻度の高いサイトへのアクセスを容易にすることで、利便性を確保した。スマートフォンの利用者は、ウェブプラウザを立ち上げて検索サイトを使用するというより、よく使うサービスをアプリという形で画面に複数配置しておき、直接アプリからサービスを利用するのが一般的である。
また、ユーザーは、facebookなどウェブサイトとして元々認知度が高いアプリを除き、iPhoneアプリであれば「AppStore」、Androidアプリであれば「Google Play」の中のアプリのダウンロード数ランキング、特に無料ランキングを参考にしてダウンロードするという動線が一般的である。
3)ユーザー層の推移
長年、モバイル端末ビジネスを牽引してきた株式会社ディーツー コミュニケーションズ(NTTドコモと電通を中心とした合弁会社)が2012年2月にスマートフォンの普及動向に関する調査を実施した。
スマートフォン所有者の内、女性が占める割合は38.9%となり、2011年調査の28.6%から10ポイント以上増加した。また、図2の通り、性別年代別スマートフォンの所有率を見ると、男性では、「男性 20~29歳」の48.3%、女性では、「女性 20~29歳」の54.2%がもっとも高い割合となった。特に、「女性 20~29歳」は、2011年調査の9.6%から40ポイント以上増加しており、急速に、若い女性の間でスマートフォンの普及が進んでいることがわかる。数年前には、年収600万円以上で、30代中盤以降のビジネスマンがiPhoneユーザーの中心であると言われていたことを考えると、ユーザー層が大きく変化していることが分かる。
4)自社のインターネットメディアとアプリとの関係
この項目はまだ明確になっているとは言い難いので、事例紹介ということになる。ポータルサイト「エキサイト」のニュースメディア「エキサイトニュース」は、PCサイト、スマートフォン最適化サイトに加え、2011年11月にアプリをリリースした。リリース後しばらくは、PCサイト、スマートフォン最適化サイトとも2割程度のトラフィック増が確認されたとのことである。つまりアプリのダウンロード数と同一コンテンツであるPCサイト、スマートフォン最適化サイトのトラフィック数には正の相関があることが確認された。ユーザーは割れるどころか、タッチポイントが増えたことによる相乗効果が発揮されたのである。
2.アプリのビジネスモデル
ここではiPhoneアプリのみに限定するが、アプリのビジネスモデルは下記の5つに大別されると考える。
①ソーシャルゲーム型アプリ
無料でゲームを提供して大量のユーザーを獲得し時短やアイテムのアプリ内課金で収益化を図るビジネスモデルである。ユーザー同士が、協力したり、競争したり、することで課金が促進される仕組みである。
②SNS型アプリ
写真共有や位置情報などの新しいタイプのSNSですが、有名なアプリほど課金も広告もしない傾向にある。ビジネスモデルとは言えないが、売却かtwitterのようなデータの有償提供で最終的に収益化を図ることが想定される。
③メディア型アプリ
無料でコンテンツを解放してたくさんのユーザーを集め広告で収益化を図るもっともシンプルなビジネスモデルである。iPhoneアプリではレビュー形式のアプリ紹介アプリが人気ですが、この場合は、記事広告、iTunesアフィリエイトなどが主流である。
④企業アプリ
自社の商品やサービスのプロモーションをしたいと考える企業のアプリを受託開発するビジネスモデルである。Webサイトの制作会社と同じ仕組みである。
⑤売り切り型アプリ
ゲーム、カメラ、エンタメ、ビジネス効率化、電子書籍、など様々な種類があるが、有料・無料を問わず一発売り切り型のビジネスモデルである。人気になったものはシリーズ化されたり、こまめにアップデートされてコンテンツが追加されたりするが、本質的には、作って→出して→売っての一発勝負のビジネスである。
その他にも、月額課金(自動課金)型アプリがあるが、AKBの公式アプリで採用され注目を集めたものの事例が少なく今後の広がりが注目される。
特徴的なのは、①~④は従来のネットビジネスであるPCサイトや携帯サイトでも存在していたものだが、⑤に関しては、ネットビジネスというよりもむしろ違う業態に例えた方がイメージしやすい。例えば、映画、小説、音楽、家庭用のゲームソフト、などである。30億かけて制作して興行収入100億を目指す映画、1年かけてレコーディングしてミリオンヒットを目指すCD、など作り方や規模は違えど、共通するのは、一発勝負のコンテンツビジネスであることである。
そのプロとアマチュアの垣根がなくなり、資本的・政治的な参入障壁が限りなくゼロに近づいたのが、今のiPhoneアプリ市場とも理解できる。そして、世界中の個人やそれに近い少人数のアプリ開発者が「一発あてる」ことを夢見る市場である限り、今後もiPhoneアプリの主戦場が「売り切り型モデル」であることは変わりない。ただ、会社組織として「売り切り型アプリ」をビジネスにする場合には課題が多く、その最たるものは、「ヒットの再現性がない」ことである。
AppStoreは、例えるなら、TSUTAYAにCDや書籍を買いに行ったら、売り場に、個人と法人、有料と無料、の商品が一緒に陳列されているようなもので、その中でヒット商品を出し続けるというのは想像しただけでも大変なことである。
そういった中、主要なアプリ開発者では、「同じジャンルのものを作り続ける」という戦略が目立っている。混沌とした状況下で勝率を少しでも上げるには最も懸命な方法だと考えられる。今はアプリ開発者として少しでも早く少しでも多く経験を積むこと、その先にある自分達の勝ち方を考え続けることが重要なのである。
3.アプリ市場を牽引している層
今後の拡大が期待できそうなアプリ市場に絞って見てきたいと思う。スマートフォン市場の性別×年代の結果と同様、20代女性がアプリ市場を牽引している。
20代女性向けのアプリを語る上で欠かせないのが、「代々木系」と言われるITベンチャー企業集団である。IT起業と言えば渋谷か六本木だが、代々木系は今までとは違う新しいサービスやビジネスを生み出したいという想いを持ったスタートアップ集団で、結果としてアプリに特化したビジネス展開をしている。
定期的に代々木で勉強会を開催しており、2012年4月初旬に約200人を集客し「これからのスマホ業界って実はふつー女子が動かしていくんだって。」という勉強会を開催した。
http://atnd.org/events/26796
アプリ開発者が実際のユーザーと日々、対話、格闘している現場ならではの彼らの意見をシェアしたいと思う。
①アプリを使ってる「フツー女子」のキーワードは「ひまつぶし」、「友達が使ってる」ということだと言う。「ひまつぶし」はモバイルツールなので分かるが、「友達が使ってる」はビジネスモデルで見てきた「SNS型アプリ」、「ソーシャルゲーム型アプリ」の普及に代表されたキーワードだという。
②メインで習慣的に使ってるアプリは、せいぜい2、3本程度だという。例)LINE、お気にいり占いサイト、facebookなど
③「ふつー女子」にむけたアプリの開発提言は以下の3点だという。
・複雑、難しいサービスは求められていない。
・基本アプリ(Twitterなど)に物足りない機能をプラスしたアプリは、認知度を活用できるので初期ユーザーの獲得に有利である
・友達とのコミュニケーションのきっかけを作るサービスが求められている。
4.まとめ
最後になるが、これまで新しいメディアやサービスが成熟する前段階では「PCサイトを立ち上げたら自社商品の売上が倍増した」、「メルマガを始めたら売上があがった」、「携帯サイトを立ち上げたら売れた」などの成功事例をよく耳にした。アプリもその類の1つなのかもしれない。現段階のアプリによるサービスを展開するプレイヤーは、アーリーアダプター(初期採用者のことで、自ら情報を集め、判断を行う層)に加え、アーリーマジョリティ(初期多数採用者のことで、比較的慎重で、初期採用者に相談するなどして追随的な採用行動を行う層)が取り組み始めたぐらいのタイミングであると考える。
新しいアプリサービスを開発することはもちろん魅力的だが、まずは自社の既存ネットメディアやサービスのアプリ版の開発からスタートすることをお薦めしたい。
■新部 勝美
中小企業診断士
(一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員
(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓ナビゲーター
東京商工会議所 エキスパート
東京都商工会連合会 エキスパート