経営相談Q&A「人材を採用したいのですが、求人を出しても応募が全くありません。どうすればよいでしょうか?」(2024年1月)
【質問】
「人材を採用したいのですが、求人を出しても応募が全くありません。どうすればよいでしょうか?」
【回答】
ご存知の通り、日本では第2次ベビーブーム以降、少子化が進みどんどん人口が減少しています。どのぐらいの人口が減っているかを見てみますと、総務省の人口動態統計によれば、2020年には約53万人、2022年には約80万人の人口が減少しました。概算ですが、前者は鳥取県の人口、後者は佐賀県の人口に匹敵するほどの人数です。これだけの人口が毎年減り続けているということは、労働者の人口も同様に減っているわけですので、採用が年々難しくなって当たり前です。
さて、求人に応募がないということは、いまの貴社の採用活動のやり方のままでは採用ができないわけですので、これから何を変えていけばよいのかのポイントを整理していきたいと思います。
1.売り手市場では「買い手の努力」が求められる
冒頭で人口減少の時代ということに触れましたが、ここでしっかりと認識する必要があるのは、働く人の「売り手市場」であるということです。いまだに一部の経営者や人事管理者は、自分たちが人(求職者)を選べる立場だと思っています。売り手市場は、買い手(自社)が選ばれる立場ですので、自分たちが選ばれるための努力をしなければなりません。貴社ではどのような努力をしているのでしょうか?
2.なぜ応募がないのかを考える
次に、求人を出しても応募がないという現象がなぜ生じているのかについて考えてみます。応募がない原因は、概ね以下の4つに分類できます。
① 情報が届いていない
② 届いても目に留まっていない
③ 目には留まったけれど興味を持たれていない
④ 興味は持たれたけど応募まで動機づけできていない
それぞれの原因ごとに効果的な対応策を実行していくことが大事になります。
3.応募を増やすための対応策
①は、そもそも自社が求人を出していること自体を知られていない状態ですので、求職者に求人情報を見てもらうべく、いかに露出を増やしていくかを考える必要があります。採用側としてはここに一番腐心している会社が多いかもしれません。
主な採用方法としては、無料であれば、ハローワークでの募集、自社のホームページや採用専用サイトでの募集、自治体の就労支援プログラム、リファラル(知人、社員の紹介)、有料であれば、求人媒体に掲載する、アグリゲート型求人サイト(indeed等)に課金する、スカウトサイト(bizreach等)を利用する、人材紹介会社、その他があります。それぞれに特徴がありますので使い分けは大事ですが、売り手市場であることを忘れてはいけません。
「ハローワークはよい人がいないから使っていない」よく聞くフレーズですが、よい人材はあっという間に採用されていなくなります。つまり、どの採用手法でもよい人材とは元々一瞬しか出会う機会がないのですが、使っていない会社と出会うことは永遠にありません。まずは知ってもらうことを最大の目的とするなら、できるだけ多くの手段を利用することが望ましいです。毎回パターン化した採用方法になっているのであれば、どんどん新しい方法を試してみることをお勧めします。
②への対応は、求職者が探す時のキーワードに注目する必要があります。例えば、休みがほとんど取れないブラックな企業で働いている人が休みを取りたくて転職する場面では、「有休消化率90%」は目につくキーワードと言えます。長く働きたいと思っている人には、「80代も元気に働いています」は目に留まる可能性があります。また、求職者が求人を探す際には、多くの場合キーワード検索でフィルターをかけますので、そのキーワードが載っていない求人票は残念ながらスルーされてしまいます。
③に関しては、②とも関連性がありますが、求職者が求めている情報を発信しているかどうかポイントになります。民間のアンケート調査結果によると、大学新卒の就活生の志向として「安定している」「給料がよい」が、ここ数年上昇しています。「業績は安定しています」「当社規定により優遇」といった曖昧な表現よりも、これらに関する情報が具体的に数字で開示されているほうが、その会社への理解が進み、興味を持ってもらえる可能性が高まります。この他にも仕事へのやりがいや、職場の雰囲気など、求職者の知りたいことに対して自社の情報を開示することによって、自社に興味を持ってもらいましょう。
④の応募への動機づけは、採用活動として最も注力したい項目です。最近の求人サイトでは、スマホからの簡単エントリーという形で応募のステップを簡潔にすることで物理的に応募へのハードルを下げる機能が重視されています。この簡単エントリーでの「とりあえず応募」は、アルバイト採用には有効かもしれませんが、正社員採用ではアンマッチ人材からのエントリーを誘引するなど、むしろ逆効果になる可能性があります。
正社員採用であれば、求人票や求人情報の内容だけでは伝えきれない自社の魅力や本当の姿を知ってもらうことのほうがはるかに重要です。経営理念やビジョン、価値観、自社の強み、社員の働きぶり、職場環境などを、自社のホームページやSNSで積極的に情報発信を行うことによって採用に成功している会社があります。このような情報の中にこそ応募を動機づける本質的な魅力が含まれています。
この際の情報発信で注意しなければならないことは、よく見せようとして本来の自社の姿と乖離した情報を発信することです。こんなはずではなかった、入社後すぐ退職、とならないようにありのままを伝えていきましょう。また、ありのままを伝えられる魅力ある会社になりましょう。
4.公的支援を活用する
ここまで、応募をどのように増やしていくかについての基本的な考え方をお伝えしてきました。これから本格的な改善に向けた自社の採用活動の点検や見直しを行うには、客観的な目線を持った専門家からのサポートを受けることが効果的です。
東京都では、公益財団法人東京しごと財団による令和5年度「中小企業人材確保総合サポート事業」が実施されており、人材確保(採用・定着)についての無料の支援が受けられます。このような施策を有効に活用しながら、自社の採用活動をより良く改善していくことをお勧めします。
【略歴】
小犬丸信哉(こいぬまるのぶや)
東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員
国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
公益財団法人東京しごと財団委嘱 令和5年度専門・中核人材専門相談窓口 相談員