【質問】
 社員が定着せずいつも人材確保に苦労していますが、どうすれば人材が定着するようになるでしょうか。

【回答】
 人材が定着している企業に多く共通する点は、「従業員が満足して働いている」ことです。
 従業員に満足して働いてもらうためにはどのようなことに留意する必要があるのか、主なポイントを確認していきましょう。

 ① 満足要因と不満足要因は違う
 アメリカの心理学者ハーズバーグの研究によると、従業員の仕事に対する満足やモチベーションに影響する要因には、「動機づけ要因」と「衛生要因」の二つがあることが示されています。
 「動機づけ要因」とは、仕事をすることにおいて、「達成すること」「承認されること」「任されること」「仕事そのもののやりがい」など、働く本人が感じる内的な要因のことを言います。動機づけ要因があればあるほど、より一層働くことに前向きになることが可能ですが、反対にこれが無いからと言って、すぐに不満を感じるものではありません。つまり、こちらは「満足」に関係する要因です。
 もう一つの「衛生要因」とは、「給料」「休日」「福利厚生」「経営状況」「人間関係」など、労働環境・条件面を中心とする外的な要因のことを指します。これらの外的要因が自分にとって不足していると感じると、従業員は不満を持ちます。なかなか難しいのは、この要因は、充足されるのに応じて不満は解消していきますが、ある一定の水準になると、それ以上この要因が満たされてもさらに満足度が上がるわけではないという性質を持っていることです。つまり、こちらは主に「不満足」に関わってくる要因です。
 
 ② まずは不満足を解消する
 従業員の定着を図るためには、前述の満足に関係する「動機づけ要因」と不満足に関係する「衛生要因」の両方に対応していく必要があるのですが、ここで大事なのはその順番です。働く環境や条件面に不満を持っている従業員に対して、「やりがいのある仕事」や「責任のある仕事」を与え続けても、不満は解消されません。まずは不満足となっている外的要因を満たしてあげることが優先事項となります。
 従業員を取り巻く外的要因(衛生要因)とは、まさに貴社が従業員に対して提供している労働条件や労働環境そのものです。経営者が思う以上に、従業員は不足を感じていることが多いため、以下のような代表的な項目について、経営者自身が「うちは足りないかな」と自覚できる場合はすぐに対処・改善をお勧めします。

 ・自社の給料は業界水準以上でしょうか
 ・賞与は業績に応じて従業員にきちんと還元していますか
 ・年間休日や特別休暇(夏季休暇等)は他社に比べ少な過ぎませんか
 ・残業が多くありませんか。残業手当をきちんと払っていますか
 ・従業員は有給休暇をしっかりと消化できていますか(取得率50%以上)
 ・自社の経営理念や経営方針をトップから各従業員に直接伝えていますか
 ・上司は部下のサポートをしていますか。命令や管理だけになっていませんか
 
 このような衛生要因を満たしてあげることにより、従業員の「不満足」は徐々に解消されていくでしょう。一定レベルを満たしたら、次に取り組むことは「満足」への対応です。

 ③ 仕事に対する満足を増やす
 従業員の満足に関わる要因は、「動機づけ要因」であることは①で見てきました。ポイントは、この要因はあくまでも従業員本人の内的なものであることです。従業員本人が自分自身で感じる仕事への「達成感」「やりがい」「面白さ」「成長実感」などです。
 これらの内的要因(動機づけ要因)を満たすための方策として、主に以下のような制度や仕組み作りが有効になります。

 ・仕事に達成感を感じられるようなミニゴールやマイルストーンを設定し、達成頻度を高める
 ・仕事の達成や成果に対して、評価や表彰を見える形で行う(社内表彰、昇給、昇進など)
 ・自社の仕事が社会においてどのような価値や意味を持つのかなどの意味付け
 ・重要な仕事を任せ、責任と権限を与える
 ・自己啓発の機会を与え、時間や費用をサポートする

 動機づけ要因への取り組みで注意しなければならないことは、「会社はいろんな制度を用意しているのだからあとは本人の問題だ」と従業員本人の責に帰してしまうことです。
 例えば「評価」という項目を考えてみる場合、従業員が評価されないのは本人だけの問題でしょうか。自分の評価方法は本当に正しいのでしょうか。自分の主観に陥ってはいないでしょうか。常に経営者は自己点検を怠らず、まだ従業員に自分ができることはないかと考える姿勢を持つことが大切です。

 ④ まとめ
 これまで、従業員の満足と不満足に影響を与える要因について考察してきました。これらの視点で社内の仕組みづくりを行うことが望ましいのですが、様々な取り組みの結果、従業員の不満が解消され、満足度が上がっているかどうかを定期的に確認することも重要です。順調であれば現在の取り組みを継続すればよいですし、変化がなければまた違う取り組みを検討する必要もでてきます。代表的な調査方法としては、
 ・定性的調査・・・社員全員への個別面談によるヒアリング実施
 ・定量的調査・・・年1回程度の無記名アンケートによるサーベイ実施
などがあります。サーベイ形式は企業規模や業種によっては向かない場合もありますので、公的機関の専門家相談などを活用して、自社に合ったやり方を検討してみることをお勧めします。

【略歴】
小犬丸信哉(こいぬまるのぶや)
東京都中小企業診断士協会 中央支部執行委員(会員部)
経営革新等認定支援機関、国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー
公益財団法人東京しごと財団委嘱 令和3年度専門・中核人材 専門相談員