大谷 秀樹

【質問】

経営の本を開くと自社の「強み」を把握しましょう、とありますが、自社の強みがよくわかりません。

 

【解答】

ご安心ください。私の経験からですが、「御社の強みは?」と訊かれて、答えられない経営者はたくさんいます。「それがあれば苦労しないよ」という答えが返ってくることもあります。でも、自社の製品やサービスを買ってくれる人がいるのですから強みはあるはずです。ですから強みがないのではなくて、強みの「見つけ方」がわからないのではないかと思います。そこで今回は「強みの見つけ方」をお伝えします。

まず、会社のことを考える前にトレーニングとして自分自身のことを考えることから始めましょう。

それでは、今日、「良かった」と思えたことを、10個思い浮かべてください。 

「良かったことなんて1日にそんなにないよ」と思うかもしれませんね。でも、ここで大事なのは「とにかく10個」考えることです。そのためには「良かった」のレベルを下げて考えることがコツです。特別な何かではなく、少しレベルを下げて「小さな良かった」を見つけてみましょう。例えば私なら、「今朝は予定通りの時間に起きることができた」「今日も朝食を家族と食べることができた」「予定通りの電車に乗れた」などをあげるでしょう。このレベルで構わないのです。慣れると10個、20個と思い浮かべることができるようになります。

このコツを忘れずに、今度は会社のことを考えてみます。ここでは「小さな強み」を「たくさん」見つけることがポイントです。

なぜ「小さな強み」なのかと疑問に思われた方がいると思います。それは、いきなり「大きな強み」を考えると、私たちは特別なものを考えてしまいがちで、そうすると見つけにくくなってしまうからです。このことは先ほど「今日良かったこと10個」のトレーニングで感じていただいたと思います。ですから「小さな強み」からはじめるのです。

ところで「強み」という言葉に違和感があるなら「特長」「ウリ」「得意なこと」などの言葉に置き換えてもかまいません。また、同業他社(ライバル)のことは後で考えればよいので一旦忘れましょう。

次に「たくさん」が必要な理由です。

それは「強みは、普段気がつかないところにあることが多い」からです。例えば職人さんはとんでもない精度の仕事をこなしますが、その技については「できてあたりまえ」と言います。修行を通じて培った技は身体の一部となっていて、普段意識していないのです。大きな強みの要素が、「できて当たり前」という意識に隠れていることが多くあります。このような、普段気がつかない潜在意識下にある強みに気づくためには、思考を拡げ、掘り下げることが必要です。だから、たくさん考える必要がある、というわけです。

また、「自分たちは強みだと思っていても、相手にとってそうではない」こともあります。ある写真館はカメラなどの機材の良さを強みと考えていましたが、お客さんはカメラマンの人柄を評価していた、ということがありました。このように自分たちが強みだと思っていても、そうではないことがあるのです。だからひとつではなく「たくさん」考える必要があるわけです。

ここまで、小さな強みを沢山見つける必要性についてお伝えしました。最後に「強みを見つけるコツ」をお伝えします。

ひとつめは会社で「できたこと」や、「継続してできていること」に注目することです。例えば「無事に納品できた」「無事故で操業できている」など、「いまできていること」に注目します。「目標歩留まりの達成!」といった「新たにできたこと」はもちろんですが、そのような大きなことだけでなく小さな「できた」「できている」にも注目しましょう。

「できたこと」がいくつかでたら、それを起点に視野を広げ、できたことを支えている要素を考えます。これがふたつ目のコツです。製造業なら品質、コスト、納期の視点や、使っている技術、設備、材料など、小売業やサービス業なら品物やサービス、仕入れ先、販売方法、人材などの視点で考えてみましょう。

例えば、得意先Z社さんに今月も無事納品できたのは、製造担当のAさんの技術があるから、などのように。このように「できたこと」「できていること」を支えている要素の一つ一つが御社の「強み」である可能性を持っています。

最後にとびきりのコツです。お客さんに言われたことを思い出してみましょう。例えば「おかげで助かったよ」とか「思ったより○○だったね」などの言葉の裏に貴社の強みのヒントがあるはずです。

今回は御社の強みを見つけるコツをお伝えしました。みつけたら、次はそれを整理します。独自性、同業他社(ライバル)との関係、経済性などの視点がありますが、それは次の機会にご紹介します。

 

■大谷 秀樹
株式会社大谷秀樹事務所 代表取締役
中小企業診断士 認定経営革新等支援機関
プロモーション・プランナー
大学で広告を学んだ後、広告代理店において広告計画の立案や営業ツールの開発などに24年間従事。中小企業診断士登録後「中小企業・小規模事業者の活躍する社会こそが豊かな社会である」との想いから2012年に独立。2016年法人設立。売上向上などの課題を中心に経営支援に携わる。東京都中小企業診断士協会中央支部認定研究会「スモールビジネスのための実践的プロモーション研究会」代表幹事。