久保 英信

【質問】
 契約期間を定めて契約社員やアルバイトを雇用しています。契約更新に制限が設けられたとのことですが、詳細を教えてもらえませんか。
【回答】
 平成25年4月(一部は平成24年8月)に労働契約法が改正されました。有期労働契約(正社員の様に一定の期間を定めて雇用するのではなく、1年などの期間を定めて雇用する雇用契約)に関して新たなルールが設けられています。以下説明します。
Ⅰ.改正法の内容
1.法改正の背景
 有期労働契約を繰り返し更新した後の雇止めに対する労働者の不安を解消し、また、有期労働契約であることを理由とした不合理な労働条件の是正を図ることで、有期契約で働く労働者が安心して働き続けることができることを目的に労働契約法が改正されました。
 「リーマンショック」の後に大量に生じた雇止めが、社会問題になったのは記憶に新しいところです。当時問題とされた課題に対して一定の対応をしたのが今回の法改正と言ってよいでしょう。
2.有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
(1)期間の定めのない労働契約へ転換する場合とは
労働契約期間が満了して更新を繰り返した結果、通算した雇用契約期間が5年を「超える」(=5年ちょうどの場合は関係ない)場合、「労働者からの申し込み」があったときに、無期限の労働契約に転換する制度が新設されました。
 労働契約期間が通算して5年を超える労働者は、現に締結している労働契約期間中に、期間満了の翌日から無期限の労働契約を締結するよう「申し込み」をする必要があります。申し込みがあった場合は、現在の労働契約期間が満了した翌日から無期限の労働契約が成立します。
 この申し込みがあった場合、労働契約期間は無期限となりますが、それ以外の賃金や労働時間・休日などの労働条件については、労使で特に何かを決めていない場合は、従前と同じ内容となります。
 「通算して5年を超える」期間の起算日は、平成25年4月1日以降に締結された労働契約の開始日となりますので、同日以前に開始日のある雇用契約期間については、「5年」を数えるにあたって無視して頂いて構いません。
(2)クーリング期間
 労働契約期間を通算するにあたって、有期労働契約と次の契約の間に、空白期間が6ヵ月以上ある場合は、空白期間以前の労働契約期間は通算の対象から除外されます。この場合の空白期間のことをクーリング期間と言います。
 労働契約の期間が1年未満の場合は、6ヵ月よりも短い期間(労働契約期間の1/2の期間)がクーリング期間となります。
3.有期労働契約の更新について
 2は、通算した労働契約期間が5年を超えた場合のことを述べたものですが、通算5年以内の間であれば、どのような場合でも雇止め(次の労働契約を更新しないことによって労働者との雇用関係を終了させること)が許されるかというと、そうではありません。
この内容は、従来から判例法理によって確立されていましたが、今回の法改正で法律として明文化されました。
(1)無期限の雇用契約と同視できるような有期労働契約
 形式的には期間を定めて労働契約が更新されているが、労使のいずれか一方が特別の意思表示をしない限り、ほぼ自動的に契約更新がされているような場合は、無期限の雇用契約と実質的に異ならないとされます。この場合、雇止めの有効性は解雇と同様の条件で審査されるものとなります。
(2)契約更新に合理的な期待があると認められる場合
 業務の種類や内容、契約締結時の会社の言動、更新回数、労働契約の通算期間などを全て考慮した結果、労働者に契約更新を期待させるような事情があると認められる場合は、(1)と同様に解雇と同様の条件で雇止めの有効性が審査されます。
4.有期労働契約であることによる不合理な労働条件の禁止
 契約社員やパート・アルバイトは、正社員よりも賃金水準が低いなど労働条件に差を設けている例は、珍しくありません。
 今回の法改正では、そういった労働条件の相違が、業務内容や責任の程度、この2つおよび配属先が配置転換等によってどの程度変更するのかといった点、その他の事情などを考慮して不合理であってはならないという規定が新設されました。
 但し、不合理とされた労働契約は、どのような内容になるのかについては明確ではないのが現状です。(厚生労働省の行政解釈「労働契約法の施行について」には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解されるとしていますが、これはあくまでも行政解釈に過ぎません。)この点については、今後の動向を注視する必要があるでしょう。
5.労働基準法施行規則改正について
 今回の労働契約法改正に併せて、労働基準法施行規則も改正されています。この点は見過ごされがちですので、注意が必要です。
 従来は法的拘束力のない「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」において、有期雇用契約を更新する際の「更新する場合の基準」を書面による提示することとされていました。今回の施行規則改正で、この内容が規則に盛り込まれ、法的な義務となりました。従来から対応していた企業にとっては影響がありませんが、まだ対応していない企業は、早急に対応する必要があります。厚生労働省などでモデルとなる書式を提供していますので、紹介します。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/meiji/dl/h241026-2-betten.pdf
 
 
Ⅱ.改正法への対応について
1.5年超の無期転換について
 5年を超えて有期労働契約を更新すると、無期契約に転換する可能性があることは、企業にとって大きな影響といえるでしょう。注意を要する点は、(1)無期転換は、労働者の申し込みが必要であること、(2)契約期間以外の労働条件は、原則として従来のままであることの2点です。
 5年を超えると当然に無期転換するのではないかという誤解を聞くことが多いのですが、あくまでも本人が希望した場合に転換すると言うことは、正確に理解する必要があるでしょう。また、契約期間以外の労働条件は原則として従来通りとなりますので、無期転換したからといって、正社員と同等の処遇をしなければならないと言うことではありません。
 最近の状況をみると、5年を超えて契約を更新しない旨を、就業規則の変更などによりルール化しようとする動きが見られるようですが、就業規則の変更には、内容を周知し、従業員の意見を聴くといった手続き上の規制や、変更内容の合理性といった実質的な内容を審査する規制がありますので、簡単にはいかないでしょう。実質的な内容を審査するにあたっては、Ⅰ-3で述べたような雇止めの規制が影響するのではないでしょうか。
 むしろ、賃金等の労働条件に変更の必要はないのですから、無期転換をした後に企業としてどのように労働者に働いてもらうのかという点を検討した方がよいように思います。
優秀な人材は正社員に格上げし、単に無期転換した労働者と差を設けるなどの方策をとることで、有期契約労働者の積極的な活用を図ることが重要ではないでしょうか。
2.有期労働契約であることによる不合理の労働条件とならないために
 多くの企業では、正社員とパート・アルバイトでは仕事の内容が異なっていたり、たまたま同じ内容の仕事をしていたとしても責任の度合いが違ったり、正社員だけには転勤があるといった、業務に質的な違いが認められると思います。
 そのような場合は、Ⅰ-4に述べたような「不合理な労働条件」とはならないと考えますが、改めてそのような視点で自社の労働者の役割や業務内容を点検することをお勧めします。業務内容の点検については、中央職業能力開発協会から「職業能力評価基準」が公表されており、参考になります。
http://www.hyouka.javada.or.jp/user/index.html
 全ての業界に関しての基準が作成されていないのですが、自社に該当するものがあれば、活用されてはいかがでしょうか。
 この基準は、職種・職責に応じて行うべき職務の内容を記載したものです。これを自社の正社員、パート・アルバイトの業務にあてはめてみることで、それぞれの業務内容の共通点と相違点が把握できると思います。
 
 
Ⅲ.専門家の活用について
 これまで法改正の内容と、その対処についての概略をご紹介してきましたが、それぞれの企業の状況に応じた個別の対応をするなかで、自社だけでは難しく感じる場面があるかもしれません。
 そのような場合、法的な解釈に関しては法律の専門家、人事施策に関しては専門のコンサルタントを活用されることをお勧めします。後者の人事施策については中小企業診断士のなかにも専門に行っている者がおりますので、お気軽にご相談頂ければと存じます。
 
 
■久保 英信
1971年11月13日生
石川県出身
1994年日本大学法学部政治経済学科卒業
中小企業診断士、特定社会保険労務士
企業で主に人事労務管理を担当した後、2008年に「社会保険労務士・中小企業診断士 久保事務所」を開業。
顧問先企業の人事労務相談を中心に、人事制度の提案や就業規則の作成といった企業人事に関する業務を行う一方で、労働・年金相談などの個人からの業務も行う。
商工会議所等で人事労務管理に関する講演を行っている。専門誌に複数の記事を執筆するとともに、2013年3月に東京都社会保険労務士会から刊行された『人事労務管理課題解決ハンドブック』では、編集主幹を務める。