橋本 泉

1.はじめに

 昨年来、国内GMSの大量閉店が相次いで発表されています。例えば、イトーヨーカ堂は2020年2月期までに40店舗、ユニーグループ・ホールディングスも最大で50店をそれぞれ閉店する方向で検討に入ったとのことです。西友はすでに2014年10月、数年内に約30店(全店舗の1割弱にあたる)を閉鎖すると発表済みです。イオンは大量閉店の発表はありませんが、国内GMS事業は新規出店を中心とする規模拡大から改装による収益改善に軸足を移しています。
 GMSが大量閉店した後に替わって伸びる業態や需要が増す業態とは何でしょうか。環境変化の要素は様々にあり、それぞれが複雑に関連していますが、ここでは数十年先まで予測できる人口動態の変化を軸にして考察しました。

2.都市人口規模別人口動態変化と立地変化の関連

2−1 都市人口規模別人口動態変化

 わが国の人口は2010年に1億2800人でピークを迎え、2015年の現在は約1億2660万人です。25年後、2040年のわが国の人口は、厚労省の外郭団体である国立人口問題研究所の予測では1億 727万人。ピークであった2010年から実に2073万人(16.1%)減少します。
 人口の減り方は、一様ではありません。同研究所では、都市人口規模別の人口変化予測もしています。(ただし、例外的な都市が30%くらいあるとも想定しているとのこと。)
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 県内分布とは、県人口のほぼ50%が県庁所在市とその周辺に、30%くらいが県庁所在市から離れた市や町に、20%がより郊外部の市町村に住んでいることをイメージしています。つまり、2040年に向かって大都市部も人口は減りますが、県庁所在地から離れた市町村では、全国平均(15〜16%減少)を上回る勢いで人口が減少します。その結果、政令指定都市と地方の県庁所市周辺への回帰が進みます。

2−2 都市部回帰による小売業出店の変化

 「店舗売上=商圏人口×1回当たり購買額×自店商圏内シェア」とします。2040年に向かって商圏人口が30%減る地域で、1回当たり購買額が大きく増えることが期待できないならば、自店の商圏内シェアを上げて1位の店=地域の業種・業態の一番店にならないと、経営が成立しなくなります。しかし、商圏人口そのものの減少傾向が顕著な地域では、郊外型大型店舗の増加がなくなって行きます。

 「店舗売上=商圏人口×1人当たり購買額×自店商圏内シェア」の「商圏人口」部分を大きくするためには、人口減少の速度がゆるやかな政令指定都市や各県の県庁所在地を中心にした都市部へ出店の重点が移ります。
 全国平均でこれから25年間に16%の人口が減るということは、現在人口が30万人の地方都市の人口が2040年に5万人減って25万人に、1年間で2000人ずつが減ることになります。1世帯平均2人と仮定し、現在は人が住んでいる住宅が、毎年1000戸ずつ空き家になって行くイメージです。空き家が増える一方の需給状態の中で土地価格は上がりません。

 人口の1%/年の減少に対し地域の平均地価が3%下がる(弾性値3)推計があります。それが本当であれば、16%の人口減は、単純計算で48%の地価下落をもたらします。全国平均で地価が半額に下がることはないとしても、人口の減り方が全国平均(25年間で16%)以上の地域では、地価は下がると考えられます。そうなると、現時点の地価やリース料は、人口が減ったあとの将来から現在を、逆方向に見れば48%高くなっていることになります。この見地からも、今から郊外店舗への投資は到底できないとわかります。

3.年齢別人口構成の変化と小商圏型業態増加の関連

 総人口の減少と同時に考慮すべきは、年齢別の人口の大きな変化です。
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 15歳未満は34%減り、15歳から60歳は27%減ります。団塊ジュニアも70歳に向かうため、60代も9%減って、増えるのは70歳以上のみで23%増(+559万人)です。

 こうした高齢者層の増加は、店舗業態にどのような変化をもたらすのか、すでに利用の中心世代が高齢化しているコンビニエンスストアの事例で考えます。
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 『セブンアンドアイホールディングス事業概要/投資家向けデータブック』によると、
1989年には10代が28%、20代の顧客が35%、30歳未満で客数の63%を占めていました。40代・50代は20%(5人に1人)でした。それが2013年には、10代・20代は29%(約3人に1人)に減り、40代・50代が50%(2人に1名)に増えています。

 コンビニエンスストア1店の商圏の半径は約350メートルです。徒歩5分程度のご近所感覚で移動し、日々の買い物ができる店舗は、高齢者にとって利用しやすいと容易に想像できます。

 さらに、大商圏型の店舗との比較や、他の世代との違いを検証するために、都市部に住む人が、大商圏型の商業施設であるショッピングセンターと百貨店および小商圏型の食品スーパーを利用した頻度を示したデータを比較します。(2012 年 9 月実施、都市生活者意識調査〈東京・大阪在住の都市生活者の小売業態の利用について〉)
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 郊外の大型ショッピングセンターに出かけた回数は、30代までが多く、60代では年4.2回、70歳以上では1.0回です。世代が上になると、買い物のために遠くにいく回数が減ることを示しています。

 百貨店は、ほとんどが都心部に立地し、商品価格の関係から、経済的に余裕がある50代、60代、70代以上の来店回数が多い傾向です。遠くに買い物に行くときは、百貨店を利用する世代です。

 食品スーパーの利用頻度は、百貨店やショッピングセンターのような年間ではなく、月間で集計しています。家庭をもつ30代以上から、利用頻度は月10回(3日に回)を超えて、40代は14回、50代15回、60代16回、70代14回で、年代上昇とともに、利用回数が増えることが特徴です。わが国では、ご存知の通り、野菜や果物を生で食べ、魚も生で食べます。精肉も解凍して売ります。このため、家庭を持つ世代は、食品スーパーに週2回から3回は出かけることになります。

 中でも65歳以上になって退職する世代は、日々の食料品を中心とした買い物を自宅近くで頻度高く行う傾向が強くなります。同じく徒歩圏立地業態であるコンビニエンスストアがすでに高齢者世代の利用比率を上げていることと考え合わせれば、高齢世代になるにつれ、買物のための移動距離が短縮化し、結果として小商圏型業態のニーズが高まると考えられます。

 わが国の郊外型の大型店は、主に1970年代以降、人口増加による中心部の地価高騰、居住地の郊外への広がり、自家用車の普及などを背景に発達し,人々の生活に貢献してきました。しかし2012年以降の人口減少、高齢化とともに住まいの都市部回帰、および買い物距離の短縮化が進行し、都市部の小商圏型業態へのニーズが高まる中で、大量閉店を迎えていたのです。

 以上のことから、2040年に向かっては、「都市部立地」、「徒歩利用可能」、「食品を中心に日々の買い物ニーズに応える」、「週に何度でも行きたくなる魅力を備えた」をキーワードとした業態のニーズが高まると結論づけます。

■橋本 泉
中小企業診断士 販売士1級 
専門分野:小売・サービス店舗支援、接遇向上、人材育成等。