1 はじめに
2024年度版中小企業白書によると、企業の人材不足が深刻化しており、物価動向も後押しして賃上げを行う中小企業が増加しています。そのため、企業には賃上げの原資となる業績改善や生産性向上が求められており、商品やサービスの付加価値を増大させる必要があります。現代のビジネス環境は急速に変化しており、中小企業が持続的な成長を実現するためには、柔軟かつ戦略的な取り組みが不可欠です。
本コラムでは、企業の競争力を高め、中長期的な成長を支えるための重要なポイントについて、「ヒト」、「モノ」、「カネ」、そして「情報」という経営資源を中心に解説します。これらの資源を有効に活用し、変化する事業環境に適応し続けるための具体的な方法について見ていきましょう。

2 4つの経営資源
2.1 ヒト
中小企業が重視する経営資源は「ヒト」であり、従業員の能力開発が重要です。計画的なOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)やOFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)研修を実施し、生産性を向上させましょう。人材育成は従業員の定着や労働生産性の向上に寄与し、さらに従業員の給与を引き上げ、職場環境の改善も行うことで、企業に活力が生まれます。
人材不足の中でも、子育て世代の休暇取得や勤務時間の短縮・変更などの柔軟な働き方を、従業員の多能工化で実現した企業もあります。2023年度版中小企業白書によると、人材戦略を策定し、必要な人材像を明確化した企業は、高い割合で業績を向上させています。

2.2 モノ
日本企業は、これまで生産性向上に向けて低コスト化と数量確保に取り組んできましたが、今後は単価の引き上げによる生産性向上と付加価値の創出が求められます。新たな製品・サービスの開発や他社との連携による差別化を図り、生産性を向上させましょう。外部の技術やノウハウの活用は、新たな技術開発や製品・サービス創出のきっかけになります。
無形資産への投資の増加は企業の成長を促す方法の一つであり、脱炭素化への取り組みがコスト削減と競争力強化につながります。資源自律経済の確立を通じた循環経済(サーキュラーエコノミー)への転換も今後ますます求められています。

2.3 カネ
価格転嫁の促進が重要です。そのためには取引環境の改善と価格協議が必要です。パートナーシップ構築宣言企業は、発注先と価格協議を行い、価格転嫁にも応じる傾向があります。中小企業が最終的に獲得できる付加価値額を増やすためには、自社の優位性を顧客に発信し、価格競争からの脱却と取引条件の改善が重要です。
事業や製品の見直しを行う際には、ビジョンを明確にした経営計画を立て、外部の経営資源を活用することや、エクイティ・ファイナンスの活用も考慮すべきです。

2.4 情報
デジタル化により企業の業務効率化が進んでいますが、依然としてアナログな文化や価値観が残っています。デジタル化推進には、それぞれが持つ組織的な課題を解決し、明確な目的・目標を定めることが重要です。
GXやサプライチェーン、DXへの対応は、企業の投資やイノベーションを促進します。越境ECを利用している企業の割合は増加傾向にありますが、情報不足や自社ブランドの認知度向上の難しさなどの課題も依然として存在します。

3 戦略と経営者の心構え
経営資源を活用して企業の中長期的な成長を図るためには、価値創出のための「戦略」と、構想・実行の核となる「経営者の心構え」を考えてみます。

3.1 戦略
中小企業の成長には、「自己変革力」と「経営力そのもの」に迫る的確な課題設定が必要です。事業見直しを①市場浸透、②新商品開発、③新市場開拓、④多角化の4つに分類すると、小規模事業者は市場浸透に取り組む傾向にあります。中小企業が事業見直しに取り組む際には、知識・ノウハウの不足を支援機関による助言で補うことができます。
日本の人口減少や世界市場の変化に対応し、日本の企業が世界市場の需要を取り込むことは日本経済の発展につながります。販路開拓ではブランド構築が価格決定力に寄与します。自社ブランドの発信だけでなく、ブランドコンセプトの明確化や従業員への浸透により、販路の拡大につなげましょう。

3.2 経営者の心構え
企業の持続的な成長には、経営者が成長意欲を持ち、デジタル化推進による業務プロセスの見直し、組織改革、および事業承継による経営者の世代交代を好機とした企業の変革が求められます。 経営者仲間との積極的な交流は、共同の商品開発、新たな取引の創出、取引先との関係強化など、経営上の効果が期待できます。さらに、販路開拓や企業の成長には支援機関も貢献できます。

4 おわりに
本コラムでは、中小企業白書をベースに企業の成長と持続的な発展を支えるための重要なポイントを取り上げました。経営資源である「ヒト」、「モノ」、「カネ」、そして「情報」を有効に活用することが、企業の競争力を高め、持続的な成長を実現する鍵となります。
現代のビジネス環境は急速に変化しており、その変化に適応し続けるためには、戦略的な視点と経営者の強い意志が求められます。企業の中長期的な成長を目指し、柔軟かつ積極的な取り組みを行っていきましょう。

本コラムが皆様の経営における一助となり、さらなる発展への道筋を見つける手助けとなれば幸いです。

<略歴>
岡田 英二(オカダ エイジ)
東京都中小企業診断士協会中央支部 執行委員・渉外部
化学会社に所属する企業内診断士
化学分野で13年間研究員として従事し、主任研究員となる。その後、海外の合弁会社でTechnical Support部門のエンジニアとして3年9か月の勤務を経て、現在は本社の企画開発部に所属。新規事業開発、研究開発品の事業化推進、産学連携の管理、技術供与などを担当。技術ライセンス案件では、複数の海外企業に対し契約交渉から保証運転まで一貫して責任者を務める。