専門家コラム「2025年、事業の海外展開を検討する際に留意したい点について」(2025年1月)
おはようございます。国際スペシャルアドバイザーの有吉啓介です。
2024年も多くの企業経営者や事業責任者の方々とお話しをする機会をもちました。
機会を提供いただいた方々へこの場をお借りして、御礼申し上げます。
さて、2022年10月に始まった新型コロナ対策の緩和から早2年が過ぎ、振り返ると、新型コロナ禍の3-4年間に、国内外で事業への大きな環境変化が起こりました。
今でも日本を取り巻く経済と社会環境が良くならず、国内市場だけでは儲からないという定量的状況と、国内市場の閉塞感からくる定性的状況を感じ、2024年は企業経営者の方から、事業を海外へ拡げる検討を考え始めたという意見をよく伺いました。
想起する具体的な要因は、日々のニュースなどでご存知の通り、国際紛争の激化、円安、人手不足、他先進国と対照的に継続して上げられない賃金、割高になった食糧・燃料・原材料コスト、少子高齢化社会の進展、地域過疎化、等があります。
コロナ明け数ヶ月後に拙作として記したコラム「2023年に海外展開を強化したい経営者がまず考える3つのこと」(*1)をベースにしながら、2025年にさらに留意すべき3点を、専門の東南アジアにおける事例も合わせた内容で、ご紹介いたします。
なお事前にお伝えしますと、以下の内容は事業の海外だけではなく、国内展開にも活用できると、お気付きになると思います。最後までお付き合いいただけると大変嬉しいです。
1. ポストパンデミックの事業戦略作り
- タイパに応える商品サービス戦略
ポストパンデミックは新常態のことですが、新型コロナ禍後に「新常態」が確立されつつあり、消費者行動や市場のトレンドとなって安定していきます。しかし、このトレンドは短期で変化するという性質があります。背景に、新型コロナ禍でヒューマン・コンタクトを減らした反面、溢れるインターネットなどからの情報を限られた時間で正しく消化する為に、タイパへ偏重した社会活動が元になっています。よって事業戦略は、タイパに応える商品サービスの提供が顕著になります。
また新型コロナ禍を通じて、オンライン通販やデジタルサービスの利用が急増しました。シンガポールではShopeeとLazadaなどオンライン販売サービス事業者が食品販売のシェアを大幅に増やしました(*2)。フィリピンではデジタルバンキングの利用者が増え、Maya BankやOwn Bankなどを含めた銀行オンライン取引が増えています。これらを活用した戦略を立てることも重要になります。 - 健康志向に応える商品サービス戦略
新型コロナ禍の自主隔離的な生活体験から、健康とウェルビーイングに対する意識が高まりました。タイではオーガニック食品やヘルスフードへの需要が増えています(*3)。またベトナムではフィットネスクラブやヨガスタジオの利用者が増えています。
この傾向は日本より早くコロナ禍から脱して成長を得た、東南アジア諸国の中所得者層の勃興も背景にあります。消費者や需要者の健康志向に応えるだけではなく、増えている中所得者層に向けた商品サービスを含めることも戦略上で重要な点になります。
2.ビジネスモデルのアプローチ
- エシカル慣行のビジネスモデル
社会や経済まで含んだグローバルな意味の健康指向もあり、環境や持続可能性に対する意識が高まっています。
インドネシアではリサイクル可能な製品やエコフレンドリーなパッケージの需要が増えています。「ゼロプラスチック」を推進・実践する店舗が都市部を中心に出てきており、政府も2019年に廃棄物削減ロードマップを制定し、2029年までに30%の廃棄物削減を目指しています(*4)。
マレーシアは2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量45%削減を挙げており、太陽光、水力、バイオマスといった3種の再生可能エネルギー関連の製品やサービスの需要が増えてきています(*5)。
エシカルなビジネス慣行が求められるようになり、環境にも配慮した商品サービスへの関心を捉えたアプローチのビジネスモデルで差別化を獲得します。 - 持続可能なビジネスモデル
環境配慮型や社会的責任を果たせるビジネスモデルが求められています。
ミャンマーでは、地元の米、豆、果物などの農産物や伝統的な製品の需要が増えています。またラオスでは地元の観光業が復活し、同国政府は2024年を「ラオス観光年」として、地域の文化や伝統を活かした観光プランを国が挙げて取り組み、外国人観光客を多く呼び込むほどの人気を高めています(*6)。
つまり、地元の商品サービスを活用したビジネスモデルに対して、顧客の支持を得易いことになります。その様なモデルを先駆者的に取り組むことが大変重要になってきます。
3.技術のアプローチ
- 先端技術による高度なサービス提供
顧客の現体験向上を図るため、ARやVRを活用し、相互に自由なコミュニケーションができるインタラクティブな商品サービスの展示や紹介プログラムを提供します。観光業界では、ビーチリゾートやホテル施設の現体験を手軽に視聴覚できる仮想空間の提供を行っています。それによって商品サービスの選択では高い差別化を得られます。また遣り取りされる取引データの透明性とセキュリティを向上させるため、最新のブロックチェーン技術を活用し、例えば店舗型銀行サービスが進展しない新興国の金融では顧客や取引先に対して、より高品質で信頼性を高めたサービスとして活用が進むことを見込みます。 - 革新的技術による効率化と利益の獲得
デジタルやAI技術の進展で、顧客サポートの自動化、倉庫や物流のサプライチェーン管理、製造現場の組み立て加工のトラッキングに、IoT(モノのIT)を活用すること、またリアルタイムでモノの流れをデータで分析することで、経営資源の再配分による最適な効率化が図られます。自動車や産業機械の製品や主要コンポーネント部品など高付加価値な製品の組立てに活用し、より迅速な効率化や利益化の対応が可能になり、新たなビジネス機会が生まれる可能性も増えると考えます。
2025年は、上記を踏まえ、且つ持続可能で技術革新を得たビジネスモデルを以て、海外展開に関わることをお勧めします。また詳しい話を聞きたい方はぜひご連絡ください。
以上
(参考:出典)
*1「専門家コラム2023年海外展開を強化したい経営者が考える3つのこと」:https://www.keieiryoku.jp/column/detail/?id=122
*2「JETRO報告シンガポール食品市場2024/3」:https://www.jetro.go.jp/ext_images/agriportal/platform/sg/pf_spr_240326.pdf
*3「農林水産省:有機食品に係る市場開拓実態調査」:https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/yuuki_sijyou_jittai.pdf
*4「アジア型循環経済モデル調査報告書(三菱UFJリサーチ&コンサル)」:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000271.pdf
*5「JETROマレーシア・カーボンニュートラル調査」:https://www.jetro.go.jp/world/reports/2022/02/fad5deb7541b3dba.html
*6「JETROビジネス短信 2024年ラオス観光年スタート」:https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/12/72fcc72ca769e967.html
【筆者略歴】
有吉啓介(アリヨシ ケイスケ)
横浜国立大学経済学部国際経済学科卒。総合商社に30年以上勤め、約30ヶ国へ赴き多業種業態の企業へデジタルサービスを活かした業務改善に携わる。その間に欧米・東南アジアで駐在を経験。国内でも新規事業立上げ、新規商材開発、研修企画と人材育成を担う。2019年中小企業診断士登録。2021年に独立し、国際スペシャルアドバイザーとして官民を通じ企業の海外展開の支援に携わる。得意領域は事業戦略立案と販路開拓。東京都中小企業診断士協会中央支部執行委員(兼)国際部長