1.はじめに

近年は、気候変動の影響により、毎年のように全国各地で自然災害が頻発し、甚大な被害が発生しています。
安全・安心を確保し、国民の命と暮らしを守るため、災害リスクに対する脆弱性を克服することは待ったなしの課題であり、防災・減災が主流となる社会を構築することが必要不可欠になっています。事業を営む事業者も自然災害により事業停止に追い込まれる可能性を無視できなくなっています。
そのような中、2019年に防災・減災に取り組む中小企業がその取組内容(事前対策)をとりまとめた計画(名称:事業継続力強化計画)を国が認定する、事業継続力強化計画認定制度が創設されました。
事業継続力強化計画は、簡易版BCPと位置付けられており、令和6年9月末日時点で71,237件が認定されています。
計画には1社で作成する単独型と、複数の企業が連携して作成する連携型の2種類があります。連携型は、企業同士が連携することによって、さらに効果的な対策を立てることができる、という点が特徴になります。認定件数の内訳をみると、連携型の認定件数は、1,243件と全体の約1.7%と少ない印象です。今回は、連携型のポイントについてご紹介します。

 

2.連携事業継続力強化計画とは

事業継続力強化に当たっては、各企業が個別にリスクを洗い出し、対策を立てることも重要です。しかし、中には中小企業が単独で対応するのは難しかったり、思うように効果を上げられなかったりすることもあります。その場合は複数の企業が連携し、助け合って難局を乗り越えることを考えてみましょう。それが「連携事業継続力強化計画」で、災害時の相互協力体制を構築することに焦点が当てられています。
<連携型が効果的なケース>
・連携企業の協力を得ることで、被災した事業所や工場の早期復旧が可能になる。
・被災しなかった連携企業の工場で代替生産を行ったり、人員の応援を受けたりできる。
・集団で取り組むことで、外部業者や自治体・行政などへの発信力・交渉力が強化される。
・連携企業それぞれの類似対策を集約することで、物資等の確保が効率化する。
連携事業継続力強化計画を真に実効性のあるものとするには、連携して強化を行う企業が方針や理念を共有し、明確な方向性をもって計画の策定を行うことがポイントになります。
被災した場合のサプライチェーンや地域経済に対する影響や、従業員やその家族への責務などを具体的に検討します。その上で、何を目的に企業が連携しながら事業継続力の強化を図っていくかを明確化します。そうして連携事業者間での事業継続力強化に向け、意思統一を図ることが計画策定の第一歩になります。
<考えたいこと>
・果たすべき供給責任
・地域社会の安全確保
・災害協定の締結による災害ダメージの軽減
・顧客・取引先や地域経済に対する影響
・従業員やその家族に対する責務
・事業継続力強化に当たっての理念や基本的方針
・自社の企業理念や経営方針

<目的の具体例>
・医療品や燃料等、社会的な供給責任のある物を供給し続ける
・地域の顧客に生鮮食品や日用品を安定的に供給できるようにする
・観光業・小売業等では、来客者や顧客の安全を確保し、早期に安全な場所まで避難させる
・サプライチェーンを途絶させないよう、製品・サービスを供給する
・早期に事業を再開することで地域の雇用を守り、地域経済への影響を最小限に抑える

 

3.連携事業継続力強化計画のメリット

連携事業継続力強化計画では、事業者同士が連携することを通じて、自然災害発生時などの緊急時に現有の経営資源を補完し合うことが可能になり、以下のようなメリットがあります。
・類似対策集約による効率化により物資や場所等の確保が容易になる
・集団になることで、発信力・交渉力が強化される
・同時に被災しなかった会社での代替生産が可能となる
・事前対策のコストを抑えることができる
・地域経済を安定させることができる
また、事業継続力強化計画の認定制度では、主に4つの金融支援策が用意されています。
【日本政策金融公庫による低利融資】
設備投資に必要な資金について低利融資を受けることができます。
(融資の利用にあたっては、別途日本政策金融公庫の審査が必要となります。)
【信用保証枠の追加】
事業継続力強化計画の実行にあたり、民間金融機関から融資を受ける際、中小企業信用保険法の特例として、信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等とは別枠で追加保証や保証枠の拡大が受けられます。
【防災・減災設備への税制優遇】
認定された事業継続強化計画に従って取得した一定の設備等について取得価額の18%の特別償却が適用できます。適用期間は令和元年7月16日から令和7年3月31日までで、期間内に対象設備を取得または製作もしくは建設し、事業の用に供することが必要です。
【ものづくり補助金など、助成金の優遇措置】
認定を受けた事業者は、ものづくり補助金等の一部補助金において審査の際に加点を受けられます。
以上の税制優遇、金融支援、予算支援に加え、地方自治体等からの支援措置を受けられる場合もあります。

 

4.まとめ

地震や、台風、集中豪雨などによる自然災害から大切な従業員の生命や雇用を守り、経営を維持していくためには、事業継続力強化計画を策定するなど、事業者としての取り組みを強化していく必要があります。
平成23年3月地震(東北地方太平洋沖地震:東日本大震災)、平成28年4月地震(熊本地震)、記憶に新しい令和6年1月地震(能登半島地震)などの地震のほか、令和元年東日本台風(台風19号)、令和2年7月豪雨(熊本豪雨)、令和3年8月の大雨のように、近年、日本を襲う自然災害は、ますます広域に甚大な被害をもたらしています。
このような状況の中、1社1社の事業者が単独で講じることのできる対策には、自ずと限界があります。特に中小企業にとっては、製品やサービスの供給拠点を複数確保したり、余裕の要員や設備、資金などを抱えたりしておくのは、非常に難しいことです。また、自社が被災していなくても、調達先が被害を受けてしまえば、事業が止まってしまいます。
事業継続力強化計画の認定件数は年々増加しており、事業者単独の備えは進んできているように思います。まずは、個別の取り組みとして、単独の事業継続力強化計画を策定した後、次のステップとして連携事業継続力強化計画を策定してみてはいかがでしょうか。

【参考文献・資料】
事業継続力強化計画(中小企業強靱化支援)ポータルサイト
https://kyoujinnka.smrj.go.jp/

中小企業庁 事業継続力強化計画
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html

 

●略歴
■依田忠(ヨタ タダシ)
東京都中小企業診断士協会中央支部 執行委員・総務部副部長
認定経営革新等支援機関
中小企業診断士、ITコーディネーター、事業承継士
情報処理技術者(ITストラテジスト・プロジェクトマネージャ・DBスペシャリスト)
ISMS審査員、プライバシーマーク審査員
システム開発会社にて、DBエンジニアとしてWebアプリケーション開発に従事したのち、コンサルタントとして中小企業の経営改善に携わる。
現在は、経営にかかわるコンサルティングに加え、IT戦略策定や情報セキュリティ支援等の活動を行っている。