筆者は新規事業関係のご支援が好きで、よく携わらせていただいている。今回は、企業様に向けて、少なからず関心をお持ちと思われる新規事業の検討について、以下の順番でご紹介したい。

  1.  新規事業立ち上げニーズが増えている
  2. 企業が新規事業の検討を始めるきっかけ
  3. 新規事業アイデア創出のコツ3選
  4. 最後に

1.  新規事業立ち上げニーズが増えている
新規事業立ち上げのニーズが増えてきていると言われている。その背景として、IT技術の発展やビジネス環境変化による「顧客ニーズ変化の加速化」が挙げられる。実際に、製品ライフサイクルが短期化しており、流行が以前と比べて速いスピードで移り変わっていることは、読者の皆様も実感されていると思う。このように、以前と比べ、より変化が求められており、一つの商品・サービスを売り続けることがより困難になってきている。

2. 新規事業の検討を始めるきっかけ
では、企業は、どんな時に新規事業を検討しようと考えるのか。

一つ目は、「取引先から、こんなことできないか?と聞かれたとき」である。このケースは、ぜひ前向きに新規事業の着手を検討いただきたい。実際に商品化、サービス化したら買ってくれる見込み顧客がすでにいるということであある。顧客の声から生まれたサービスは強い。つまり、マーケットインの考え方である。

「事業承継の前後のタイミング」で新規事業を検討する企業も多い。後継者が、既存の事業とは別に、ご自身の代を代表する新しい事業の柱を作っていきたいと考える場合である。

慎重になった方がいいのは、「社長がやりたいことができたとき」、つまりプロダクトアウトのケースである。筆者は社長の思いは新規事業立ち上げに不可欠だと思っているが、そのアイデアが顧客の声と関係ない場合、そのまま進めてしまうと、商品・サービスの完成後に顧客が見つからず非常に苦労することが多い。見込顧客が見つからず、都度サービスを変更する必要が出てくることもあり、想定以上に資金がかかることもある。誰がお金を出して買ってくれるか、誰に必要とされている事業かを事前に明確にしてから進めることが大事である。

「既存事業がうまくいっていないとき」も新規事業を考えやすい。しかし、この場合は、実際に着手するかは慎重に判断した方がいい。既存事業の不調の原因が企業内部にある場合、新規事業もうまく立ち上がらないことがあるため、限られた資源を、新規事業ではなく既存事業のテコ入れに優先的に使った方がいいことも多い。もちろん、不調の原因が既存事業の明らかな市場縮小など外部環境にあり、新事業開発が必須な場合もある。まずは既存事業が不調である真因に向き合い、その結果次第で新規事業を検討した方がよいと考える。

3. 新規事業アイデア創出のコツ3選

上記を踏まえた上で、多数ある新規事業アイデア創出のコツのうち、今回は3つをご紹介したい。

  • 顧客の声から考える

すでに上記で説明したとおり、顧客の声から考えると筋がよい新規事業ができる可能性が高い。今までに顧客から寄せられた声を、ひっくり返してみていただきたい。新規事業のヒントを探そうと思うと、新規事業を意識する前には意識していなかった声が寄せられていることに気づくかもしれない。

もし現状、顧客の声が蓄積されていない場合は、今日からでもアンケートを取ったり、営業員がヒアリング結果を残すなど工夫を始めていただきたい。顧客の声は、新規事業だけではなく既存事業の商品やサービス改善にも活用できる「宝の山」である。

  • 世の中の変化から考える

世の中の変化も、新規事業アイデア創出のヒントとなる。新しい技術や風潮によりニーズが変化していく場合、新しく生まれるニーズに対応する事業が検討可能である。

例えば、感染症の拡大という世の中の変化があり、それに対して在宅需要が広がり、結果としてデリバリーやリモートワーク関連事業が伸びた。このように、まず、最近世の中で変わってきていることは何かを考える。そして、それに対して新しく生まれるニーズは何かを皆で話し合い、自社でできることを考えてみていただきたい。

  • 他社や海外事例を参考にする

他社や海外事例を参考にするのもよい方法である。誰も着手していないことを無理にゼロから生み出す必要はない。簡単に思いつくアイデアは、世界中の誰かが大体思いついている。それより、きちんと顧客ニーズがあり、自社が実現できるかの方が重要である。

例えば、同業他社のIR資料を見ると、既存事業の周辺領域のサービスを手掛けていたり、そのサービスの利益率が高いことが分かったりする。また、海外で流行った新しいサービスやビジネスモデルが数年後に日本で流行ることも多い。他社や海外の情報から、自社にできそうなものがあれば、検討してみていただきたい。

4.  最後に
今回取り上げたきっかけやアイデア創出のコツは一部にすぎない。また、アイデアが決まって形にするまでの進み方も各社によって千差万別である。仮に同じ事業を始めるとしても、最終的に各企業が目指す姿も持つリソースも異なるため、必要なプロセスや難易度が大きく変わってくるからである。

そのため、自社の思いや状況、強みや弱みをしっかりと把握いただいた上で、テーマや進め方を検討していただきたい。私たち中小企業診断士も、企業の個別状況を把握した上で、その状況に適した支援をしていくことを肝に銘じる必要がある。

筆者略歴
増澤祐子(マスザワ ユウコ)
京都大学大学院農学研究科卒
中小企業診断士
新卒で外資系コンサルティング会社に入社し、数々の業務改善に携わる。その後、食品系のベンチャー企業にて海外赴任を経験、国内でも新規事業やCS、物流など各部門での管理職経験を積む。
現在は中小企業診断士として独立。主に新規事業立ち上げ支援や、研修講師及びコーチングなど人材育成に携わる。得意領域は分析とプレゼンテーション。
一般社団法人東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員(総務部 副部長)