専門家コラム「新たな事業環境に即応した経営展開サポート事業(東京都中小企業振興公社)申請のポイント」(2024年9月)
今年4月から東京都中小企業振興公社で新しい補助事業が開始されている。今回は、当補助事業における申請のポイントについて説明したい。
当事業の目的は、「ポストコロナ等における事業環境の変化を課題と捉え、対応策として、事業者が創意工夫のもと、これまで営んできた事業の深化又は発展に取り組み、これが経営基盤の強化につながると認められた場合に必要な経費の一部を助成する」というものである。
コロナ禍においては、既存事業の他に新たな事業を展開する事業に対する補助金が多く存在していたが、コロナ収束による事業環境の変化に対応して、既存事業と関連した新たな事業を補助対象としている点に特徴がある。
当補助事業では、既存事業の「深化」と「発展」の取り組みが求められているが、それぞれ、紐解いていきたいと思う。
既存事業の「深化」とは、「経営基盤の強化に向け、既に営んでいる事業自体の質を高めるための取組」と説明されている。
例として、①高性能な機器、設備の導入等による競争力強化の取組、②既存の商品やサービス等の品質向上の取組、③高効率機器・省エネ機器の導入等による生産性の向上の取組、等が挙げられている。
また、既存事業の「発展」とは、「経営基盤の強化に向け、既に営んでいる事業を基に、新たな事業展開を図る取組」と説明されている。
例として、①新たな商品、サービスの開発、②商品、サービスの新たな提供方法の導入、③その他、既存事業で得た知見に基づく新たな取組、等が挙げられている。
【補助事業の内容】
1.助成対象額:800万円(助成率3分の2以内)
2.助成対象経費:①原材料・副資材費、②機械装置・工具備品費、③委託・外注費、④産業財産権出願・導入費、⑤規格等認証・登録費、⑥設備等導入費、⑦システム等導入費、⑧専門家指導費、⑨不動産賃借料、⑩販売促進費、⑪その他経費
経費は、当補助事業に関わるものに限定されるものの、幅広い経費が対象となるため、利用しやすいと思われる。
3.申請期間:今年度は第1回から第12回まで予定されており、毎月申請締切日が設けられている。そのため、比較的申請しやすいと思われる。
4.審査の流れ:①jGrantsを利用して申請を行う。②書類審査が行われる。③書類審査の結果が通知される。④面接審査が行われる。(書類審査を通過した事業者のみ)、⑤当補助金の採否が通知される。
このように書類審査と面接審査が行われるため、事業者が自ら計画を策定する必要がある。
5.申請要件:申請要件の詳細については、募集要項を確認いただきたいが、その中でも重要な要件について、説明したい。
要件の1つとして、業績が不振であることが挙げられている。具体的には、①直近決算期の売上高が「2019年の決算期以降のいずれかの決算期」と比較して減少していること、②直近決算期において損失を計上していること。(損失については、法人の場合は営業利益がマイナスであること、個人事業主(青色申告)の場合は、差引差額㉝がマイナスであること。)上記①又は②を満たす必要がある。
また、令和6年7月1日時点で、法人の場合は、本店の登記が都内にあることが必要(実施場所が都内の場合は、支店の登記でも可)。個人事業者は、納税地が都内にあることが必要である。
6.実施場所:実施場所が東京都内の場合は、令和6年7月1日時点で、東京都内に登記簿上の本店又は支店があることが必要である。また、実施場所が東京都外(神奈川県、埼玉県、千葉県、群馬県、栃木県、茨城県、山梨県に所在すること)の場合は、令和6年7月1日時点で東京都内に登記簿上の本店があることが必要である。
【申請における留意点】
当補助金の申請は、jGrantsを利用した電子申請で行う必要がある。また、jGrantsを利用するためには、GビズID(プライムアカウント)を取得する必要があるため、申請の前に準備しておく必要がある。
また、実際の申請書は、大きく、①申請者情報、②事業計画、③経費明細に区分される。
①と③は、記入例を参考にしながら入力すればよいが、②の事業計画は、その内容が採択の可否に大きく影響するため、記載内容について熟考する必要がある。
②の事業計画は、①環境分析、②既存事業の内容、③計画の取組内容、④効果、⑤実施体制、⑥収益計画、⑦市場動向、⑧創意工夫、等の要素を記入する必要がある。そのため、既存事業と当計画の関連性、当事業にとって機会となる市場、顧客ニーズの抽出、収益計画の根拠などを論理的に組み立てる必要がある。
申請の際には、基本的には専用サイトに入力することになるが、必要書類(申請書、納税証明書等)はデータをアップロードする必要があるため、申請入力の際に、予めPDF等のデータを作成し、保存しておくとスムーズに申請することができる。
以上。
略歴
永井謙一
中小企業診断士
経営革新等認定支援機関(ID:106213004010)
中央支部 経理部副部長