1.カーボンニュートラルとは?
 異常気象による夏の猛暑や大雨による洪水、農作物や漁獲量への影響など、皆さんも地球温暖化の影響を身近に感じているのではないでしょうか。温暖化による気候変動を防ぐために重要なのが、カーボンニュートラルの実現です。カーボンニュートラルは単なる流行ではなく世界的な大きな流れであり、子供や孫、さらに子孫のために住みやすい地球にするための活動です。
 カーボンニュートラルは、CO₂(二酸化炭素)をはじめとする温室効果ガスの「排出量」の削減と植林や技術開発などによる「吸収量」を増加させて実質的にCO₂排出量をゼロにすることを意味します。世界の120以上の国と地域が2050年までの実現を目指して取組みを始めています。
 日本でも2050年カーボンニュートラル実現を目指すことを宣言し、2030年度にはCO₂排出量を2013年度比46%削減することを目指しています。

2.中小企業に影響はあるの?
 日常生活の中でCO₂排出量を意識することはないと思いますが、CO₂排出量は、活動量(生産量・使用量・焼却量)×CO₂排出係数で計算することができます。例えば、電気によるCO₂排出量は、電気料金の明細書に書かれている電気使用量に電力事業者のCO₂排出係数を掛けることで求めることができます。電気などのエネルギーの使用量が大きいほどたくさんのCO₂を排出していることになります。CO₂排出量を削減するカーボンニュートラルの活動は大きな工場を持つ大手製造業だけが実施すればいいのではないか、中小企業は関係ない、と思われる方もいるかもしれません。
 まず、カーボンニュートラルは利用するエネルギーを減らす活動なので、省エネ活動によるエネルギーコスト削減の効果があります。これはあまりお金をかけずにすぐに着手して効果をあげることができます。
 カーボンニュートラルに早期に取組んだ場合と、取組まなかった場合では、中長期でみると利益面で大きな差がついてきます。(図1)*1。
 カーボンニュートラル対応企業A社では、環境対応への初期投資が重い負担になっています。補助金や低金利投資を通じて負担軽減できる可能性もあります。環境対応で先手を打ったことで、業務効率化やコスト削減を実現し、次第に収益性が改善していきます。カーボンニュートラル対応の規制が強化されることで、企業/製品の競争力が向上して、市場でのシャア拡大にもつながります。
 一方、カーボンニュートラル非対応企業B社では、環境対応が遅れることでエネルギーコストの高騰等の影響を受けて次第に収益性が悪化していきます。さらに、カーボンニュートラル対応の規制が強化され、他社との比較等で市場での競争力を失っていきます。
 このように、カーボンニュートラルの対応が遅れれば遅れるほどデメリットは多くなる可能性があります。
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図1 カーボンニュートラル対応の規制強化(製造業向けカーボンニュートラル達成に向けての手引き書*1)

 また、大手企業との取引をしている場合には、取引先からのカーボンニュートラルへの取組要請を受ける可能性があります。大手企業では、自社内の直接的なCO₂排出量だけでなく、サプライチェーンの間接的な排出も対象としたサプライチェーン排出量を削減する動きがあるためです。この動きはイオンなど製造業以外の業種でも始まっています。そのため、カーボンニュートラルの取組みをしていないために取引先から排除されるリスクが考えられます。
 さらに、カーボンンユートラルの取組みを入札の加点とする動きも始まっています。建設業では国土交通省のいくつかの地方整備局や東京都水道局では、カーボンンユートラルの国際的イニシアティブであるSBTの中小企業向けSBT認定(中小企業SBTについては後述)が入札加点項目となっています。カーボンニュートラルは政府として推進する取組みとなっており、他の国や自治体での入札にカーボンニュートラルの活動が加点される動きが広がっていく可能性があります。

3.中小企業ではカーボンニュートラルをどうやって進めればいいの?
 中小企業がカーボンニュートラルに取組むためにはどのように進めていけばいいのでしょうか。
 カーボンニュートラルの取組は、取引先とも係わってくるので。経営層や事業所のトップなどが中心となり、全社一丸となってCO₂排出量削減を行っていくための組織・人的体制を整えて計画的に活動していくべき項目です。
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4.カーボンニュートラルの活動はどうアピールしたらいいの?
 カーボンニュートラルの取組は、SDGsでの「目標 7:すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代エネルギーへのアクセスを確保する」、「目標13:気候変動およびその影響を軽減するための緊急対策を講じる」にも関係します。カーボンニュートラルの取組はSDGsの取組と合わせて推進していくこともできます。
 これらの取組をプレスリリースや自社のWEBでの紹介、会社案内や環境経営レポートのような形で紹介することで社内だけでなく取引先や金融機関などにも自社のカーボンニュートラルの取組をアピールすることができます。他社に先行してカーボンニュートラルの取組を始めてアピールすることで、地域でも話題になり、新しい取引先や人材の獲得にもつながっていきます。
 また、国際的なイニシアティブに参加する、ということもアピールにつながります。SBT(Science Based Targets)は、企業が設定する温室効果ガスの排出削減目標のことで、目標数値は、パリ協定が求める水準と整合したものです。SBT認証とは、パリ協定と整合性のある温室効果ガス排出削減目標を立てていることを示す国際認証です。CO₂排出量、従業員数や売上など複数の条件を満たす企業が参加できる中小企業向けSBTがあります(2024年1月1日から条件が変更となっています)。日本でも601社(うち中小企業向け435社)がSBTの認定を受けています(2023年9月30日現在)。

 世界でも取組が進んでいるカーボンニュートラル。政府も自治体も取組を進めており、中小企業でも遅かれ早かれカーボンニュートラルの取組が必要となってきます。どうせ始めるなら今。早く始めるべきです。早く始めることで、経験を積むこともできますし、他からの十分な支援も受けられ、早くカーボンニュートラル取組での成果を上げることで注目度も上がります。
 カーボンニュートラルへの取組についてのご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問合せください。カーボンニュートラルによる経営的メリットを一緒に考えて取組をはじめてみませんか。

*1 製造業向けカーボンニュートラル達成に向けての手引き書
https://www.chubu.meti.go.jp/d12cn/data/guidance.pdf

【プロフィール】
 高鹿 初子(こうろく はつこ)
 中小企業診断士、技術士(総合技術監理部門・情報工学部門)、情報処理技術者(システムアナリスト)
 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部副支部長
 東京都中小企業診断士協会 エコステージ実務研究会で国内外の環境に関する取組を調査し、中小企業が環境経営に取り組むための手法、事例を研究。
 中小企業基盤整備機構 経営支援アドバイザー(カーボンニュートラル担当)