専門家コラム「人が心をひらく効果的な聴き方」(2023年8月)
0.序章
私は経営改革のために、延べ2000人以上にインタビューをしてきました。そのなかで気づいたことがあります。人は誰かに話を聴いてほしいのだと。人は意外に真剣に人の話を聴いていないのです。一番よくないのは「から返事」。テレビやスマホを見ながら「うんうん」と言っていると、後から「あのときあなたはOKしたじゃない!」と大問題に発展します。
人の心の深層に気づけは、本心で言っていないなということがすぐにわかり、誤解を防ぐことができます。経営改革・改善のためのこの手法について書き起こします。
1. 人の意見を聴いてみよう
まず、人の意見を聴くためにはこちらが聞く姿勢にならなければなりません。話の腰を折ったり、説教をしたりしてしまうのはやめましょう!
人の話を聴くのは忍耐が必要です。最後まで聴けるかどうかで、人が自分を信頼してくれるかどうかが決まります。わかりにくい話は「○○という理解で合っていますか」と確認を求めることで、対応できます。合っていれば「そうです」、違っていれば別の言い方を相手がしてくれるからです。
聴くことで得られるのは下記の5点です。
• 現場の状況
• 働く人の価値観
• 自社の改善点
• コミュニケーション
• 信頼関係
耳の痛い話を受け入れられるかが今後の改善・改革の成功にかかってきます。
話を聴いたうえで改善できるものとそうでないものに分けます。そして下記の2点の対応をします
• 根拠のある相談・提案→経営改善に活かす
• その人だけの意見→参考にとどめる
インタビューをして終わりでは意味がないということです。
インタビューでは信頼関係がものをいいます。話す人と「共感」ができていれば、インタビューがスムーズになります。「共感」は大義名分でなくても問題ありません。「コーヒーが好き」「タレントの○○さんが好き」「金曜日定時後のワクワク感がたまらない」など、相手と自分の共通点を探します。一緒あるいは近いものがあれば、まずそこから盛り上げてからインタビューに入ると話しやすくなります。
ただし、論理的で決断力があり、早く言いたい、言いたいことが山ほどあるという人にはすぐに話を聴いた方がよいでしょう。状況を見て柔軟に対応することが大切です。
2.1対1で話を聴く
経営改革・改善のインタビューは、日ごろの人間関係がものを言います。誰かと一緒だと人に気を使って話しにくくなるため、1対1で対話します。
インタビューは普段から双方向コミュニケーションがとれていることが前提です。できるだけ、対話は普段からしておくとよいでしょう。雑談も効果的です。ただ、個人のプライバシーに踏み込むのはやめましょう。趣味や季節の着るもの、イベントなどの話だと盛り上がるうえに個人情報も守られておすすめです。
インタビューは下記の2点に成否がかかっています。
• 普段から気にかけているか
• 必要以上に気にかけ過ぎていないか
この2点は相反するように見えますが、人との程よい距離感を置くうえで大切です。特に男性から女性にインタビューする場合、必要以上に距離を詰めすぎてしまうと、セクハラと認定されることもあります。
さて、「聞く」と「聴く」の違いを説明できますか。「聞く」は聞こえる、つまり意識してなくて聞こえるということです。「聴く」は相手に意識を向けて全力で集中して聴いている状態のことです。いつものスタッフとの会話はどちらでしょうか。
聴く側の視点にも注意が必要です。きちんと相手の目を見て話すことで信頼されます。そっぽを向いて聴いてもそれは、相手にされていないという印象しか与えません。医師が電子カルテの入力に夢中で患者を見ていない場合、患者からクレームになることが多いです。つまり、見て聴いてほしいのです。
聴く側の姿勢も大切です。体を相手に向けて聴けば、真剣に聴いてもらえていると安心されます。
聴く視点、聴く姿勢のお手本の事例があります。1987年日本シリーズ第6戦9回表2アウトで一塁手の清原氏が泣いてしまいます。そのとき、二塁手の辻氏は二塁手にもかかわらず、わざわざ清原氏の左側に。体を清原氏に向け、目を見て肩をたたいて励まします。この姿勢こそ、人に寄り添う優しさそのものです。人の左側は右脳をつかさどるので、感情に働きかけるときには最適なポジション。無意識にしていたとすれば、辻氏は人心掌握の達人と言えるでしょう。
インタビューではここまででなくてよいので、人の目を見て体を向けるようにしましょう。
3.事例
私が実際に経験した事例を挙げます。A病院は地方病院で赤字を抱えていました。経営者は理事長ですが、実際には事務長が実権をもってます。この事務長はパワハラ気味とのこと。実際に話をしてみましたが、実権を持っているだけあって、かなりの強気でした。経営改革を行う私にはなかなか心を開かないという状況。
インタビューを試みてもなかなか本音が出てきません。さて、私はどうしたでしょうか。
事務長は礼儀正しさも併せ持っていたので、帰りに見送りに出てくれます。そのとき、私は「あなたもいろいろ大変ですね」とねぎらったのです。すると、今までの険しい顔が嘘のようにやわらぎます。自分のことを理解してくれようとしているというのが伝わったからです。事務長が当時見ていた医療ドラマの話をしてきたので、タクシーが来るまで私もそれにのり盛り上げました。こちらはさきほど述べた「共感」にあたります。「共感」ができたその次の訪問から1対1の時に限って本音を話してくれるようになりました。経営改革がうまくいったのは、この雑談のおかげではないかと思っています。
相手のことをわかろうという姿勢が、人の心をひらくポイントです。
4.最後に
人の心をひらくには、聴く側の意識・視線・姿勢がとても大切です。相手を完全に理解することは難しいですが、それでも理解しようとする姿勢を見せることが大切。こちらができていれば、よほどの人でない限り、話をしてくれます。そのためにも、最後まで聴く辛抱強さは持ち合わせていたいところ。人をそのまま受け入れるという大きな器もあると、より話しやすくなります。
人の心をひらくのは自分の心もひらいていなければなりません。普段からコミュニケーションとるようにしましょう。インタビューで目的を事前に話しておくとゴールが見えやすくなります。
まずは、スタッフと話し合ってみませんか。
【筆者略歴】
星 多絵子
病院の受付・レセプト点検から一般企業の経理、社会福法人での内部統制、会計事務所でのコンサルティングを経て、独立開業。医療・介護・福祉業界のコンサルティングをメインとして活動している。
中央支部of the year受賞2回。執行委員。広報部長。広報での写真撮影も行う。