専門家コラム「「チャレンジ」するときこそ「振り返り」をしよう ~現状把握の重要性について~」(2022年10月)
はじめに
新型コロナウイルス感染症の影響が想像以上に長期化する中、経営者の皆さまには「既存事業以外にも収益の柱になる新しい事業に取り組まなければならないのでは?」と思われる方もいらっしゃることでしょう。
確かに、新型コロナウイルス感染症の影響の有無にかかわらず、新規事業に取り組んで会社を大きくしていったり、経営の安定化を図ったりすることは経営者の務めの一つとして大切な役割でもあります。
そんな「チャレンジ」を進めていく決断をしたときこそ、今の状況やそこに至った経緯などを慎重に整理する「振り返り」を行うことで現状を把握することが大切であることを、このコラムでお伝えできたらと思います。
何故振り返りが必要なのか
① 同じ轍を踏まないようにするため
新規事業へのチャレンジは、大きく分けて企業が成長を続け積極的に拡大路線を取っている場合と、既存事業の見通しが厳しいために生き残りをかけて参入していく場合があると考えられます。
特に後者の場合、業績確保という大きなテーマがある中ではチャレンジを急がなければならないという事情も考えられますが、何故新規事業にチャレンジしなければならないのか、その原因には既存事業の低迷があることを認識しなければなりません。
既存事業が低迷してしまったことには必ず原因があるはずです。それが外的な要因か、内的な要因かは企業によって様々ですし、このたびの新型コロナウイルス感染症や自然災害などの不可抗力によるものかもしれません。
これらの原因を究明したうえでリスクへの対策を立て、新規事業へ取り組む道筋を立てていかないと、折角のチャレンジが過去と同じような原因で頓挫してしまう危険性が増すことにもなりますので、振り返りは必要だと考えられます。
② 新規事業を円滑にスタートさせるため
新規事業に取り組むことは、企業にとって大きな負担を伴うことにもなってきます。社運をかけたチャレンジを既存事業の片手間で取り組むということもなく、多くの場合はプロジェクトチームを組んで当たるでしょうし、資金や設備の投入を余儀なくされることも大抵のケースで生じることでしょう。
その中で、人材や資金を注ぎ込んで新規事業にチャレンジすることでどれだけの経営資源を投入することが可能であるのか、現状を把握しておかないと取り返しの付かない損失を被るリスクがあることも意識するべきです。
新規事業へのチャレンジのため、既存事業から切り離してどれだけのリソースを確保できるのか、その限度を明確にするためにも振り返りは必要で、新規事業を円滑にスタートさせるための前提になるといえます。
③ 既存事業と新規事業の相乗効果を高めるため
新規事業の内容には既存事業と関連性があることもあります。顧客ターゲットが重なることも考えられますし、これまで蓄積してきたノウハウや情報を新規事業でも活用できることも多いでしょう。チャレンジの結果得られる成果に関しても新規事業と既存事業を完全に切り離すことが難しい場合も多いと考えられます。
このようなときも、予め振り返りをしておくことで効果的な営業活動を進めていくことが可能になると思われますし、限られた人材や資金を無駄なく効率的に投入することができるものと考えられます。
事業規模は拡大すれば良いというものではなく、規模拡大に効率性が伴うことで初めて効果が生まれてくることになります。これまで積み上げてきた大切な経営資源を無駄にしないためにも、新規事業へのチャレンジの際には振り返りが必要だと考えられます。
④ 補助金申請などの採択可能性を高めるため
新規事業へのチャレンジでは、補助金申請をして採択されることでコストを抑えようとする企業も数多くあるものと思われます。補助金の申請には手間もかかりますが、金銭的メリットに加えて自社の事業計画を見直す機会にもつながりますので、積極的に活用を検討するべきでしょう。しかし、その際にも振り返りは重要で、補助金採択に向けてのポイントにもなってきます。
何故なら、多くの補助金では自社にとっての新規性や革新性を持った取り組みに対してかかる設備投資や経費について補助を行うものですが、補助金申請にあたっての事業計画書では何故その取り組みが必要になるか具体的な内容の記載が求められます。
その、何故その取り組みが必要になるかの前提として、現状の企業における課題の抽出が明確にできていないと、具体的取り組み内容に妥当性や実現可能性が伴ったものになりづらく、審査員からの評価を受けにくくなってしまうことが考えられるからです。
これまでの振り返りからしっかり現状分析を行って課題の抽出と解決の方向性を示し、市場の動向やニーズも踏まえながら、企業・顧客・社会に効果を生み出せる可能性が高い取り組みを進めることができることを提示することが、補助金採択の可能性を高めることにもつながります。
最後に
以上、ここまで振り返りをして現状を把握することが大切な理由をお話しさせていただきました。実際のビジネスシーンでは成果を獲得することが大切ですので、なかなか過去を振り返りながら計画を立てていく余裕がないとも思われます。
しかし、振り返りをすることで新たな気付きや取り組みが生まれてくることもありますので、時には一歩立ち止まってみることも意識していただけると幸甚です。
●略歴
■中川 健史
T4代表
中小企業診断士 認定経営革新等支援機関
唎酒師(ききざけし)、フードコーディネーター2級
民間会社や会計事務所で15年以上経理、財務、税務面の実務経験を持ち、会計回りを得意とする。2015年に中小企業診断士の資格取得と同時に独立してからは、小規模・零細事業者に対する経営・融資の相談や事業計画の策定、創業支援業務を中心に活動しており、小規模事業経営者様の目線に立った意識を忘れることのないような支援活動を心掛けている。