専門家コラム「2023年は日本ASEAN友好協力50周年!今後のASEANビジネスの可能性」(2022年10月)
1973年以来、目覚ましい経済発展を遂げてきた日本とASEAN(東南アジア諸国連合)の関係は、2023年に友好協力50周年を迎えます。1973年以来、日本とASEANの関係は目覚ましい発展を遂げてきました。日本とASEANとの間の人的交流は、「心と心のパートナー」と呼ばれる強固なパートナーシップの基盤となり、アジア太平洋地域の平和と安定、発展と繁栄のために緊密な協力関係を築いてきました。
2023年には日ASEAN特別首脳会議を日本で開催し、日ASEAN関係を新たな段階に引き上げる方針です。2021年10月の日ASEAN首脳会議で岸田内閣総理大臣は、その意思を表明し、多くのASEAN諸国首脳から歓迎されました。2023年の日ASEAN特別首脳会議においては、これまでの日ASEAN関係を総括した上で、将来を見据えた日ASEAN関係の新たな方向性を打ち出すための成果文書の採択等を想定されています。今後、関係がますます密接になるASEANとの関係について取り上げます。
1.ASEAN(Association of Southeast Asian Nations/東南アジア諸国連合)とは
ASEANとは、東南アジア地域の国々が加盟する地域協力機構です。1967年8月に「ASEAN設立宣言(バンコク宣言)」に基づき、地域の平和と安定や経済成長の促進を目的として設立されました。当初の加盟国は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5カ国でしたが、その後、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー及びカンボジアが順次加盟し、現在は10カ国で構成されています。東ティモールは、現在オブザーバーとして加盟審議中です。
ASEANの最高意思決定機関は、首脳会議「ASEANサミット」です。また、ASEANでは分野別の閣僚会議や委員会も開かれ、一年を通し様々な分野において、政策協議が行われています。
ASEAN事務局はインドネシアのジャカルタに設置されており、機構内の会議・委員会等の調整・効率化を担い、様々な事業を実施しています。
民族のみならず、宗教、言語、文化も異なり、政治体制、経済水準が各国で異なります。加盟国それぞれの事情や価値観が異なるので、他国に干渉しない、極めて緩いつながりですが、この緩さが国家間の対立を避け、チームワークを強める秘訣になっています。
2.ASEAN巨大市場について
東南アジアの主要都市を歩くと、高層ビルや鉄道など建設中のインフラ施設をあちらこちらで目にします。東南アジアのASEAN諸国は、労働力人口の増加と、インフラ資本の蓄積、人的資本の向上を通じて、生産性向上の恩恵が今後も見込まれています。
ASEANの人口は、世界人口の1割弱となる 6.6 億人を占め、2030年には 7.3 億人にまで増加する予測もあります。
ASEAN 人口の約9割を占める主要5カ国(ASEAN5)の労働力人口は、2030 年に3.3 億人まで増加する見込みです。
ASEANの経済成長は著しく、実質経済規模は1970年の約2,100億ドルから新型コロナ前の2019年にかけては、約2億9,800億ドルと約14.2倍に拡大しました。実質所得は約6倍に増加しています。
東南アジアの年平均の経済成長率は5.6%と極めて高い成長を続けています。域内外の自由貿易も進んでいるので、さらなる市場拡大が、今後とも期待されます。
3.ASEANの経済回復動向
ASEAN各国とも、ワクチン接種が進んでおり、感染状況はピークを過ぎ、落ち着いてきています。これを受けて 2021年10 月以降、各国は行動制限の緩和を進めています。今後は、国内の経済活動が活発化するとともに、ASEAN国内外の移動も本格化することが期待されています。
最も回復が早いのは、世界的に需要が底堅い電子機器を中心とした製造業で、マレーシアやベトナムの景気回復が予測されています。また、資源への需要の高まりもあり、インドネシアの資源関係も堅調となると思われます。一方、タイは自動車産業が中心の製造業のため、世界的な半導体不足から回復が遅くなることも懸念されています。フィリピンは、コールセンターを中心としたビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業は成長を後押しすると思われます。
ASEANは入国規制の緩和を進め、コロナ禍で途絶えていた観光客を取り戻しつつありますが、ASEANの観光産業は2023年半ばにかけて回復が進み、景気を下支えすると見込まれます。観光産業の強いタイの景気回復スピードはそれまで緩やかなものにとどまると予想されています。
4.東アジア地域包括的経済連携(RCEP)とは
RCEPとは「東アジア地域包括的経済連携」と呼ばれる、日本・中国・韓国・ASEAN10ヵ国に、オーストラリアとニュージーランドを加えた15カ国が参加している、自由貿易の協定ですRCEPの加盟国は、ASEAN加盟国とそのFTAパートナー国からなる15ヵ国で、具体的な国名は以下です。
<ASEAN加盟10ヵ国>
ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム
<ASEANのFTAパートナー5ヵ国>
オーストラリア、中国、日本、ニュージーランド、韓国
RCEPでは農林水産品や工業製品などへの関税の減免に加え、輸出入の手続きの簡素化、サービスや投資のルールなどさまざまな分野について定められており、参加国全体での関税の撤廃率は品目数で見ると91%となっています。これは撤廃率の品目数が99%以上のTPPなど他のFTAと比較するとやや低い数値と言えます。
日本政府の試算では、関税撤廃・削減を受けて輸出拡大などが進み、日本の実質GDP(国内総生産)が約15兆円押し上げられる見込みです。自動車部品など工業分野を中心に全体の関税撤廃率は91%(品目ベース)に上り、国内自動車産業には追い風となることが見込まれています。
5.海外ビジネス投資支援室の設置
国内の中小・中堅企業の海外進出を支援するため、内閣官房に「海外ビジネス投資支援室」の設置が2022年8月1日発表されました。
支援室の職員は経済産業省や総務省などの省庁や政府系機関からの出向者で構成されます。支援室が間に入って各組織と企業のやりとりを調整し、職員が全国各地の有力な地場企業などから課題や必要な支援策を聞き取ることで、最適な支援を受けられるようにする計画です。
少子高齢化や人口減少で国内市場は縮小しており、海外での事業展開を検討する中小・中堅企業が多い中で、政府はそうした企業の収益力を高め、研究開発の進展や賃上げにつなげる方針です。
6.新型コロナ後の景気回復には、ASEANに目が離せない
世界最大のFTAであるRCEPの中心にASEANが位置付けられていることから市場として東南アジアの重要性が高まっています。上述の通り、ASEANの経済成長は、今後とも続く見通しです。国としても海外ビジネス投資支援室の設置など、海外進出に力を入れる方針です。新型コロナ後の景気回復のために、ASEANとの関わりは、今後も目が離せません。
【略歴】
土佐林義孝
東京都大田区出身。2019年中小企業診断士登録。東京都中小企業診断士協会中央支部、国際部に所属。機械の総合商社に入社以来,英語と中国語の語学力を活かし営業職として東アジア、東南アジアを中心に機械設備輸出入貿易取引、その他、展示会を活用した新規取引先開拓営業に従事。