1.経験学習とは?
経験学習とは、単に経験して終えるだけでなく、その経験を「事実」「感情」「目的」などの切り口から細かく振り返り、そこから抽出される「知恵」を他に転用していくための学びのプロセスで、デイビッド・コルブ氏などにより提唱されています。

 コルブ氏の研究では、ビジネスパーソン数百名に「今までの仕事を振り返り、自分の成長につながったと思うのは、どのような事柄ですか?」とアンケートしたところ、次のような結果が出ました。
 ・ 70% 仕事にタスクに取り組む
 ・ 20% フィードバックを受ける
 ・ 10% 読書や研修を受ける

 ここから、仕事経験から学びを増やしていくことが、社員の成長にとても重要だということが分かります。

 「経験学習」は、この仕事経験からの学びを加速していくためのプロセスです。

 特に、新型コロナウィルスの影響でテレワークを多く導入したことにより、若手社員の仕事経験量が減ってしまったという方も多いかと思います。
 そうした状況こそ、経験学習を反復することが大切です。

2.経験学習ではどのような学びのプロセスを経るのか。
 経験学習を進めていくためには、「仕事経験」⇒「内省」⇒「概念化」⇒「実践」のサイクルを繰り返しまわしていくことが基本となります。

20220102_Fig01

 「仕事経験」は、実際の業務にあたっていることそのものになります。
 とはいえ、単に仕事をさせるのではなく、仕事を渡す際に「目的」や「期待」などを伝えることで、その後の「内省」を進めやすくしていくことが大切です。

 「内省」では、仕事の切れ間で振り返りをしていきます。
例えば、
 ・ 4半期のタイミング
 ・ プロジェクトの終了時
 ・ トラブル処理の終了時
などは絶好の内省タイミングです。

 内省を進め方としては、「時系列で起きた出来事」、「感情の起伏」を書き出し、感情が動いた理由、背景、アクションを取った理由を詳細に上げていき、感情が動くポイントや言動の傾向理解を深めていきます。

 「概念化」では、内省で明らかにした感情の動くポイント、言動の傾向などをもとに、次に同じ成果を出したり、同じようなミスを起こさないために必要なアクション、考え方を「知恵」として自分の中に作りあげていきます。
 ここで大切なのは、「他の仕事に転用するとどのようなことが考えられるか?」という着眼点を持って考えていくことです。
 特に、内省⇒概念化は一人で行うよりも複数人で行い壁打ちしながら進めていくことが有用です。

 「実践」では、「概念化」で出していったアクションや考え方を次の仕事に適用していきます。

 この経験学習サイクルでは、1度回して完璧を目指すのではなく、何度も反復していくことで、自身の仕事の精度を上げていくことが大切です。
 何よりも、単に仕事の完了で終わらせずに振り返るというプロセスを身に付けることが最も重要になります。

 人材の育成においては、自ら成長してくれることほど効果的かつ効率的なことはありません。
 経験学習の考え方を活用して、ぜひ社員の育成を進めていただければ幸いです。

略歴
齋藤司昂(さいとう かずたか)
経済産業大臣登録 中小企業診断士
区役所、一部上場 総合コンサルティングファームを経て、現在は企業研修講師として従事。研修講師登壇や研修プログラムの企画・設計、社内プロジェクトなどを推進している。