専門家コラム「中小小売業におけるPOSデータの活用方法」(2020年2月)
1.概要
スーパーやコンビニエンスストア、家電量販店等、いまやPOSレジでの支払いを経験したことのない人は希少かもしれない。しかし、中小小売企業においてはまだPOSレジを導入していない企業が多い。たとえPOSレジを導入していても、十分使いこなせていない場合も散見される。
今回はPOSレジ導入によるデータ分析の留意点についてお伝えしたい。
2.POSレジとは
POSとは、Point Of Sale system の略(販売時点情報管理)であり、物品販売の売上実績を単品単位で集計することである。この情報に単価を組み込み、レジスターと連動したものがPOSレジである。
POSレジ導入の先駆的小売業はコンビニエンスストアであろう。コンビニエンスストアをはじめとする、小売業のフランチャイズチェーンにとって、POSレジは無くてはならない存在となっている。
POSレジの仕組みは大きく、本部機能と店舗機能に分かれる。本部では、商品マスタを一元管理するとともに、各店舗からの売上をリアルタイムで集計する。店舗は、バーコードリーダーによって商品を読み取り、精算処理を行う。
本部にとっては、各店舗の売上、商品の動きをリアルタイムに把握し、市況を分析することで、より効果的な購買に繋げることができるというメリットがある。
店舗にとってのメリットは主に以下となる。
■ 店舗オペレーションの効率化
オペミス防止
だれでも取り扱い可能(現金を任せられる)
集計(レジ締め)効率化
多店舗情報集計可能
■ 運営状況の把握
いつ買ったか(購入日時)
どこで買ったか(購入店舗名・購入レジ)
何を買ったか(購入商品名)
いくつ買ったか(購入数量)
いくらで買ったか(購入売価)
何を一緒に買ったか(同時購入品)
様々な切り口での分析が可能なPOSデータだが、中小小売企業においては十分な活用が出来ていない場合も多い。POSデータを導入している中小小売業の多くは、精算業務の効率化(レジ打ち、レジ締め)がPOSレジの活用方法であり、データ分析に至っていない。データ分析を行っていたとしても、過去データとの比較(前年比、前月比等)にとどまり、新たな店舗運営機会の創出には至っていない場合が多い。
3.POSデータ分析のバリエーション
POSデータには多くの活用方法があるのだが、ここでは比較的効果を出しやすい活用方法を紹介する。
3.1 商品のラインナップ検討
クロスABC分析・・・商品を販売金額、粗利金額によって9つにグルーピングし、売れ筋、死筋を把握。今後の商品仕入れを検討する
3.2 ゾーニング検討
集合分析・・・顧客の併売状況から、販売機会を探る。
3.3 他店比較によるプロモーション検討
PI値分析(Purchase Index)・・・レシート1000枚当たりの商品購入率。他店舗の状況を参考に、自店舗のプロモーションを再検討する。
4.POSデータの今後
POSデータは購買時に、消費者の属性(年代、性別等)を店員が想定してレジスターに登録する。そのため、顧客情報の精度が低いというデメリットがある。現在は個人属性を正確に把握するID-POSが主流となっている。
ID-POSとは、会員証による個人特定や、キャッシュレス決済による個人属性の把握と、購買特性を合わせてもち、より詳細なデータ分析を可能にするものである。従来の購買記録と、詳細な個人情報を連動することで、より正確な購買特性を分析することでき、サステナビリティ(持続可能性)を意識した店舗運営が可能となる。
5.ID-POSの留意事項
様々な分析を可能にするID-POSであるが、落とし穴もある。例えば以下のような傾向を把握する必要がある。
① 繁華街立地の場合はカード利用が少ない場合が多い
→ 一見さんが多い地域では個人情報の特定は難しい
② 一般的に女性の方がカード保有率は高い
→ 実店舗の客層と購買者の属性が異なる可能性がある
③ ファミリーカードとして利用されている場合がある
→ ある時は父、ある時は子供が購入時に提示することで、個人の嗜好性が特定しづらい
④ チェリーピッカーの存在(特売目玉商品狙い)
→ 特価品販売している場合、顧客分析のノイズとなる可能性がある
中小小売業は、店舗運営にデータを活用するにあたり、これらの事象を踏まえ、どこまで情報武装するのかを検討する必要がある。
【略歴】
清水康裕
清水経営工学化支援事務所 代表
シンクタンク、外資系コンサルファームにて大企業に向けたコンサルティング業務に従事した経験を踏まえ、2018年に独立開業