専門家コラム「中小企業強靱化法をきっかけとした災害に強い企業づくり」(2019年11月)
東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震は、未だその傷後は癒えていません。地震に限らず、台風19号は非常災害、激甚災害に認定され、筆者の周りでも浸水被害にあった飲食店が廃業するなど、中小企業経営への影響もでています。
事業からの撤退といった最悪のケースを逃れるために、災害に対する準備は非常に大切です。そのために中小企業庁はこれまで事業継続計画(BCP)の策定が大切だと啓蒙活動をしてきました。
しかし、BCPは策定手順が定型化されていることから策定には手間がかかり、経営資源の限られる中小企業においては対応が難しい側面がありました。そこで、中小企業の実態を踏まえ新しく制定されたのが中小企業強靭化法に基づいた「事業継続力強化計画の認定制度」です。
求められる重要な要点は以下のことです。
① 本社および拠点の災害リスク(〇〇地震が来るなど)を調べ認識すること。
② 自社の存在意義を踏まえ、災害対策の目的を明確化すること。
③ 災害時の対策本部、従業員安否確認方法、被害状況の確認方法、避難誘導、顧客や外部機関への連絡について計画しておくこと。
④ 災害が起きた時の、人・モノ(設備等)・金・情報への影響を検討すること。
⑤ 人・モノ(設備等)・金・情報の影響を踏まえ、事業を迅速に再開するための対策を最低1つ計画すること。
⑥ 年に1回以上、計画の見直し・訓練を行う計画を有すること。
どうでしょうか。それほどハードルは高くないのではないでしょうか。最初の一歩を出すことが大切です。
詳細はこちら
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm
事業継続力強化計画では、従業員への災害への対応計画の教育と訓練が重視されています。従業員が実際に取り組むことが出来ることから始めるのがよいと思います。
とはいえ、どこから初めていいのかわからないという企業も多いかと思います。その場合は、「人」に関することから始めてみてはいかがでしょうか。
多くの中小企業にとって一番の経営資産は、そこで働く従業員だろうと思います。有事の際に能力を発揮できるのは、「自分自身がケガをせず、家族の安全を確認できている人」だけです。そのためには、事業所の家具転倒防止や安否確認方法の確立が必要です。従業員とその家族との連絡方法を整備するよう指導することも必要かもしれません。
それでも万が一にけがをして出勤できない場合に備えて、多能工化や業務の標準化によって、だれでもその業務ができるようするといった取り組みも考えられます。このような取り組みは、災害への対応力強化だけでなく、業務改善につながります。
事業継続力計画を申請することで防災・減災対策にために導入した設備の減税や、モノづくり補助金の加点項目(※)になったりするなど、導入するメリットはいくつかありますが、なんといっても、「防災・減災対策」に取り組んでみることそのものが、企業にとっての一番のメリットだと思います。
まずは震災に向けて本当に必要と感じることから、少しずつ取り組んでみませんか。
※モノづくり補助金の加点項目:平成30年度補正「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の二次公募では加点項目となった。
菊地俊光
略歴:コンサルティング会社にて内部統制・リスクマネジメント・BCP構築支援を経験したのち、現在は金融機関(モーゲージバンク)の内部監査部に勤務しています。