若林和哉

 創業してしばらくの間は、企業の全てを把握して的確な指示を出して企業を経営するスタイルをとる経営者が多いです。しかし、ある一定の規模になり、さらにそれ以上の成長を目指す場合、経営者の参謀としての存在が必要となってきます。そのときにぜひ検討していただきたいのが、経営企画部の設置です。今回は複数の中小企業で10年以上にわたり経営企画の役割を担ってきた筆者が、経営企画部の役割や適性について説明します。

・経営企画部の役割

 経営企画部とはどのような役割を担っているのでしょうか?一般的に多いのは、①中期経営計画(3~5年間の計画)を策定すること②予算策定と予算と実績の管理③取締役会などの事務局などです。いずれの機能も創業したての企業においてはやっていない、やっていても形だけのものとなってしまうケースが多いですが、今後の成長に向けては必要な機能となっています。また、上場準備中や上場直後の企業といった大企業の場合は、上場準備やIRといった業務を経営企画部が担当しているケースもあります。

 では、中小企業の経営企画部の場合はどうでしょうか?一言でいえば、経営者が気になることを解決する部署です。当然、上記の中期経営計画策定や予算実績管理を経営者が気にしているのであれば、その役割を担うことになりますが、それ以外でも突発的・短期的なことから中長期にわたることまで、様々な業務を担当するケースが多いです。

 筆者の経験でも、企業理念の策定・新規事業の立案~立ち上げ・既存事業の立て直し・M&A案件の検討(デューデリジェンス)・他社との共同事業の交渉・営業数値データの管理(RPAーRobotic Process Automation導入などIT活用も含む)・CS(顧客満足)向上の啓蒙活動など規模や期間を問わず様々な経験をしています。私の知人でも人員整理・不採算事業の売却交渉・海外事務所の管理などを担当しており、企業の数だけ担当業務もあるといって過言ではないです。

・経営企画部に必要なスキル

 経営企画部に必要なスキルはどのようなものがあるでしょうか?あげればキリがないですが、①全社視点②PDCA③数字化については必須のスキルと言えるでしょう。

 先に書いた通り、経営企画部は経営者の参謀として、経営者が気になることを解決する役割があります。経営者の考えをヒアリングして社員に伝えていく役割や、会社に必要だが今の組織ではカバーできていない業務などを担当していくことになります。このように経営者に近い経営目線が必要な一方、規模が大きくなるにつれて経営者の目が行き届かなくなりつつある現場の情報や問題点を整理する現場目線も必要になってきます。特定の組織や機能に捉われない全社視点が必要になってくるのです。

 PDCAとはPLAN(計画)、DO(実行)、CHECK(評価)、ACTION(改善)をの4つを繰り返していくサイクルのことです。創業間もない企業であれば経営者が、PLANとDOのみ、場合によってはひたすらDOを繰り返していくケースも多いですが、一定の規模になるとCHECKやACTIONによって成功要因や失敗要因を蓄積していくことが求められます。この機能を経営企画部が担うケースが多いため、PDCAに関する理解と実行する能力が必要となります。

 全社視点にしてもPDCAにしても、それらをまとめていくのに数字で語ることが必要となります。つまり、現状を把握して、問題点の原因を見つけて、どういう戦略を立ててどう解決していくか、ということを全て数字を使って説明していくことが必要です。経営者の立場から考えてみれば、「売上が少し足りないです」という報告よりも「予算に対して売上の着地見込が●百万円足りない状況です。なぜなら客数が●百人足りない状況で、特にリピーターの比率が●%下がっています。残りの期間は~~という改善策を実施して、リピーター比率を●%上げます・・・」という数字を使った具体的な説明のほうが、状況把握と正確な判断がしやすいです。そのため、数字に強い、つまり数字で語ることができるスキルが必要となります。

・経営企画部に適した人材をどう見つけるか

 上記にあげたスキルを備えた人物をどのように見つける・育てればいいのでしょうか?新たに採用する場合は、経営企画部の経験者を採用することになりますが、大企業でのキャリアしか経験が無い場合は注意が必要です。大企業に比べれば、中小企業は経営資源が限られている一方で、担当業務の幅は広くなることが多いです。これまでのキャリアや実績をしっかりヒアリングして、幅広く対応できそうな人材か確認する必要があるでしょう。

 また中小企業の場合、経営者との相性も非常に大きく影響します。相性といってもウマが合うとかの意味だけではなく、企業あるいは経営者の足りないところを補ってくれる強みがあるかということです。分かりやすい例をあげると、経営者が営業出身で攻めの姿勢が強い場合、経営企画部には経理出身などの守りに強い人材を配置したほうがうまくいくケースが多いです。

 中途採用が難しい場合は、経営企画部の立ち上げや人材育成に関して、コンサルタントと業務委託契約を締結することを考えてもいいでしょう。中小企業診断士は企業経営に関わる広範囲の知識やスキルを持っているため、おすすめです。このような経験のある人材と、ジョブローテーションで社内の部署をいくつか経験しており、将来を担う若手社員を併せて配属することがおすすめです。

 今回は中小企業における経営企画部の存在について説明しました。現在の企業の状況と今後の成長を考えて必要だと思った際には、今回の記事を参考に検討して頂きたいと思います。

【プロフィール】
若林 和哉(わかばやし かずや)

 飲食店・小売店など店舗ビジネスを営む中小企業にて、経営企画・経理・店舗運営などを担当。全国70店舗展開する飲食店の予算策定、大手菓子メーカーと提携したアンテナショップの事業企画、ハワイアンカフェの新商品企画・原価管理システム導入などを担当。
 中小企業診断士としては、日本経済新聞社主催フランチャイズショーでのセミナー講師や飲食系WEBメディアでの執筆・早稲田大学校友会支援講座講師・大手資格予備校講師や創業補助金・ものづくり補助金の申請支援の実績あり。

経済産業大臣登録 中小企業診断士
一般社団法人東京都中小企業診断士協会中央支部会員部副部長&執行委員
中小企業診断士稲門会幹事
一般社団法人東京都中小企業診断士協会中央支部マスターコース「売れプロ」OB
一般社団法人東京都中小企業診断士協会フランチャイズ研究会所属
1級販売士