専門家コラム「法人営業の仕組化」(2018年3月)
山根 孝一
1 営業担当者のため息
OAの進展により、企業において事務作業の効率化が進んでいます。社員一人ひとりに1台のPCはもはや常識と言えます。営業担当者も同様で、街の喫茶店でPCに向かい、メールの処理や日報の作成を行っている姿はもはや当たり前の風景となっています。
では、OAの進展で営業マンの仕事が楽になったかというと、あまり明るい話を聞いたことがありません。他社もやっているので差別化にはつながらない、早くて正確な見積書が直接受注に結び付くわけではないなど理由は様々でしょう。しかし、最も大きな要因として、「営業活動は複雑である」ことが挙げられるのではないでしょうか。SFA(営業支援システム)や名刺管理ソフトを導入することで、営業活動の効率化にはつながったとしても、業績も向上するとは限りません。
2 営業活動は複雑
例えばBtoBの商品を扱う企業があるとします。取扱商品が1種類だけだとしても、取引先の規模、内容によりアプローチの方法は違ってきます。通常は、数種、数十種の商品を取り扱うわけですし、取引先購買担当者の性格や個性といったものも販売活動するうえでは考慮せざるを得ません。営業マン個々の性格といったものも影響します。その上、既存の取引先だけでなく、新規開拓も合わせてやらなければならないとすると、営業活動のバリエーションは無数にあるといえます。
そのため、営業マン研修と称して、画一的にプレゼンテーション能力の向上を図っても、それだけで効果が表れるとは限りません。それもそのはず、ファーストコンタクトから成約に至る営業のプロセス全体のうち、商品のプレゼンテーションが占める割合などそれほど大きくないことが予想されるからです。
3 細分化してみると・・・
消費者の購買行動(BtoC)として、古くはAIDMA(注意・関心・欲求・記憶・購買)、最近はAIDAS(注意・関心・欲求・購買・情報共有)などで説明されます。企業の購買担当者(BtoB)の場合は下記のようなプロセスとなるのではないでしょうか。
A 注意 商品の存在を知る
I 関心 自分(自社)に関係があるものと認識する
S 検索 詳しく調べてみる
C 比較 他社製品と比較する
A 購買 購買決定する
このように分けて考えると、すべてのプロセスを営業マン任せにするのではなく、会社が主体的にかかわった方が良い部分と、営業マンが最も力を注ぐべき部分があることが分かります。
4 仕組化すること
A→I→S→C→Aのうち、最初のA、Iは、購買担当者に商品を認知させる段階ですので、自社としては広告や展示会への出展という方法で、多くの見込み企業に知らせることが重要です。
その後、先方より資料請求やお問い合わせフォームを使った接触が行われます。ここで相手が分かったからと言ってすぐに営業マンを張り付けるのはあまり効果がありません。相手は検索・比較の段階ですので、購買を促すことは逆効果になることもあります。
一般に企業の購買行動は、合理的かつ保守的です。明確な理由がない限り他社から乗り換えてもらえることはないでしょう。営業マンが足繁く通ってくるからという理由だけでは全く説得力がありません。この段階では、徹底的に他社製品との比較することが重要です。、また、良い点だけでなく良くない所もありのままお伝えするようにします。
業種・業界により差異はあるでしょうが、営業マンは最後のA、すなわちクロージングに特化すべきであると考えます。
5 顧客企業との信頼関係が最重要
営業力向上のコンサルティングでは、個々の営業マンの能力向上だけでなく、以上のような仕組みづくりに関わることもあります。そのような場面では、これまでやってきたことを部分的にせよ変更することになりますので、既存勢力の反発に遭うことも想定されます。そうならないためにも、しっかりとコミュニケーションをとり、社長はもちろん、営業部門全体との信頼関係は欠かせません。相手の立場に立って粘り強く話し合いを続けて、新たなやり方の導入に漕ぎつけてもらいたいと思います。
■山根 孝一
2002年診断士登録
東京協会地域支援部副部長
中央支部渉外部副部長
ちよだ中小企業経営支援協会理事長
(一社)営業仕組化研究所代表理事(新)