専門家コラム「小規模事業者支援のための経営課題分析と経営改善の進め方」(2018年2月)
日本国内における企業総数は382万社(平成26年経済センサス調べ)と言われていますが、その中で中小企業数は381万社を占めており、構成比としては何と99.7%を占めているのが現状です。また、更にその中で小規模事業者数は325万社を占めており、構成比として85.1%を占めています。こうした状況の中で、地域の経済活動や雇用を支えているのはこれらの中小企業や小規模事業者であることは既に周知のことであり、平成26年6月に施行された「小規模事業者振興基本法」では、これらの小規模事業者振興に関する支援施策を国・地方公共団体・支援機関等が一体となり、総合的かつ戦略的に計画的に実施するための基本計画を政府が決定し新たな支援施策体制を構築することになっています。
またもう一方で、これまで小規模事業者の経営相談に対応してきた商工会や商工会議所は市町村や地域金融機関等と連携して、意欲のある小規模事業者の経営改善の取組みを強力に支援するための体制を整備するものと位置付けられています。
ここで改めて中小企業と小規模事業者の定義を確認してみると、概ね常用雇用者が300人以下(ゴム製品製造業:900人以下、旅館・ホテル業:200人以下、卸売業・サービス業:100人以下、小売業・飲食業:50人以下)の事業者を中小企業と定義し、概ね常用雇用者20人以下(卸売業・小売業・飲食業・サービス業は5人以下)の事業者を小規模事業者と定義していますが、これら中小企業や小規模事業者に対して地域の商工会や商工会議所、市町村や地域金融機関の支援活動は何処まで行き亘っているのでしょうか?
商工会や商工会議所などの主要活動である「記帳指導、マル経融資支援」の対象となり得る中小企業などに対しては比較的手厚い支援が行われていますが、税理士などによる決算書類などが整備されていないことの多い小規模事業者に対しては、商工会や商工会議所は勿論のこと、市町村や地域金融機関などもなかなかキメ細かいフォローを展開し辛い状況にあると言えます。そんな状況の中で「小企業事業者振興基本法」が新たに施行されたと言っても、それだけで小規模事業者に対してどこまで支援の手が伸びるのかということについては不確定であると言わざる得ない状況にあります。
そこで、この「小規模事業者振興基本法」の本来の趣旨を生かしつつ、小規模事業者が潜在的に持っている「地域経済活性化のための原動力」としての活力を生かしながら、地域経済の活性化を図りつつ地域雇用の更なる拡大を図るために、小規模事業者が置かれている経済環境や事業環境、雇用環境などを十分に考慮した上で、自社経営資源の再評価、独自性のある商品・サービスの開発・提供、地域経済への継続的な貢献、現状に見合った小規模事業者向け支援施策などの可能性を検証する必要があると考えます。また、これらの小規模事業者では生業的に事業が営まれていることが多く、他社との差別化を考慮しながら独自の経営資源を効果的に生かす「事業計画」が構築されていないことが多いも言われています。そこで、今後の小規模事業支援においては「事業の継続性や一貫性を担保する事業計画作り」を進めるためのビジネス要件を整理し、ビジネスモデルの再構築、多様性のある人材活用、地域ブランドによる地域活性化等の取組みなどの支援事例を幅広く収集しながら、小規模事業者のための「中・長期の成長を見据えた体系的経営支援」を行う必要があると考えます。もう少し具体的に言えば、
1.顧客ニーズを踏まえた「商品・サービスの開発・提供」
自社の強みである「経営理念・ビジョン・独自ノウハウ・ネットワーク」などを生かして潜在的需要の掘り起しが可能となる「新たなビジネスモデル」を再構築する。
2.経営資源としての「多様性のある人材の活用と育成」
少子高齢化による労働人口減少に対処するために「高齢者の専門ノウハウの活用、女性・若年層未就労者の活用、雇用ミスマッチの解消」などの取組みを推進する。
3.地域経済に貢献する「多様性のある事業者との連携」
企業の活動分野(財務管理・業務管理・システム・素材研究・技術開発など)が高度化・専門化する中では、小規模事業者であっても他社との連携が不可欠である。
4.地域支援機関などと「効果的かつ継続的な連携体制作り」
地域の連携力を高めるために地域支援機関や金融機関等と効果的な連携を図り、新たなブランド形成、新たな需要掘り起し、地元雇用の拡大を進める必要がある。
などを計画的に推進するべきであると考えます。
最近では、小規模事業者でも比較的利用し易い補助金として「小規模事業者・持続化補助金」や「サービス等生産性向上IT導入補助金」「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業」などの人気が高まっており、それなりに小規模事業者の申込みや認定も進んでいる様ですが、これらの補助金申請を行うに当たっても上記4つの取組みの重要性が年々高まっていると言えます。単なる設備投資を行うだけで生産効率が上がるとか、生産コストが下がるとか、生産規模が高まるということだけで認定を取ることはできません。
例えば、「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業」の認定においても、新たな加工設備を導入することで製造リードタイムが短縮され、生産コストも下がり、これまで以上の量産化が可能となる事業計画であったとしても、他社が同様の加工設備を導入すればいつでも同じレベルの経営改善が図れるようなものであれば、当然のことですがなかなか認定を取ることが出来なくなっています。これは折角「補助金」を投入したところで認定事業者が価格競争を脱却できなければ意味がないからです。重要なことは事業計画自体に自社ならではのノウハウや技術力が投入されることで、設備導入後に他社が簡単にマネできない事業取組みや事業計画であることが不可欠となっています。これは補助金額の低い「サービス等生産性向上IT導入補助金」「小規模事業者・持続化補助金」であっても同様です。例えば、「サービス等生産性向上IT導入補助金」でも、単にホームページを新たに作りたいとか、POSレジを導入したいというだけでは認定されません。ホームページを制作して何をやりたいのか、POSレジを導入して何をやりたいのかという戦略的な取組みが問われることになります。「小規模事業者・持続化補助金」も同様です。単にお店の看板を新しくしたいとか、トイレをきれいにしたいというだけでは認定されません。お店のサービスを飛躍的に進化させたり、見込客の客層を拡大できるといった見込みが立っていることが重要となります。最近では補助金事業においても「中・長期の戦略的経営ビジョン」を踏まえ、自社の強みや特徴を将来どの様に伸ばして行きたいと考えているかという「経営者のこだわりや意志、戦略」といったものが事業計画の前提として組み込まれていることが大切であり、補助金認定が採れるかどうかの鍵を握っています。
そこで、我々「中小企業診断士」としても、これら小規模事業者を積極的かつ継続的に支援するためには「中・長期の成長を見据えた体系的経営支援」を行うという原点に立ち返って、前述の通り①顧客ニーズを踏まえた「商品・サービスの開発・提供(新たなビジネスモデルの再構築)」、②経営資源としての「多様性のある人材の活用と育成(生産性の向上を図る)」、③地域経済に貢献する「多様性のある事業者との連携(事業活動の高度化・専門化を図る)」、④地域支援機関や金融機関と「効果的かつ継続的な連携(地域活性化の取組みを進める)」などの取組みを、小規模事業者と一緒になって持続的な経営支援を行う必要があることを改めて決意する次第です。
●山崎隆由(やまざき たかよし)自己紹介
永年の広告会社勤務を通じて培った「調査・商品化・価格戦略・販売戦略・プロモーション」のノウハウを生かして小規模事業者をサポートしています。最近は効率的作業管理の手法を農業に生かし「売れる加工品作りや農作業の効率化、収益性向上」の農業サポートを行うと共に、神奈川県よろず支援拠点チーフコーディネーターとして「小規模事業者を中心に新規創業・第二創業・新事業開発等、経営改善、事業承継」等の経営支援を行っています。