専門家コラム「数字を経営に活用する方法」(2017年10月)
濱口 誠一
調剤薬局チェーン、IT企業の経営企画スタッフ、ビジネスコンテストやものづくり補助金審査員として数多くの事業計画を策定・判定しております。本日のコラムのテーマは「数字を経営に活用する方法」。具体的には、KPIを取り上げたいと思います。
1.KPIとは何か?
KPIは(Key Performance Indicator)の略称で、日本語では「重要業績評価指標」と言われます。経営にはさまざまな種類の業績評価指標が使われますが、KPIはその中でも重要な「キー」となる指標です。
会社としては、売上高や営業利益を目標とすることが多いですが、各組織・各個人にとっては、具体的に何ができれば目標を達成できるのか、どういう行動をしたら目標達成に近づけるのか、KPIを設定することで、会社の目標と組織・個人の目標を結びつけることができます。例えば、売上10%アップ、という目標に対して、A社のB部門への売上を〇%を伸ばす、というKPIを設定すると何ができれば目標を達成できるのか、がわかりやすくなります。さらに、C商品の販売件数を〇件伸ばす、B部門への訪問件数を〇件に増やすなど、さらに具体化・詳細化すると、どういう行動をしたら目標達成に近づけるのか、も見えるようになります。このようにKPIで数値化・具体化することで、会社の目標と個人の目標が結びつきやすくなります。
また、KPI設定によりPDCAを強化することもできます。KPIを設定しなければ、例えば、会社全体での売上10%アップ目標に対して、5%しかアップできないという見込みになった際に、どこに手をいれるべきかが見えづらくなります。しかし、KPIを設定していれば、B部門への売上は伸びているのか?C商品の販売件数は伸びているのか?そもそも、訪問件数は十分か?というように未達成の原因を早期に把握し対策を打つことができます。ここで、仮にすべてのKPIは順調にもかかわらず会社の目標が未達成の場合は、KPI設定が不適切と言えるので、KPIを変更することになります。KPIは現場の状況今日の「見える化」にも貢献します。定すべきなのでしょうか?主には、日々の仕事と会社の目標を結びつけ目標達成できる組織とするため、基準を明確にすることで早期に問題を検知するため、です。
2.KPIの実例
では、KPIの実例で考えてみましょう。
筆者が、調剤薬局で事業開発の仕事を行っていたとき売上高対売上総利益率が会社の目標だったのですが、利益率を分析するのに非常に大切なのですが、この数値が悪いときに何が原因か、どうすればいいのか?を、下記の指標を使って管理していました。
・薬剤師一人当たり処方箋枚数
・薬剤師一人当たり技術料
一人あたり処方箋枚数とは、一人で何名の患者と応対したか、という指標です。多いほうが一人で大量の患者に対応しているので生産性が高い、ということになります。ここが低い場合は生産性が低く、逆に高すぎる場合は過剰な負荷がかかり患者サービスが低下することにもなりかねません。なので、いかに適正な処理枚数にするのか、がマネジメントでは非常に大切な要素となります。
一人当たり技術料は、一人でどれだけの技術料を稼いだか、という指標です。技術料とは、薬剤師の提供するサービスに応じて国からもらえるお金のこと、です。薬剤師1名あたり100万円を切ると明らかに生産性が悪く、200万円を超えると業務がハードとなりすぎ退職につながり、かつ、患者サービスの質も低下のリスクがあります。
この指標は人員配置の適正化にも活用していました。現場から「忙しいから人を増やしてくれ」とう要望が上がった際に、この2つの指標で忙しさと稼ぎを判断して、人員配置を決定していました、各店舗の目標として、一人当たり処方箋枚数は〇枚、と設定したこともあります。また、薬局新規出店の事業計画、M&Aのデューデリジェンスにも活用し、どういう店舗が儲かるのか、という出店の指針の参考ともしていました。
3.KPIを作るための考え方
では、どういう視点でKPIを策定すればいいのでしょうか?様々な方法がありますが、今回は、生産性の観点での作成方法、を取り上げます。
生産性を見たいのであれば、生産性の公式に当てはめます。生産性とは、
産出 ÷ 投入
です。
産出とは求めるアウトプット(=成果)、投入とはアウトプットを生むために必要なインプット(=リソース)です。たとえば、一人当たり技術料、で考えてみましょう。ここでは、
産出(=成果):技術料
投入(=リソース):人員
という考え方になっていますね。
これをKPIに活用する際には、まずは、重要な投入=主要リソースは何か?を考える、ことが重要です。KPI分析は、問題の原因を把握したうえでアクションプランにつなげて問題を改善する、ために行います。まず原因の把握していくためには、できる限り重要な要素に絞り込んでいく方がわかりやすいわけです。
このようにKPIを活用することで、会社としての目標をより明確にして、組織としての目標達成やPDCAが容易になります。数字を使って経営を行う際には、是非、上記の考え方をご活用ください。
● 略歴
濱口 誠一
東京都中小企業診断士協会中央支部青年部部長
東京都中小企業診断士協会会員部副部長
学生時代は指導者ゼロ、ノウハウゼロの状態から大学生英語ディベート大会で全国3位の実績を持つ。その後、ノウハウをカタチにすることで、全国大会10年連続本戦進出、6年連続決勝戦進出(うち2回優勝)という強豪大学を育て上げる。
現在はIT企業の経営企画部のマネージャーとして、中期経営計画、業績評価制度等に携わりながら、中小企業診断士としては、会員規模約1500名の東京協会中央支部の青年部部長であり、セミナー・コンサル等幅広く活動を行う。
【主な実績】
・全国規模ビジネスコンテストアドバイザー
・H28ものづくり補助金審査員
・ものづくり補助金、創業補助金支援(居酒屋、SNSマーケティング、ロボットAI開発、メンタルカウンセリングなど)
・東急不動産ビジネスエアポート「ビジネスモデルフェスティバル」にて「ビジネスモデルの破壊的イノベーション」講師
・中小企業庁講演「中小企業経営診断シンポジウム」優秀賞
など