南雲 智子

1.はじめに
 ビジネスを進める中で、次のように感じることは多くありませんか?
「当社の商品やサービスの成功確率を高めたい」
「わが社のホームページを見てどのぐらいのお客様が商品を購入してくれるのか」

このような場合、自社のターゲットとする消費者について詳しく知るために役立つ手法が「マーケティングリサーチ」です。
 今回のコラムは、マーケティングリサーチのステップとポイントを解説します。

2.マーケティングリサーチとは何か?
 企業は消費者に商品・サービスを売り、利益を上げることを日々考えていますが、企業が売れると思ったものを一方的に提供するだけでは、想定する利益を上げられる確率は高くはないでしょう。消費者の情報をできるだけ確実に入手し、ニーズを知ることで、販売開始される商品・サービスが売れる確率を高めることができます。「マーケティングリサーチ」は、この“消費者の正しい情報”を得ることができる手段です。つまりマーケティングリサーチとは、「企業が自社の商品やサービスをターゲット消費者に販売するために消費者のことを調べること」です。当然のことながら、調べて終わりではなく、調査結果を活用して商品やサービスを改良したり、販売方法を戦略的に練り上げ売上高を伸ばすようにすることが必要になります。マーケティングの世界的権威であるフィリップ・コトラー教授も「調査せずに市場参入を試みるのは、目が見えないのに市場に参入しようとするようなものだ」とその重要性を示唆しています。

 では、マーケティングリサーチでは具体的に何がわかるのでしょうか?マーケティングリサーチ」で知ることができる情報は代表的なものとして以下の3つがあげられます。

➀ 事実がわかる:対象商品・サービスを、消費者はどのように購入しているのか、使用しているのか
➁ 意識がわかる:その商品・サービスを、消費者はどのように思っているのか、なぜ購入・使用しようと思ったのか
➂ 反応がわかる:その商品・サービスを見て、消費者はどのような行動をとるのか/購入につながるか

 では、次に企業が特定の市場に関するデータを収集し、マーケティング戦略の構築に活用するリサーチはどのように実施すればいいのでしょうか?

3.マーケティングリサーチのプロセス
 マーケティングリサーチは最終的な意思決定まで6段階のプロセスを経て実行に移されます。まずは「問題と調査目的の明確化」からスタートし、「調査計画の作成」、「情報の収集」、「情報の分析」、「調査結果の報告」、「意思決定」というプロセスをたどります。

ステップ1:問題と調査目的の明確化

 リサーチのスタートは、まず自社が抱える課題とリサーチの目的を明確化させることです。「なぜこの調査をするのか? 何が知りたいのか?」といった目的を明確化させることによって、無駄のない効率的な市場調査を実施することが可能になります。たとえば、「対象顧客のニーズを把握する」といった調査目的では、目的があまりに漠然としすぎていて、効果的な調査結果を得ることができない場合もあります。「商品Aがターゲットとする30代女子に売れない原因を特定し、売上向上の要因を探る」といった絞り込んだ調査目的を明確化させることにより、短時間で実りある市場調査につながっていきます。また、出てきたリサーチ結果で次のアクションをどう取るのか決めておくことも重要です。

ステップ2:調査計画の作成

 リサーチ目的が明確になれば続いて具体的なリサーチ計画の作成段階に入ります。ここで注意すべきポイントはデータをどこから得るのか? リサーチ手法をどうするか? 対象者をどうするか? アクセス手段をどうするか? という4点になります。

・データをどこから得るのか?
マーケティングリサーチでは、一次データと二次データという2種類のデータを活用することができます。一次データとは、自社でゼロから集めた情報のことです。目的の情報を正確に得ることができるというメリットがありますが、収集するために時間とコストがかかるというデメリットもあります。二次データとはすでに他の目的で自社もしくは他社が収集した情報になります。これは例えば、政府が4年に1度実施する国勢調査のデータや、インターネット上で誰でも閲覧できる情報などが該当します。二次データの場合、マーケティングリサーチの目的とピンポイントで合致しない場合もありますが、インターネットなどを活用すれば収集するのが容易で、コストも安いというメリットがあります。マーケティングリサーチの策定ではこれら一次データと二次データのメリット・デメリットを考慮に入れた上で、どのような形で情報を入手するのかを決定していくことになります。

・リサーチ手法をどうするか?
 データ情報源を一次データにたよる場合は、調査方法も併せて決める必要があります。調査方法には観察調査、アンケート調査などさまざまな方法がありますので、調査目的に応じて使い分けを行います。
 観察調査とは、対象となる顧客を観察する方法によってデータを収集していく方法です。顧客が店内でどのような動きを見せるのか?や、どのような購買プロセスで購入を決定するのか?など、顧客の行動をつぶさに観察してデータを取得していきます。
 アンケート調査は、対象となる顧客にアンケートを取ってデータを収集していく方法です。この手法は、手軽さから実に多くの企業で活用されている市場調査手法です。

・リサーチ対象者をどうするか?
 リサーチ方法が決定すれば、次は誰からデータを集めるかというプロセスに移ります。具体的には、調査対象を誰にするのか? 何人にリサーチをするのか? 対象者をどのように選択していくのか? というポイントから決定していく必要があります。

・アクセス手段をどうするのか?
 リサーチ方法も様々であり、電話によるインタビューや郵送によるアンケート、対面インタビュー、インターネットによるアンケートなど自社のリソースに合わせて選択します。近年では費用と期間の利便性からインターネットを活用する企業が増えています。無料のリサーチコンテンツもあるので調べてみるといいでしょう。ただ、インターネットは手軽な反面、匿名アンケートによる回答の正確性などに問題がある場合もありますので、注意しながらデータを利用していく必要があるでしょう。

ステップ3:情報の収集

 リサーチ計画が決定されると、いよいよ情報の収集段階に入ります。マーケティングリサーチでは、この情報収集のプロセスが最も費用と時間のかかるプロセスになります。計画に沿って、じっくりと情報を収集していきましょう。

ステップ4~6:情報の分析、調査結果の報告、意思決定

 リサーチによって十分な情報が収集できれば、リサーチの最終段階として情報を分析していくことになります。数値による定量評価や商品の感想などの定性評価などを整理して、リサーチ目的の核心に迫る回答に着目して分析を進めます。最後に担当者は調査結果をまとめて、責任者に報告し、責任者はマーケティング関連の意思決定に市場調査から得た結果を役立てていくことになります。

4.最後に

 マーケティングリサーチの目的は多くの場合、リサーチ結果をもとに戦略を構築し売上アップに生かすことです。単なる興味本位で調べているわけではなく、そもそもの目的を忘れてはいけません。またマーケティングリサーチの結果売上アップにつながるのであれば、費用をいくら使ってもより詳しい調査を行おうとするかもしれません。しかし費用に対しての効果がどのくらいあるかを検討しながら、リサーチを進める必要もあります。

 中小企業においても、ターゲットとする消費者について一歩踏み込んでリサーチをし理解をすることで、自社のビジネスの成功確率を高めることが可能となります。これまでの経験やノウハウだけに頼るのではなく、目の前にいる消費者に向き合い、理解することで、売り上げアップに繋げることが可能となるのではないかと考えます。

※参考資料:「コトラーのマーケティング・マネジメント」(出版社ピアソン・エデュケーション)
<<プロフィール>> 南雲 智子(なぐも ともこ)
中小企業診断士 
・(一社)東京都中小企業診断士協会 事業開発部副部長
・同中央支部 執行委員、ビジネス創造部 副部長
・マスターコース「売れプロ」卒業生