専門家コラム「ビジョンと経営戦略」（2017年６月）
土田 健治
経営の道筋を考えていくにあたって、「ビジョン」を持つことの重要性、経営戦略をもつことの重要性が語られています。それは何故なのでしょうか。
■ビジョン・経営戦略がないと勝ち残れない
ビジョンとは「将来こうありたいという姿」、経営戦略とは「ビジョンを実現するための手段・方法」です。
ビジョンを持っていないということは、目指すべきもの、すなわち会社の今後の方向性がはっきりしないということです。ビジョンがなければ、経営は行き当たりばったりのものになってしまいます。その時々の経営判断に、大局的な観点が抜け落ち、その時々に発生する問題に右往左往することになりかねなません。
また、ビジョンを持っていなければ、従業員に対して、「一丸となってこの方向をめざそう」という、モチベーションと求心力を持たせることができないばかりか、朝令暮改の方針提起になり、「言っていることがころころ変わって、ついていけない」というネガティブな意識をもたらすことになりかねません。
経営戦略を持っていないということは、目的・目標を実現するにあたって、一番効果的で、効率的で、妥当な手段を吟味することなく、経営の取り組みが検討されることを意味します。そうであれば、経営は的を射ない取り組みの積み重ねになってしまいかねません。経営レベルのムリ、ムダ、ムラが起こり、目的・目標の達成がおぼつかないことになりかねません。個々の事業施策、部門施策が、最適のものに思えたとしても、それらが部分最適にとどまり、必ずしも全体最適ではないということになりかねず、貴重な内部資源が、正反対の方向の施策どうしで浪費されることにもなりかねません。
ビジョン・戦略なき経営は、目的地を書き込んだ海図と羅針盤を持たずに闇夜に航海するようなものなのです。その海は、今日では荒波がとても高くなっています。今日、企業環境の変化のスピードがかつてないほどに早く、競争が激化しています。このような企業環境では、「今までなんとなくやってきたが、なんとかやってこられた」という経験即が通用しなくなっているのです。やり直しが効く余裕もなくなっています。場当たり経営では、あっという間に退場勧告を受ける可能性が強くなっているのです。
市場には、勝ち残りのビジョンを真剣に見定め、これを実現するための経営戦略に知恵を絞り、全社一丸となって取り組んでいる競合先が少なくありません。ビジョン・経営戦略なき場当たり経営では、勝負あったということになりかねません。
■あらためてビジョン・経営戦略とは
ビジョンとは、「将来こうありたいという姿」のことです。会社のめざすべき姿を指し示し、会社組織のモチベーションと求心力を高めるために、ビジョンは大きな役割を果たします。
ビジョンは、会社の成長と外部環境の変化に対応して変わっていくこともあります。今掲げるビジョンとは、現時点で思い描いた会社の近未来像ということになります。
変化していくビジョンを貫いて、企業としての変わらない哲学に相当するものが、経営理念や社是・社訓に他なりません。企業哲学を企業の使命の側から定義したものが、企業ミッションといわれます。
そして経営戦略とは、「ビジョンを実現するための手段・方法」のことです。何に注力し、どのように取り組んでいくのか、企業としての最も大きなレベルでの方向付けといってもよいでしょう。
経営戦略というものについての考え方にはいくつかの流れがあります。大別すれば、外部環境の分析を重視して自社の立ち位置、すなわちポジションを定めていこうとする流れ（ポジショニング理論）と、企業の内部資源の分析を重視して強化すべき内部資源を見出していく流れ（リソース・ベースド・ビュー）の２つになります。
簡単にいえば、「企業が儲かるのは、儲かる環境に身を置くからだ。ならば、どこにどのように身を置くかを見極め、それに向けて企業活動を組み立てよう」というのが、ポジショニング理論の経営戦略の捉え方です。他方、 「企業が儲かるのは、その企業の内部に他企業が真似できない儲けの源泉があるからだ。ならば、自社の内部のどこにどのような特徴があるかを見極め、それを伸ばしていく企業活動を組み立てよう」というのがリソース・ベースド・ビューの経営戦略の捉え方です。
これらの見方はいずれも不可欠ですが、差別化点を持ち優位性を発揮していくことが強く求められる今日、内部資源、とりわけ「強み」となる内部資源をさらに伸ばし、効果的に活用する経営戦略を重要視していく必要があると考えられます。
（プロフィール）：
土田 健治（つちだ けんじ）
土田経営コンサルティング事務所（認定経営革新等支援機関）代表
中小企業診断士・ＩＴコーディネータ
知的資産経営学会会員
一般社団法人東京都中小企業診断士協会認定支援機関事務局
一般社団法人東京都中小企業診断士協会中央支部総務部長
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