小林 ますみ

 自社のブランド(登録商標)を海外で展開してみませんか。
 商標権は他の知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権等)と比べて唯一、10年ごとに更新さえすれば半永久的に守ることのできる強い権利です。
 (不使用であれば取り消されることもあるので注意)ブランドは高付加価値化、差別化に極めて有効であり、自社の強みとなるものです。日本で登録済みの自社ブランドを海外で展開するためには、自社ブランドを各国において商標登録して、製造や販売の権利を得ることが必要です。グローバル化が急激に突き進む今日では、諸外国においても自社のブランドの権利化を進めることが大変重要な戦略となります。また、権利を得ることにより、海外で偽物を作成されたり、販売されたりすることを防ぐことにもなります。日本でせっかく大事に育てたブランドがいざ、海外展開するとなると、すでに第三者に商標権を登録されているという話はよくあります。特に、以前日本でもそうだったように、先に権利を登録した第三者が、本来のブランドを開発した企業に多額で商標権を売りつけるというようなことがまだ起きています。今回は海外進出と自衛のために諸外国での自社ブランドの登録を進めるための手法のひとつ、マドリッド協定議定書について記します。

1.外国で商標を登録するには
 外国で商標を登録するには以下の2通りがあります。
 1)パリ条約や二国間条約などに基づき、各国別に出願する。
 2)マドリッド協定議定書に基づき複数国に一括して手続を行う。

 1)については、各国ごとに現地の代理人をたてたり、それぞれの言語を翻訳したりせねばなりません。2)のマドリッド協定議定書を利用することにより、簡単、安価で世界各国の商標の保護を求めることができます。

2.マドリッド協定議定書とは何か
 マドリッド議定書(以下「マドプロ」とします)とは、議定書加盟国のうち権利を取得したい国を指定して複数国に同時に出願のできる制度で、現在(2017年2月時点)98か国が加盟しています。ただし、日本にとって重要な国でありながら、マドプロに未加盟の国があることに注意が必要です。未参加の主要国には、カナダ、台湾、香港・マカオがあります。
また、アセアン諸国はブルネイ、カンボジア、ラオス、フィリピン、シンガポール、ベトナムはすでに加盟しているものの、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、タイが未加盟です。アセアン諸国は2016年度中に加盟を表明しておりましたが、残念ながら、国内の法律の未整備等があり、2016年に新たに加盟したのはブルネイ一か国となりました。しかし、近いうちにアセアン諸国は加盟することになると思われます。

3.マドプロに出願するための条件とは
 マドプロに出願するためには、以下の4つの条件が満たされていなくてはなりません。
1)既に日本の特許庁に商標出願、もしくは登録されている必要があること。
 2)日本の商標とマドプロ出願商標が文字、形態等同一であること。
 3)指定する商品及び役務が同一かその範囲内であること。
権利化したい商品や役務を幅広く出願した場合、各指定国から幅広すぎるという理由で拒絶されることが多く、無用なやり取りが必要となることがあるので、できる限り使用したい商品・役務に限定して出願することをお勧めします。
 4)出願人または名義人が同一であること。

4.メリットについて
 ここで、マドプロ出願のメリットについてまとめてみます。
1)大幅な経費節減ができる。
 WIPO-World Intellectual Property Organizationの略ですが、マドプロを取り扱う国際事務局です。そのHPから簡単に料金のシミュレーションができます。
2)出願書類の作成が簡単。
 英語で作成できます。WIPOの書式が整っており空欄を埋めるのみで作成できます。
3)出願手続が簡単。
 WIPOを通して一括で可能です。
4)迅速な審査。
 各国の審査はWIPOからの通知日から1年(若しくは18か月)以内に制限されています。
5)権利管理の一元化(一括管理)。
 WIPOが記録、管理を一元に行います。
6)事後指定によって権利拡張可能。
 出願時に指定していなかった国も追加で指定することが可能です。

 以上簡単にマドプロについてまとめてみました。
 下記は参考になるHPです。

http://www.jpo.go.jp/indexj.htm 特許庁マドプロ制度HP
http://www.wipo.int/madrid/ja/ WIPOマドプロ制度HP
http://www.wipo.int/madrid/en/fees/calculator.jsp WIPO手数料シミュレーション

 また、特許庁では毎年10月ごろに日本各地で実務者向けに知的財産権説明会を開催し、マドプロ制度の説明を行っています。(無料)
お問合せ先:特許庁国際意匠・商標出願室 03-3581-1101 内線2671・2672

■小林 ますみ 
中小企業診断士
(一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部所属 執行委員
主な専門分野、ブランドマーケティング、算命学・手相鑑定