あなたの職場の感染症対策は万全ですか(2016年8月)
リオ五輪ではジカ熱の流行が話題となりました。妊婦さんが感染した時の影響が大きく、感染が心配で参加を辞退した有力選手もいたようです。ジカ熱は地球の裏側の話で、日本では関係ないと思いたいところですが、日本にもインフルエンザ、ノロウイルス、結核、風しん、デング熱など注意すべき感染症があります。今回は、職場での感染症対策について考え、手軽に活用できるツールとして東京都福祉保健局の「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」をご紹介します。
1.感染症の対策は、業務継続のためのリスク対策である
あなたの会社では、冬になるとインフルエンザが流行して会社を休む従業員が続出して困ったというような経験はありませんか。出社している人が大変な思いをする程度で済めばよいのですが、納期を守れず顧客に迷惑をかけてしまった、営業に支障が出て受注できなかった、など業績に影響が出てしまったら大変です。実際、高度な技術を持った製造業の役員とお話ししていたら、その会社では職人の技術が専門化されているので一人でも欠けると製造できなってしまうそうです。ですからインフルエンザが流行りそうな年は、全額会社負担で全員に就業時間中に会社の近所の医院で予防接種を受けてもらっているそうです。このように、インフルエンザの予防接種を奨励している会社も多いと思います。
それでは、インフルエンザの予防接種をしていれば万全でしょうか。その取り組みは素晴らしいですが、さらにもう少し進めたいところです。そのポイントは、3つあります。
1つ目は、感染症はインフルエンザだけではないということです。ノロウイルスや結核などもあります。先日、渋谷の警察署では結核の集団感染がありました。また、単なる風邪でも感染した従業員の集中力は落ちますから職場全体に広がると全体の生産性に影響します。
2つ目は、会社がどんなに仕組みだけ整備しても、従業員一人一人が正しい知識を身に着けて実践しなければ効果がないということです。例えば、インフルエンザでも気にせずに出社してくる社員がいたらどうでしょうか。風邪を引いても、マスクをせず、咳をしてウイルスをまき散らす社員がいたらどうでしょうか。職場に感染症が広がってしまいます。
3つ目は、それでも万が一、新型インフルエンザのように防ぎきれない場合があるということです。その時に、業務に影響が出ないように、仕事の優先順位などを予め決めておく必要があります。この考え方は、基本的に災害対策のBCP(事業継続計画)と同じです。
2.どのような感染症対策を実施すべきか
1つ目は、会社としての取り組みを決めておくことです。会社にとって脅威となり得る感染症を特定し、会社としてどのように予防するのか、そして万が一職場で流行して多くの従業員が休む事態となったときにどのように対処するのかを決めておきます。例えば、インフルエンザであれば、予防として予防接種の補助・マスク支給・消毒液やうがい薬の設置をする、そして重要な業務は代理で処理できるような業務マニュアルを整備しておくということなどです。
2つ目は、上記の取り組みの一環として、従業員に正しい知識を教育するということです。従業員が正しい知識を持って行動することで、会社で整備した取り組みが最大限効果を発揮します。
ここでお奨めしたいのが、東京都福祉保健局の事業「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」を活用することです。「感染症対応力向上プロジェクト」は、東京都が、東京商工会議所および東京都医師会と連携し、企業の感染症対策を支援する取り組みです。従業員の健康維持や、企業のリスク管理を助けるために、感染症対策のツールを無料で提供してくれます。
このプロジェクトは3つのコースが用意されています。コースⅠは、感染症予防の知識を従業員に教育する自主学習教材を企業に無償で提供してくれます。教材は、紙およびPDFで提供されます。企業はその教材を従業員に配布して教育を進めることができます。企業によっては、従業員が集まるときに勉強会を開いたり、教材を新入社員に配布したりと様々に利用されています。コースⅡは、BCP(事業継続計画)のひな型を提供するコースです。ツールとして、WORDファイルのひな型と丁寧な作成ガイドが提供されます。ひな型には、標準的な内容がある程度記入されており、企業は必要な内容を修正したり追記したりするだけでだけで、作成することができます。コースⅢは、風しん対策を職場で取り組むという内容です。
このツールをお奨めする理由は、教材が無料で提供されるということ他に2つあります。
①従業員の教育(コースⅠ)と会社の対策のひな型(コースⅡ)の両方が用意されていて、容易にかつ体系的な対策が実施できます。
②達成すると東京都のホームページに企業名が掲載され、企業のイメージアップに役立ちます。
※出典:「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」募集要項から抜粋
詳細は、東京都福祉保健局の「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」のホームページをご確認ください。募集要項や申込書も掲載されています。
東京都福祉保健局「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」
3.CSR活動としての感染症対策
さて、いまリオ五輪では、ジカ熱が問題になっています。ジカ熱は、妊婦さんが感染すると、小頭症の子供が生まれてくる確率が高くなると言われています。
日本において同様の問題が発生する感染症が風しんです。やはり妊婦さんが感染すると生まれてくる子供に影響が出てしまいます。実際、平成25年には風しんが日本で流行し、45人の赤ちゃんに先天性の障害が出てしまいました。風しんは子供や若い女性が気をつけなければならない病気と思われがちですが、その時には、7割以上の患者が男性で、そのうちの約8割が20代~40代でした。特に、過去に定期の予防接種を受ける機会のなかった30代から40代の男性や予防接種率が低かった20代~30代の男女で多くみられています。風しんの感染力は強力で、インフルエンザの2倍から4倍と言われています。ですから次の流行を防止するためにも、男性も含めた職場のメンバーのほとんどが抗体を持って感染の広がりを防ぐ必要があります。風しん対策を実施することは、CSR(企業の社会貢献)活動の一環であると言えます。
参考:厚生労働省 特設サイト「風しんの感染予防の普及・啓発事業」
4.まとめ
職場での感染症対策は、事業のリスク対策として重要であり、CSR活動でもあるということをご理解いただけましたでしょうか。もし、感染症対策を始めてみようとお考えの皆さま、東京都の「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」の活用を考えてみてはいかがでしょうか。秋には事業説明会も予定されており、この秋にコースⅠの教材をe-learning化して、さらに企業が取り組み易くなるように改善を予定しているとのことです。引き続き、東京都福祉保健局のホームページにご注目ください。
【略歴】
■小川亮一(おがわりょういち)
中小企業診断士:
東京都中小企業診断士協会 中央支部 研修部 副部長
主な専門分野:経営計画策定支援、職場の生産性向上・人財育成支援 等