専門家コラム『「粉体」の取り扱い時に考慮すべきポイントと対処法について』(2015年9月)
はじめに
粉体…イメージとしては小麦粉や砂糖が一番わかりやすいかと思うが、企業規模を問わず各種製造業においては粉体を使用・利用したものづくりが一般的に行われている。それこそ小麦粉をこねてパンを焼いたり麺を打ったりといったことから、厳しい基準に基づき行われる医薬品製造や電気自動車等に用いられるリチウムイオン電池の製造といった大規模・先端産業まで、昔からものつくり企業の現場ではありふれている。
粉体はその構成要素である粉(粒子)1粒1粒の集合体である。以下に一例を示すが、成分が一緒でも粒の大きさや形が変わればそれに伴い異なった特性を示す。
冬木正 食品と技術(2004.7)
特に粉の大きさが小さくなればなるほどその変化の度合いは大きくなることが多く、そのため製造業に用いられる原料としては繊細であり、やや扱いづらい面もある。
粉体の評価における問題
粉体は前述のとおり粉1粒1粒の集合体であるため、その特性も1粒1粒の物性から構成されている面が多い。各粒子の大きさ、形状が代表的なものになる。だからと言って粒1つ1つを調べて、原料として同じものか?と調べるわけにもいかないところが粉体の難しさといえる。仮に上記表の中にある1粒100μm(0.1mm)の上白糖が10cm角の塊(市販の袋詰めの上砂糖数袋分)で存在しているとすると、1,000,000,000(10億)個の粒子から成り立っているわけである。原料として使用すると考えると、入ってくるロット毎にこれだけの粒1つ1つを全て分析することは非現実的であることが理解いただけると思う。このような事情もあり、現在では粉体の評価方法として本当に様々な目的・手法のものが混在している。代表的なものだけだが以下に挙げる。
○篩法(粒子の大きさを測定)
○レーザー回折散乱法(粒子の大きさを測定)
○動的光散乱法(粒子の大きさを測定)
○画像法:電子顕微鏡や実体顕微鏡による(粒子の大きさ、形状を測定)
○ガス吸着法(比表面積を測定)
分析する手法が様々あることは、その評価・解析が一筋縄ではいかないことを示している。その一方、様々な手法が存在していることなどから、ものつくりの現場においては以下のような問題がつきまとっている。
○全く同じ粒子を測定しても分析手法・機器が変わればその数値が異なる。
○1つの原理で同じ数値を示す粉体でも、他の原理では異なる数値を示すことも往々にしてある。
何が真実なのか?どうやったら同じものを受け入れ・作ることができるのか?
粉体に求められる要素とそれに伴う問題
一方、製造業にとって常に求められる課題である「付加価値の上昇」と「原価低減」について、粉体を用いるものづくりに適用した場合様々な要素に分解されるが、代表的な例としては以下のようなところが挙げられる。
○付加価値の上昇:小粒径化(粉を細かくする)、高機能化(粉そのものの機能を上げる、複数の粉体を混ぜて用いる)等
○原価低減:より安価な粉体への変更等
粉体そのものや結果として作られる製品の付加価値を高めるため、扱う粉体(粒)を小さくしてより長持ちする電池にしたり美しく見える化粧品を作ったりすることもあれば、コピー機に使用されるトナー粉体では構成する粒の形状を極めて厳密に制御するなどの高機能化がなされている。一方、原価低減の面ではより安価な粉体を手に入れるために海外に原料の供給元を求める(海外の工場で製造する場合おのずとこのようになることがほとんどだが)ことも多い。
これらの変化に伴って、粉体は徐々に扱いづらくかつ毎回同じものを用意または製造することが非常に難しくなる。粉体は小さくなるほど流しにくくなり(詰まったり、だまができやすくなる)、また原料ロット差はどちらかと言えば海外企業の方が大きい傾向が見られる。当然規格値を定めそれに合致したものを購入しているはずであるが、それでもこのような話は後を絶たない。
どのように対応するべきか?
前述のとおり様々にある評価方法のうち2,3の方法でかまわないので1種類の粉体(1種類に対し2つ以上のロットであることが望ましい)に対し複数の方法で評価・解析することを強く推奨する。同じく大きさを見るためであったとしても、例えば実体顕微鏡ともう一種類の手法で見るだけでも得られる情報の質・量が大きく異なってくる。初めて扱う粉体であればなおさらであるし、粉体の供給元からの情報(付属データ)のみで自社にて評価しないことはなるべく避けるべきである。幸いにも、近年各分析機器メーカーから提供されている各種の機器だけでなく、地域の工業技術センターや民間の分析センターにおいても調査・分析するための手段が整いつつある(必ずしも十分とはいえないが)。また、可能であれば、その様なセンターの技術者からもアドバイスを受けるとなお望ましい。粉体関係の評価・解析においてはノウハウの要素もかなり含まれ、手法が同一でもその技法や解釈で差が出てしまうことも往々にして見られるからである。
なお、このように複数の評価手法を例えば粉体原料の受け入れ時に必ず実施することは各企業にとってかなりの負担ともなる。通常、このように一度広く評価した後はその粉体の価値等を考慮し手法を限定しての運用することになるが、少なくとも上記のように評価・解析を行うことによりものづくりに対して新規開発においても生産の安定化に対しても良い影響をもたらすことが多い。
そのほか、可能であれば粉体原料の供給元を複数持っておくことも望ましい(少なくとも海外からの購入であれば供給元となりうる企業を複数把握しておくことが推奨される。まれではあるが、急遽粉体原料の供給を打ち切られる事例も散見されるからである)。
おわりに
少しだけ、一歩踏み出した評価・解析を行うことで見えてくる世界や成果がある。より新しいものづくりへ進む時、より安価に安定にものづくりを行いたい時是非踏み出していただきたい。
参考
粉体工学会
http://www.sptj.jp/menu.html
一般社団法人日本粉体工業技術協会
http://appie.or.jp/
■鳥居 経芳(とりい つねよし)
中小企業診断士