専門家コラム「会社全体で、子育て、働きやすい環境をつくろう」(2015年4月)
「すべての女性が輝く社会」を目指すという安倍内閣のもと様々な取組が始まり、「女性」というキーワード、女性の働き方が注目されています。たとえば、女性トラックドライバーを「トラガール」と呼び、PRする「トラガール促進プロジェクト」を国土交通省が進めているのも面白いですね。人手不足をおぎなうという側面が大きいのですが、気配りや丁寧な運転で、業界に新しい風を吹き込み、活性化につなげていこうということだそうです。現在は商品開発や店舗を任されるなど、女性が大切な戦力になっている会社が沢山あり、男性のサポートだけ、結婚までの腰かけと呼ばれた時代は遠い昔になってしまいました。
しかしながら、女性が働きつづけるために、出産、育児の壁は厚いということは相変わらずの現状です。育児との両立促進を進めるにはどんなことをしていけばよいか考えてみましょう。
<社員に両立支援の姿勢を伝える>
会社が女性に長く勤めてほしいと考えていても、妊娠を機に退職したり、育児休暇から戻ってもやめてしまう。どうしたら、働き続け、せっかく育てた人材をつかんでおくことができるのでしょうか?
会社が両立支援をしようという姿勢があることを、女性社員に積極的に伝えることが考えられます。産休・育休・短時間勤務制度を作り、両立支援をしていこうという会社の意欲を示して、浸透させていくが必要です。
まず、管理者に対しては両立支援についての会社としての方針と必要性、制度についての具体的内容を理解してもらうことをお勧めします。経営者が明確に方針を表明し、せっかく育てた人材がやめるのは大変な損失だということを充分理解してもらいましょう。
その上で、女性社員を含めた全社員に向けて、会社の両立支援への意欲と制度について知識を持ってもらうための情報発信をしましょう。法律で決まっているような最低限の事もしらないということがあります。方法としては、両立支援の内容と手続についてのわかりやすい解説書等の作成・配布や社内報、社内ネットでの情報提供、全社員への説明会の開催などが考えられます。
情報発信をしていく過程で、両立支援関する担当部署や担当者が社内に認知されるようになります。社員が気軽に相談できる体制をつくれば、勤め続けてみようと考えるようになるでしょう。
<育児休業制度の導入は有効>
育児休業制度の有無別にみた出産後における妻の就業継続の状況は、厚生労働省「平成23年版 働く女性の実情」によると、育児休業制度がありでは、75.3%となっています。育児休業は、会社に制度がなくても取得が可能ですが、「制度なし」では、同一就業継続は25.9%に止まっています。また育児休業制度があり、「利用しやすい雰囲気がある」では、81.8%が同一就業を継続しています。「利用しにくい雰囲気がある」では、同一就業継続は66.7%で、両者の差は15.1 ポイントとなっています。出産後も勤め続けてもらうためには、会社における育児休業制度の整備が有効なことがわかりますが、加えて「利用しやすい雰囲気がある」ことも重要です。
利用可能な育児休業制度の有無別にみた就業継続の状況
資料出所:厚生労働省「平成23年版 働く女性の実情」から抜粋
「第9回 21 世紀成年者縦断調査(国民の生活に関する継続調査)」(平成22 年)より厚生労働省 雇用均等・児童家庭局作成
<育児休業制度の利用しやすい雰囲気作り>
現在の職場環境は利用しやすい雰囲気があるでしょうか。まだ結婚や出産がせまっていない女性社員も、もし自分が妊娠、出産となったらこの会社で勤め続けることができるのか?ということを考えます。有給休暇がとれない、時間外労働が多い職場であれば、制度があっても利用することは無理だと感じてしまいます。産休、育休を取った社員がスムーズに職場復帰したり、短時間勤務中の社員が限られた時間内で生き生きと働いていくことができたりすれば、あとに続く女性が出てくるでしょう。
繁忙期や退職者が出た時の要員管理の工夫のある職場でしょうか?人が足りない、代わりがみつからないという理由で思うように休めなかったり、時間外労働で対応したりしていることはありませんか。そのような職場だと、産休、育休時の対応も予想ができ、仕事の継続をあきらめてしまうことでしょう。
管理者が各人の予定を調整して計画的にシフトを組む、業務量の見直すといった職場の改善に取り組みましょう。今の職場を助け合える状態にしていくことをお勧めします。これは、親の介護や自分の病気を考えた場合を考えると誰にとっても良い職場といえます。
<中小企業は、独自のルールを取り入れやすい>
中小企業は、経営者の意思で新制度や新ルールの導入を進めていくことが可能です。人員が少ない分一人一人の現状を知ることができ、導入を考えていくことができます。たとえば労使協定を結べば、5日の範囲内ではありますが有給休暇を1時間単位として与えることなどもできますが、このような制度も経営者の意思があればスムーズに導入できます。
ある小売店では、今年閉店時間を19時から18時に繰り上げることにしました。理由はそこで働くスタッフとその家族を考えての事です。スタッフは、女性が多く、19時閉店してからの作業があり、また家に帰ってからの家事は体力的に大変でした。売上に影響があっても、スタッフが無理なく長く一緒に働いていけるようにするために決断したそうです。加えて、3月にオープンしたショッピングセンター内の新店でも、19時閉店としたそうです。他店が21時から22時のなか異例といえますが、早い閉店にこだわったとのことです。中小企業のトップの意識が実現できることの大きさを感じます。
<子育ては女性だけのものではありません>
社員の一人ひとりの意識の中にまだまだ固定的な性別役割分担意識や先入観はありませんか。「女性だからこういった仕事が向いている」、「子供がいては無理」といった意識が働いていませんか?そんな意識が管理職、一般社員にあるかのチェックリストがあります。
職場における性別役割分担意識に関するチェックリスト
(厚生労働省 http://www.positiveaction.jp/09/09_01.html)
このチェックリストは、職場におけるいろいろな場面を想定しストーリーを作成されています。各場面を読んだ後、いくつかの設問に答えることにより、各自が持っている思い込みに気づいてもらうことを目的に構成されています。各職場でチェックしてみましょう。
経営者だけでなく、職場における上司である中間管理職の果たす役割は大きいものです。また、女性社員自身の意識が重要であることはいうまでもありません。性別役割分担の意識をチェックすることで、無意識の行動を変化させるきっかけとしましょう。経営者、中間管理職、女性社員自身の三者がそれぞれの立場で意識改革が必要です。子育ては、女性だけのものではありません。それぞれの事情や性別にとらわれず、会社全体で働きやすい環境を作っていきたいものです。
■小暮 美喜(こぐれ みき)
中小企業診断士
(一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員
主な専門分野、業種:マーケティング、小売業
著書:効率経営から「おもてなし経営」の時代へ 同友館 共著