木伏 源太

 私自身の生い立ちの中での経験も踏まえて言うと、廃業を円滑に進めるためには経営者の個人保証債務問題の解決が大変重要である。廃業への取り組みは、会社の財務状況が良好である場合や経営者が十分な個人資産を有している場合には比較的やりやすいが、そうでない場合にはなかなか着手しづらい。着手が遅れることで、経営状況の悪化等によって取り組みがより一層難しくなる場合もある。
 本稿では、2014年2月から適用が開始された「経営者保証に関するガイドライン」と2014年10月の改正法施行により行われるようになった地域経済活性化支援機構による債権買取を利用する方法について紹介する。

金融機関に対して廃業支援を求める金融庁の方針
 経営者の個人保証債務の問題は、金融機関からの借入金に関する問題である。ご承知の通り、各金融機関は金融庁による監督を受けており、金融機関は金融庁の方針に従って融資等の業務を行っていると言える。2011年5月の金融庁の方針(監督指針)の改定があり、各金融機関は「事業の持続可能性が見込まれない顧客企業」に対しては廃業支援等を行うように求められている。
 従前は、各金融機関には中小企業の経営改善、事業再生や業種転換、事業承継の支援を行うように求めていたところに、債務整理を前提とした廃業支援が加えられたことは関係者の間で一定の衝撃を持って受け止められた。

経営者保証に関するガイドラインの策定・適用開始
 金融機関が債務整理に応じる際には「拠り所」(準則)が必要になってくる。例えば、2001年に策定された「私的整理に関するガイドライン」などが準則である。経営者保証については、2013年12月に「経営者保証に関するガイドライン」(以下、経営者保証ガイドラインという)が策定・公表され、2014年2月から適用が開始された。
 この中では、経営者及び第三者保証人の個人保証について、
・多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
・保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること
 などが定められている。

地域経済活性化支援機構による債権買取を利用した個人保証問題の解決
 ところで、地域経済活性化支援機構という組織がある。この組織は、2013年3月に従前の企業再生支援機構が改組されたものであり、事業再生や地域経済を活性化する事業活動を支援する業務を行っている。2014年10月には株式会社地域経済活性化支援機構法が改正施行され、「経営者保証の付された貸付債権等の買取業務」を行うことができることになった。
 この業務は「特定支援業務」と呼ばれ、機構が金融機関等から経営者保証の付いた貸付債権等を買い取り、事業者(主債務者)の債務整理を行うと同時に、経営者の保証債務について経営者保証ガイドラインに従った整理手続きを行うものである。
 機構による特定支援業務開始後、2014年内にも100社弱の企業が信用金庫、政府系金融機関、地方銀行などを通じて支援を打診したと報じられており、すでに積極的な利用が始まっている。

 本稿では、円満な廃業のために経営者の個人保証債務を整理する方法の一つとして、地域経済活性化支援機構の活用について紹介した。
 当然ながら、地域経済活性化支援機構の活用は個人保証の問題を解決するための唯一の方法ではない。ただ、今般新規の取り組みとして業務が開始されたものであり、国会においても附帯決議で機構に対して、「経営者保証ガイドライン」に基づく保証債務の整理のベストプラクティス(模範となる事例)を示すよう努めることを求めている。
 そのため現時点では、個人保証問題を解決する際の支援機関として有力であると言えるだろう。

 末筆ではあるが、廃業問題に悩む経営者、またそうした経営者を支援する専門家にとって本稿が少しでも参考になり、円満な廃業が実現されるケースが1件でも増えることを祈念させていただく。

【参考ホームページ】
地域経済活性化支援機構
http://www.revic.co.jp/

地域経済活性化支援機構 特定支援業務
http://www.revic.co.jp/business/specific6.html

■木伏 源太(きぶし げんた)
日本経営システム株式会社 マネジメントコンサルタント
中小企業診断士
一般社団法人中小企業診断士協会東京支部中央支部 執行委員