専門家コラム「今年の中小企業白書(2014年版)を読み解く」(2014年8月)
昭和38年に中小企業基本法が施行されて以来中小企業白書が刊行されて、今年で51年目、今年の中小企業白書は半世紀を経て、新たな時代を切り開く分析・提言がたっぷり記述されています。以下は白書内容を踏まえた私なりの所感です。
1.超少子高齢化人口減少社会の進行
2011年から我が国の人口は既に減少が始まっています。都道府県別には現在人口が増えている都府県(東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、滋賀、大阪、福岡、沖縄)はわずかで、それ例外は減少しており、特に地方の人口減少は顕著です。また、2040年にはすべての都道府県で人口が減少するというショッキングな予測もあります。経済的には、国内のお客様が減少すること、つまり国内市場の着実な縮退を意味します。
2.中小企業者・小規模企業者の減少
平成24年のデータで中小企業者は385万社、その内の87%である小規模事業者は334万社と3年前に比べると中小企業者は35万社も減少しています。また今後も減少の一途を辿る可能性があります。
3.休廃業・解散件数が増加
リーマンショック後施行された金融円滑化法の期限切れが平成25年3月末に到来し、倒産動向が心配されましたが、関連機関の協力もあり、5年連続で前年より件数・負債金額とも減少しています(2013年度)。一方、休廃業・解散件数が倒産件数の倍近くあること、また企業家数は毎年20~30万人の企業家が一貫して誕生しているものの、近年企業希望者が急激に減少(160万人台→80万人台へと半減)していることが問題視されています。
4.事業承継・廃業対策
廃業を決断した理由は、「経営者の高齢化・健康問題」が約5割です。また廃業に関する相談相手は「家族・親族」が約5割、しかし「誰にも相談していない者」が約3割にものぼっています。小規模事業者の第三者承継を検討している企業は46%(中小企業者は38%)あり、後継者ニーズのある企業とマッチングさせ、長期的にフォローアップしていく必要があると分析しています。
5.「小規模事業振興基本法」の施行
白書では小規模事業者を「成長型」(18%)と「持続・充実型」(77%)と分類しています。従来の1999年の中小企業基本法改正では、「自助努力」、つまり、成長志向する18%の企業を支援する方針に政策転換されました。しかし前述のように、まさに日本経済は「下りのエスカレーター」状態で、持続維持することさえ困難な時代に突入し、この77%の「維持・充実型」企業への支援も重要とパラダイムシフトしたことになります。「小規模事業振興基本法」はこのような背景のもと公布、施行されました。このやや保護主義的な政策の寄り戻しはベンチャー企業の経営者からの批判も聞こえてきそうです。
6.今年は消費税(5%→8%)値上げの年
今年は二度目の消費税の値上げの年となりました。消費税を導入した竹下政権、3%を5%に引き上げた橋本政権、そして5%→8%→10%の値上げを決めた野田政権もその後、失脚の道を辿りました。アベノミクス効果で景気回復の傾向にあるものの、その景気回復は中小企業、特に小規模事業者までは行きわたっていないと分析、その効果を浸透させるためにも小規模事業者への支援は益々必要と考えているようです。
7.「施策アップ」と「よろず支援拠点」
国、都道府県、市町村とそれぞれの段階で現在中小企業対策が打たれているのですが、その施策はバラバラの状態で現状体系づけられていません。また情報の入手ルートや分かりやすさも不十分です。しかし、施策を活用した企業からはおおむね好評価を得ているというのが国の認識です。いわゆる国・都道府県・市町村間の「情報の非対称性」も存在し、タイムリーに適切な施策を企業に情報提供することこそ重要という結論に至っています。そこで登場したのが、「施策アップ」です。WEB(ミラサポ)上で国、都道府県、市町村の施策が一覧で検索、抽出できるようになりました。また、「よろず支援拠点」は今年度全国に拠点が設置されますが、こちらはリアルな支援体制で、1)総合的・先進的経営アドバイス、2)チームの編成を通じた支援、3)的確な支援機関等の紹介の機能があります。これからはこの二つの施策や動画活用、施策説明会等の合わせ技で的確に施策を伝えていこうとしています。
8.消費税増税後の動向
消費税増税後、内閣府から8月13日に4月~6月期のGDPの速報値がでました。実質で前期比1.7%減、年率換算で6.8%減でした。4月の消費税増税で個人消費が前期比5.0%減と落ち込んだほか、住宅投資や設備投資なども減少したことが影響しました。個人消費は統計上で比較可能な1994年以来、過去最大の落ち込みです。1997年4月に消費税率が5%に引き上げられた際、1997年4月~6月期の実質GDPは年率3.5%減でした。今回の下げ幅はさらに大きく、増税が日本経済に与えた影響は1997年時よりも大きかったことになります。東日本大震災の影響があった2011年1月~3月期の年率6.9%減以来の大幅な落ち込みとなりましたが、民間シンクタンクが事前に予測した平均7.3%減よりは悪くなかったという意見もあります。
9.まとめ
4月~6月期のGDP速報値には様々な見方があると思います。いずれにしても政府は来年10月の更なる消費税増税を見据え、景気動向にはいつも以上に敏感にならざるを得ません。特にこの7月~9月期の動向によって平成26年度の補正予算、景気対策が講じられる可能性があります。また、年末には消費税10%実施の見極めがされるとも言われています。その動向や国の施策には今後も引き続き注目したいと思います。
■伊藤 孝一
【略歴】
中央支部総務部所属 執行委員
中小企業診断士、1級販売士、ITコーディネータ、特定社会保険労務士
【著書】
顧客情報活用の知恵(共著:同友館/2000年4月)
中小企業診断士1次試験重要事項総整理(共著:法学書院/2005年1月)
雇用形態別人事労務の手続きと書式・文例(共著:新日本法規出版/2013年1月)
月刊企業診断8月号「業績アップの人事労務」(共著:同友館/2013年8月)