専門家コラム「『サイグラム』を活用したコミュニケーション能力の向上」(2014年1月)
西原 寛人
●はじめに
われわれは日常、家族や友人、職場の同僚や上司・部下、顧客など様々な人々に囲まれ、多くの人とコミュニケーションをとりながら生活しています。しかしながら毎日顔を突き合わせている家族であっても、自信をもって良好なコミュニケーションをとっていると言い切れる人は少ないのではないでしょうか?(こちらは取れていると思っていても相手はどうでしょうか?)
「コミュニケーション能力を高めたい」それはストレスに囲まれた現代社会において、周りの人と良好な人間関係を築き、ストレスを軽減してより自分らしい生き方をするためにも、程度の差こそあれ誰もが思うことではないでしょうか?
それでは相手との良好なコミュニケーションを構築するためには具体的にどうすればよいのでしょうか。コミュニケーション能力を高めるためには5つのステップがあると言われています。
①自分のことを良く知ること
②相手のことを良く知ること
③自分と相手の違いを知ること
④相手との接し方、付き合い方を知ること
⑤相手のことを認めること。
この5つのステップを最短で、迷うことなく、楽に登っていく道案内としての非常に有効なツール、それがサイグラムです。
サイグラムでは人が生まれながらに持っている性格・性質(気質)を「意志決定要因(3類型)」と「対人対応要因(2類型)」から類型化を行っています。この類型を知ることによって、家族分析や企業の組織診断、タイプ毎のコミュニケーションの取り方、営業方法などいろいろな場面で活用することができます。
今回はサイグラムを使った対人対応の2類型について紹介したいと思います。
(意思決定の3類型に関しては、当コラム2012年5月号
http://rmc-chuo.jp/home/mt/archives/2012/05/20125_3.htmlをご参照ください)
●対人対応の特徴により人間は2つのタイプに類型される
対人対応には、初対面の相手であっても自分の事をオープンにできる「楽観派」と相手と一定の距離をとって相手を観察する「慎重派」のどちらかに分類されます。
これは人間が生まれながらもつている性質のことです。後天的に影響を受けた家庭環境や教育、職業特性などにより極端なタイプ特性がそのまま表に出るケースは少ないと思いますが、このタイプの違いは確実に存在しています。そして誰もがどちらかのタイプに属します。
それでは「楽観派」「慎重派」それぞれどのような特徴を持っているのか概観します。みなさんも自分がどちらのタイプなのか考えてみてください。繰り返しますが「生まれながらに持っている性質」のことです。エリートビジネスマンや優秀なセールスマンとしての自分や、子供達に優しい母親や、カリスマ講師としての自分、など後天的に身につけた特質を一旦忘れて本当の自分の心の声に耳を傾けて見てください。
●「楽観派」「慎重派」それぞれのタイプの特徴について
<楽観派>
素直な楽天家で、周りを気にせずマイペースで進みます。物事の捉え方は大雑把で、部分的な緻密さにはかけるきらいがありますが、主観的な洞察力に富んでいます。対人的な警戒心が少なく、常に自分からの能動的な働きかけを心がけていて、正直に自分を解放しています。
(代表的な特徴)
・自分のことが知りたい。
・自分のことをオープンにして相手の警戒心を呼び起こさない。
・活発な社交を通じて自分のことを知ってもらいたい。
・相手を信じやすいため、対人的な注意力が散漫になりやすい。
・人に見せる「親切心」の裏には「甘え」が潜んでいる。
<慎重派>
周りの人と一定の距離を置きながら、堅実に前に進んでいくのが慎重派の特徴です。物事の捉え方は部分的で細かいため、おおらかさや融通性に欠けるきらいはありますが、客観的な観察力に富んでいます。対人的な警戒心は強く、相手からの能動的な働きかけを誘うため、受身の傾向があります。
(代表的な特徴)
・相手のことがわかりたい。
・相手と一定の距離をおき気遣いを心がけ相手の警戒心を防ぐ。
・控えめな社交の中で、徐々に本来の自分を出していく。
・相手を客観的に見るために、対人的な注意力は鋭くなる。
・人に見せる「親切心」の裏には「警戒心」が潜んでいる。
●2つのタイプとコミュニケーションについて
この2つのタイプはどちらが良い悪いということではなく、それぞれが相手の持っていない基準を持っているということです。楽観派の人からするとコミュニケーションは「明るい」「暗い」という基準で考えがちですが、慎重派の人からすると「鋭い」「鈍い」という基準で見ています。また同じタイプ同士であれば、親近感・共感・安心感を得やすいですが、異なるタイプ同士では違和感・対立感・不安感を感じてしまいます。
このように、その評価基準が全く異なる相手と接するというところがコミュニケーションの難しいところです。例えると同じグラウンドの中で、片方はサッカーのルールでもう一方はラグビーのルールで試合をしているようなものです。
サッカーのルールしか知らない人が、サッカーの試合をやっていると思っているときにいきなりタックルされたら驚いてしまい試合にはなりません。審判がレッドカードを出さなかったら試合放棄してしまうでしょう。しかしこの試合がラグビーとの異種競技試合であることを知っており、ラグビーのルールを理解していたら事情は変わってくると思います。ラグビーの長所(タックルOK、ハンドOK)短所(前に投げられない、落としてもNG・・)を知っており、ユニフォームが違っていてどちらのルールで試合をする人なのかわかっていれば試合としては成立すると思います。
サイグラムの2類型も同じことが言えます。まず自分がどちらのタイプに属しているのかを知ること。そして相手がどちらのタイプのルールでコミュニケーションをとっているのかを理解し、自分と相手の違いを知る。これができるだけで今までの手探りのコミュニケーションから脱却して、相手との良好なコミュニケーションを作り上げるスタートラインに立つことができます。
●終わりに
相手と話していてどうもうまくコミュニケーションがとれない、違和感を覚えると思ったら今回の「楽観派」「慎重派」の特徴を思い出して下さい。違和感の原因がタイプの違いに起因するかもしれません。タイプの違いが原因とわかれば無用なストレスを抱える必要がなくなり、今まで苦手に感じていた人とのコミュニケーションがスムーズに進むのではないでしょうか?是非活用してください。
<サイグラムとは>
サイグラムとは一般社団法人日本パーソナルコミュニケーション協会代表理事、武蔵野学院大学准教授 吉井伯榮氏が創案した実践的なコミュニケーション・メソッドです。
サイグラムを学ぶことで対人関係のストレスが劇的に軽減されるだけではなく、家族の関係、会社内での同僚・上司・部下との関係改善にも大きくメリットを感じさせるものです。また中小企業診断士としても「組織改善」「営業ツール」などに応用できるメソッドとして知っておくべきものと実感しています。
*「サイグラム」は商標法により保護された登録商標です
<参考文献>
「サイグラム 史上最強のコミュニケーション・メソッド」吉井伯榮著 成甲書房(2013年)
■西原 寛人
東京都中小企業診断士協会認定「サイグラム」コミュニケーション研究会 幹事
中小企業診断士