専門家コラム「人を活かす人事評価」(2013年9月)
【はじめに】
給料(給与)やボーナス(賞与)に人事評価の結果を活用することは誰でもわかると思います。評価結果を相対化し、標準評価の処遇を中心に、最高評価から最低評価まで区分されて処遇が決まります。そのほか、人事評価の結果は、任用・配置・人材育成にも活用されていますが、どのように考え、どのように活用するのか、わかりにくいところがあります。その点について解説します。
【「過去に報いる」形の「処遇」】
給与やボーナスには業績評価や能力評価などといった人事評価の結果を反映させます。管理職以外の一般従業員の場合、賞与には、個人目標の達成度や組織目標への貢献度をもとにした業績評価の結果を反映させ、給与には、上記の業績評価と個人の職務遂行能力に着目した能力評価の結果を総合的に判断して処遇を決めます。
いずれにしろ、給与、賞与といった金銭的な処遇は、「過去に報いる」形をとります。評価期間における過去の働きぶりを次の期間の給与、賞与に反映させる。過去に報いる給与、賞与は人事評価の過去の結果に依存するので、人事評価は、評価期間における「過去」の職務遂行上の実績や行動を評価することになります。
【将来への投資につながる「任用・育成」】
これに対し、任用・配置・人材育成への活用は、給与、賞与といった処遇とは異なり、「将来への投資」という視点が加わります。昇任・昇格といった任用管理の場合、人事評価における過去の実績や行動も考慮されますが、将来への可能性も考慮することになります。
人事評価の結果をもとに昇任・昇格の候補者をリストアップし、審査を行って昇任・昇格者を決定します。審査にあたっては、人事評価によって「過去」の実績や行動が考慮されますが、人事評価では評価されない「保有能力」や「潜在能力」、「人物評価」も加味されることになります。
【採用時の評価と採用後の評価】
人事管理における評価は、ひとつの事実、ひとつの行動をもとにひとつの評価を決めることを基本とし、多重評価による評価の誤り、振れを避けます。ひとつの例を挙げるならば、採用時には人物を評価します。生年月日、適正、最終学歴を限定して募集し、面接で本人の考え方や人柄といった人物評価を行い、これを参考に採用を決定します。採用後、人物評価はしませんが、人物評価は、人事評価とは別に活用されます。
【仕事の成果と職務遂行能力】
採用後は仕事での働きぶりに注目し、仕事の成果と職務遂行能力に注目して人事評価を実施します。人事評価では過去の仕事の結果とプロセスに注目します。職務遂行能力はさらに、発揮能力、保有能力、潜在能力に分類されますが、人事評価の対象は発揮能力です。
【発揮能力(過去形)】
「いざとされば、○○するだろう」というのが潜在能力です。潜在能力の時制は未来形です。「○○する力がある」というのが保有能力で、時制は現在形です。資格や免許が保有能力の対象と考えられます。「○○する力があった」というのが発揮能力であり、時制は過去形になります。
仕事の成果=業績評価を「過去」の事実としてとらえることはご理解いただけると思います。人事評価の誤りのひとつに寛大化傾向があります。自己評価にせよ、評価者の評価にせよ、保有能力、潜在能力まで評価することが寛大化傾向になる最大の原因と考えられています。20年ほど前まで日本の主流であった能力主義では保有能力まで評価の対象としていたことがあり、誤解されがちです。「過去」に報いる形の給与や賞与に反映させる都合上、能力評価の対象は過去形で表される発揮能力であることをご理解願いたいと思います。
【人を認める】
経営者や管理職の皆さんには、従業員を「認める」という視点を忘れないでほしいと思います。仕事の「実績」や「発揮能力」はもちろんのこと、人事評価では反映されない「潜在能力」や「人柄」も認められれば人のモチベーションは上がります。日常の仕事の中では「潜在能力」を認め、「人柄」を褒めることが職場の活性化につながります。但し、人事評価の対象は、評価期間における過去の仕事の「実績」や「発揮能力」です。これは前述のとおり、給与・賞与に反映させるため評価の対象を絞り込むわけです。
人事評価の研修・指導の中で「潜在能力は認めるべきではないか」「人物評価をすべきではないか」という質問がよくあります。「潜在能力」や人物評価の「人柄」が人事管理の中で全く無視される訳ではありません。人事評価では対象外となりますが、昇任・昇格や人材の育成・活用面では、人事評価とは別に、「潜在能力」や「人柄」などが考慮されるということをご理解いただきたいと思います。
■小林 亮輔(こばやし りょうすけ)
中小企業診断士
賃金管理士
千葉県生まれ
早稲田大学商学部卒業
専門は、目標管理、人事評価、人材育成、賃金管理などに関する指導、制度構築など。