弥冨 尚志

 
 
 金融円滑化法が施工されたのは2009年12月でした。時限立法としてメディアでも1年程度?みたいな憶測もありましたが、延長に延長を重ねましたが来月3月を持って終了する運びになりました。昨年の今頃は終了後、中小企業が厳しい経営状態に陥ると不安のみを煽る報道も多かったのですが、終了を目前にしてどうでしょうか。
【円滑化法終了後に起こること】
 まず、各金融機関が一斉に貸しはがしなどに走ることはないと言われています。これは2月14日に内閣府副大臣の名で各都道府県に通達が出されていることでも明らかのように、政府としては借り手である中小・零細事業者が不安を感じることのないように官民挙げて総合的な対策を講じていくことを明言されています。ここではその具体策までは紙面の都合上、言及しませんが、国や自治体が対策を立てたとしても今まで通りではないことも確かです。それは金融機関の対応が今までより厳しくなるのは当然、予想される事態です。円滑化法を活用している企業へのモニタリングの強化や更なる経営計画の改善やその実行を強く求められるケースも増えてくるでしょう。
 先月、先々月のコラムでも経営(改善)計画の重要性やその効果について詳しく述べられている通り、円滑化法活用企業でなくても「経営計画」の必要性は益々増してくるでしょう。
【計画通りには行かない】
 今回の金融円滑化法制定の背景にはご存じの「リーマンショック」が引き金となっています。それまでは景気も緩やかながら回復基調にあったのが一変に激変。あっという間に売り上げが3割減、半減、8割減と信じられない速度で景気も悪化し連鎖倒産の危機がありました。みな同様に「こんなはずじゃなかった」・「どうしようもなかった」と半分諦め気味で肩を落としていたものでした。確かにどんな素晴らしい経営計画を立てて、それに基づいた運営を行っていても、自社ではどうしようもない外部要因で危機的な状況に追い込まれることは多々あります。記憶に新しいところでは東日本大震災などが将に、自社ではどう対応することもできない事象です。
 想定外のことが起こる。これは冷静に考えれば当たり前でしょう。取引先の倒産なども予期せぬことかもしれませんが、与信管理などをしっかり行っておけばある程度のリスク軽減は図れます。しかし相手が自然災害や国際的な紛争や経済事故ではどうしようないのが現実です。だからと言って経営計画なんて立てるのは意味がないということではありません。不測の事態が起こらないということもある一定期間であれば起こりうる事です。ではそのようなことを想定した経営計画を立案すればいいのでしょうか?もちろんあらゆるリスクに備えた経営計画を立てるのがベストですが、経営資源が限られた中小・零細企業ではとても現実的ではありません。それではどう対応すればいいのでしょうか。
【今こそ老舗企業に学ぶ】
 現在、日本では法人・個人合わせて420万社の事業所があると言われています。その中で創業100年を超える企業が5万社以上、そして200年を超える企業が約4千社あると言われています。これらの企業はいわば”想定外”の出来事を乗り越えてきた企業と言えます。100年と言えば第二次世界大戦や昭和恐慌(リーマンショックの比ではありません)関東大震災。そして200年超えでは明治維新も乗り越えて来ている訳です。よく考えて見るとすごいことです。今、同じような事態が発生すれば(絶対あって欲しくありませんが)それこそ事業存続が危ぶまれる企業で国中、満ち溢れるかもしれません。
 私達は老舗と呼ばれる企業から「生き残る」、永続するためのヒントを得られるかもしれません。それは論理的なことではなく現実に長寿を全うしている人から教えてもらい、自社の経営に活かすのが一番早い方法ではないでしょうか。
【備えの知恵とは】
 老舗と呼ばれる企業にはその長寿を全うしている秘訣みたいなものがあるかもしれません。いわば長寿DNAと呼ぶべきでしょうか。そういうDNAイコール企業文化・社風があるはずです。
 私はそういう老舗企業の方たちとお話を伺う機会がありヒアリングを重ねていくうちにある共通項があることに気付きました。それをすごく簡単に言うなら「絆」を大事にするということに尽きます。それは顧客のみならず従業員、仕入れ先、家族、そして地域社会との密度の濃い関係性を築いています。それは企業規模によりますが規模が小さいほどその関係性の密度は高いように思えます。
 そしてもう一つ大事な視点が利益です。続いているということは当たり前ですが、ちゃんと利益を出し続けている。続けられるように利益が出ているということです。それはさきほどの「絆」と深い関係があるのです。老舗企業でも経営の危機は何度も訪れています。それこそ想定外の事態に陥ったことは2度や3度ではないでしょう。しかしそれを乗り越えて来られたのは、自分一人の力ではなく周りの支えや助けがあったからこそと考えています。だからこそ老舗企業は内にも外にも分け隔てなく関係性の構築を図るのです。それは家訓として伝承されるものもあれば、自然に当代当主が築いていくパターンもあります。いずれも”自分さえよければ良い”と言うような利己的な資本主義的価値観ではありません。利益は適正利益です。仕入れ先にも顧客にもそして従業員にも配慮した利益分配を行うことで関係性の維持に努めます。確かにもしもの事態に備えストックを持つ場合もあるでしょう。しかし一般的に老舗企業は自己資本比率が統計的に見ても一般企業と変わらないと言われています。そうだとすれば資産を持つことで備えているということではなく、内外に深く信頼関係と言う「絆」の資産を蓄積することで想定外のことに備えているとも言えます。それは同時に日頃の営業活動を行う上でも重要な要素と言えます。日頃からの高い信頼関係があればこそ、他社が容易に模倣できないサプライチェーンを構築し、地域を限定するなら大手が入って来られない参入障壁さえ築いているかもしれません。老舗企業の「備えの知恵」とは不測の事態にも対応しつつ営業展開の基盤にもなっていることがあります。
【経営計画に活かそう】
 老舗企業の持つ長寿DNAを体内に取り込もうと思うならば、誰でも出来る事ではないでしょうか。要は自社の存在意義、顧客や地域になくてはならない存在として末永く貢献していく心持があれば自然と老舗企業と言える風格を持ち合わせることが出来るのではないでしょうか。
 最初に経営計画の必要性や重要性が高まってくると言いました。しかし、その計画にはどれだけ自社が顧客や地域社会に貢献していくかが述べられているでしょうか。老舗企業の持つ”備えの知恵”には不測の事態にも対応し且つ営業展開の基盤ともなり得るものです。本当に大事な計画とは、果実の大きさや数のみを記載するのではなく、幹がどれだけ深く根を張り大地に倒れることなく立っているかを示すことです。
 老舗企業の備えの知恵とも言える事業計画や事例など次回の機会があれば具体的に触れていきたいと思います。有難うございました。
 
 
 
■弥冨 尚志
中小企業診断士
認定医業経営コンサルタント 
老舗企業研究会 所属
事業承継研究会 所属