専門家コラム「バンコクの消費動向」(2013年10月)
1.消費は堅調
タイは、面積51万4,000㎡で日本の1.4倍、人口は6,814万人、地勢的にインドシナ半島の中心地である。首都バンコクの人口は約828万人といわれる。タイでは短期的には政情不安や大洪水による経済停滞は見られたものの、近年は毎年5%近くの経済成長を遂げている(2012年経済成長率6.4%、13年は4.5~5.5%程度の見込みGDP約3,500億米ドル)。
バンコクを中心とした経済圏では交通網の発達により生活者の行動範囲が広がり大型商業施設に活気がみられる。バンコクの生活者は最低賃金の引き上げなど所得の増加も伴い消費意欲は旺盛である。消費の供給側から見てもバンコク中心部を東西に走るBTSスクンビット線に沿って、主な駅には大型商業施設が次々に誕生し消費を刺激している。
<経済指標>(1バーツ3.24円 8/24)
・2012年3月から最低賃金がB300となり2001年から2012年で約81%の上昇となった
(2012年4月1日バンコクと周辺6県、2013年より全国で実施している。)
・タイの自動車販売台数はエコカー減税もあり2012年前年比80%増加
・携帯電話の人口普及率は104%
・アパレル市場は2001年から2010年で約35%拡大、ユニクロも2011年9月から出店
・映画市場2006年から2010年で約56%拡大
・フィットネス産業毎年10~15%の拡大
・中小企業の設立登記は2013年1~5月で前年同期比+21%で3万600件に上った。主な業種は、娯楽サービス、建設、不動産、卸売業など(時事)
2.バンコクの消費階層
バンコクの所得格差は日本より大きい。消費性向が強いのはミドル層以上の生活者であり、経済成長に伴って急速に拡大するミドル層に合わせた商業施設の新規出店がみられる。
クレジットカードを作る場合、B15,000以上の月収が必要だが、大卒者の最低賃金も同額になりカードによる消費はさらに拡大していく。現在のバンコクの経済と生活者の意識は経済成長期の日本を彷彿させる。個人の消費が活発な中で、個人が低利で簡単に借りられる融資がタイの家計を圧迫しているとも言われ、これからの消費にどのような影響を与えていくかは注目である※。
<月収による大まかな階層分類>
高所得層→B60,000以上(多数の超富裕層が存在する。相続税はない。)
アッパーミドル→B60,000~40,000
ローワーミドル→B20,000~40,000未満
低所得層→B20,000以下(B15000以下の分類もある)
※最近(2013年)タイ商工会議所が1,200人に聞いた調査では64.5%が負債を抱えている。平均の負債額はB18万8774で前年から12%増えている。09年の平均はB14万7542であった。
3.物価
世界最大の旅行クチコミサイト「トリップアドバイザー」は、外国人観光客数の多い世界50都市における物価を比較調査し「旅行者物価指数(トリップインデックス)」を発表している。調査の結果、旅行者のお財布に最も優しいリーズナブルな都市はバンコクであった。因みに最も厳しい都市にはパリ(フランス)が選ばれた。東京はワースト4位(47位)という結果だった。
タイの物価は平均して日本の物価の1/3程度である。外国からの輸入品や車などは日本よりかえって高いが富裕層が大勢いるため高くても売れている。デパートでは常設で高級車の販売を行っている。
資料1:2013年タイの物価品目別情報
2013年1月現在バンコクの物価 ※1バーツ3円換算
4.主要商業施設の立地の考察
最近人気のショピングエリアは、ほとんどがバンコクの中心を西から東に通るラマⅠ世通り→プルーン・チット通り→スクンビット通りに面して立地している。この通りに沿ってBTSスクンビット線(モー・チット⇔ーオン・ヌット間27分)が走っている。料金はB15~40であり5年くらい前までは生活者にとって、一般的には高いと思われていた。乗ること自体がステータスという傾向があった。持続的な成長や昨年3月に導入した最低賃金B300もバンコクを中心に定着しだし、地下鉄等の料金も値ごろ感が出て利用客が増えている。BTSスクンビット線の駅周辺にはさらに大型商業施設の開発が進んでいる。(例:プロンポン駅前再開発中、チットロムセントラルデパート改築中、エカマイ駅昨年ソフトオープン)。
日本通の20・30歳代の印象では、サイアム駅~チットロム駅間に集中するショッピングセンター(サイアムパラゴン、セントラルワールド等)地域は大衆的だがちょっと品があり、例えて言うと東京の渋谷の雰囲気がある。日本人が多く住むプロンポン駅トンロー駅周辺は日本への憧れもあり渋谷よりもう少し上品な雰囲気のある地域と感じている。
タイでは夜も外食が盛んで、商業施設内のフードコートでも前払い制のフードコートは、1品B30~で食事ができる。また個別の日系飲食施設では約B80~何段階もある価格設定をしているが、繁盛している店はたくさんある。タイの知人の話しでは、日本食であれば、日本人の感覚で1,500円から2,000円の食事代を払える生活者はこの地域に沢山いるとのことである。
一般的な車社会の到来で、涼しい夜の時間帯に車で来て商業施設で食事することがステータスになっている。併設されている食品売り場も活気がありタイ人に交じって西欧人の家族連れなどの買い出し姿がよく目につく。一般的にスーパーは急速に清潔で品ぞろえがよくなっているが、所得の上昇とともに安心安全美味しさを求めて利用客は夜昼問わず大変多い。
スクンビット地域は日本人が多く住み、日本通のタイ人の話では、東京でいうと代官山、麻布という雰囲気がある、夜になると飲食店も多く六本木のように変化する地区もある。点在する商業施設もサイアムパラゴンやセントラルワールドまでの規模はないが、マックスバリューやフジスーパーなどを核店舗として個店の店舗が集積し集客力を誇っている。
スクンビット線沿いの大型商業施設はすでに満杯で、出店希望者は順番待ちの状況であった。
■篠部 悠
中小企業診断士
株式会社健康快速 代表取締役
一般社団法人 中小企業海外展開支援センター 顧問