専門家コラム「対話のすすめ」(2012年5月)
1.組織の問題解決に必要なコミュニケーションとは
個人が集まり、組織となって一定の目的を達成する過程ではコミュニケーションが不可欠であることは、誰もが認識している。では、次のような事例を解決するためには、具体的にどのようなコミュニケーションが必要なのか。
営業部長と開発部長が業務上の価値観の違いから対立し、その争いが業務に支障をきたしている場合、この問題の在り処としてABC3つの主張があるとしよう。
A 対立を解消できない社長(直属上司)が問題
B 対立を解消する手続きが存在しないことが問題
C 営業部長と開発部長の個人の資質や能力が問題
Aは、権力による解決を是とする主張、Bはルールによる組織の自浄能力による解決を望む主張、Cは問題を個人に求める主張である。組織は多様な価値観を持つ個人が集まっているわけであるから、問題に対する主張が1つで、すぐにまとまり、解決することはまずない。このように、異なる意見を主張したそれぞれが合意し、共同的に問題解決するためには、「対話」が必要である。
2.「対話」が意味するところ
「対話」には、内外に様々な定義がある。広辞苑では、「向かい合って話すこと。相対して話すこと。二人の人がことばを交わすこと。会話。対談。」と述べられているが、ここでいう対話は会話とはやや異なる。「会話」は「A×B×C→AとBとC」、つまり、どれに決めるでもなく、それぞれの思いを披露しあうにとどまる。一方で「対論」ともまた違う。「対論」は、相容れない意見ABCがある場合、「A×B×C→AかBかC」の選択を行う。
ここで論じている「対話」のイメージは、「A×B×C→D」根拠は、デビッド・ボームが示した「共通理解を探し出す行為」、および中原淳氏、長岡健氏による「共有可能な、ゆるやかなテーマのもとで、聞き手と話し手で担われる、創造的なコミュニケーション行為」という2つの定義である。
「共通理解を探し出す」ということは、一方で「共通理解しない部分(=違い)」もあるとの前提である。先の例題における問題の在処はAにもBにもCにもあって、相互に問題が影響し合っているかもしれない。特に組織マネジメントの場面で生じる問題は、一問一答で解決する単純な問題よりは、複雑な問題の方が多いため、対話が必要だと考えるのである。
3.戦うよりも理解に努めよ
対話は言葉を使って行われ、その言語の下位には、個人の「思考」がある。さらに、「思考」の下位には、個人の学習や経験がある。言い換えれば、「言語」は、個人の膨大な経験や学習に基づいて「思考」された内容を表現する道具であるが、そのすべてを表現できるわけではなく、限界がある。よって「対話」することは「思っていることを限られた言葉に表現して伝えるための、思考も含めた技術」なのである。
対話のためには、相手のメンタルソフトウエアとしての思考パターンを理解することが必要である。思考パターンを理解することは、例えれば、人間性がOSだとすると、その上位で思考や言動を支配するアプリであるが何であるかを理解することである。
一方で、他の人の思考パターンを知るために、まずは、自分を動かしているメンタルソフトウエアが何であるかを知ることも有効である。しかし、自分のことは「自分でわかっているつもり」になりやすい。そこで、自分の発想や相手の発想に「なぜ」を問う習慣をつけるのである。「絶対そうだ」あるいは「絶対違う」と思うときは特に、「なぜそう考えるのか」問うのである。
4.おわりに
個人は生育環境、経験や学習の違いに加えて、それらを動かすOS×アプリもそれぞれ異なるのであるから、主張に違いがあって当然である。A案、B案、C案から最善を選ぶのではなく、「違い」をすりあわせ、A案、B案、C案から最善を作ることができれば、それは組織の強みになっていくと考える。
■橋本 泉
中央支部。
人材育成、組織開発、マーケティング等の分野で、小売業・サービス業を中心としたコンサルティングを行う。