専門家コラム「広告制作“力”を全国へ展開」(2024年4月)
1.広告制作業をフランチャイズにした会社
(1)フランチャイジー募集
A株式会社は映像広告を制作する会社です。2016年に創業し、制作された広告はホームページに掲載されているものだけで約70本。従業員は社長おひとり、映像作成にあたっては、作品単位でカメラマンなどの技術者と契約して臨まれています。したがって、固定的な人件費は社長への役員報酬だけ。この面では、ローコスト経営となっていますが、機材の更新はかなりの頻度で求められるために償却費負担は嵩む傾向にあり、編集ソフトのライセンス使用料も高額なため、固定費は少なくありません。新型コロナウイルス感染症による経済停滞によって広告需要も低下し、債務超過に陥っています。なんとかして黒字に戻さねばと、積極営業政策へ転嫁するとともに試みたのが、広告制作のフランチャイズ事業化でした。
(2)フランチャイザーとしての現況
フランチャイズ募集を始めてから、約半年で24社をフランチャイジーとして契約するに至っています。応募そのものは、契約数の倍近くあったようです。1都道府県に1社として契約していますので、24社ということは、47都道府県の約半数にA社のフランチャイズを名乗る拠点ができた状況です。
(3)広告制作と広告主直接取引の実績
A社は、動画制作が起点です。社長S氏もご自身でも撮影・編集を行われます。とはいうものの、撮影はより専門性の高いカメラマンに委ね、ご自身はプロデューサーとしての立場を務められることが多くなっています。A社は広告代理店を通さない受注を行っておられますので、社長の重要業務は価格交渉と撮影スタッフの報酬を中心とした経費コントロールです。この経験から、広告の質とともに、透明で適正な価格設定が重要な競争要件と社長は認識されています。この2つの要件を提供できるフランチャイザーとして加盟者募集へ向かわせた契機になったものと推測しています。
2.フランチャイズ募集
(1)募集の方法
全国規模で加盟者を探すため、S社長はフランチャイズ比較サイトを通じて募集を始められました。具体的には「フランチャイズの窓口」を利用されてました。また、ご自身のブログやNoteなども使って、重層的に募っておられます。
(2)フランチャイズ比較サイトの現況
フランチャイズの窓口以外にもフランチャイズ募集をしている「フランチャイズ比較サイト」は主なところだけでも10サイト近くあります。そのなかで、掲載数が多いサイトを挙げると次のようになります。
(3)フランチャイズ業界からみると
フランチャイズチェーンは、日本フランチャイズ協会の調査によると、1,282チェーンあるとされています。チェーン数をみると、近年は横這いとなっているものの、加盟店1店あたりの売上高は年率約2%で増え続けており、全体としては、成功が続いているビジネススタイルといえるでしょう。業種別にみると、チェーン数では、外食業が多く、店舗数では、小売業が最多。広告制作業のようなB to B前提の技術を取引するビジネスは統計の業種項目には見当たらず、僅少もしくは皆無であろうと考えられます。
3.強みを生かしてフランチャイザー起業
(1)あなたの会社の「良さ」
類似業種は見当たりませんが、フランチャイズ比較サイトを利用されている「フランチャイザー」は自チェーンの良さを「商品」として掲げられています。良さは、強みの現れです。
A社にとっての強みは、映像広告がもつ質の高さであり、透明な価格設定でした。作品の質の高さは、門外漢の筆者でも強みであることが分かりますが、透明な価格設定が強みというには少し説明を補わなくてはなりません。広告業界では、広告主によって価格がまちまちであることが少なくありません。広告発注経験が少ない広告主は、価格交渉力が乏しく、結果的に高い広告費を払うリスクに曝されます。これは、広告主が発注を迷う原因になっています。その一方、制作側にはフリーランスの方が多く、広告主の価格交渉力が高い場合、価格引き下げを受入れざるを得ないケースも少なからずあります。いずれの側から見ても、リスクから解放される機能があり、映像広告の発注を促す効果があるのが透明な価格設定です。
(2)はじまりは強みを生かすこと
中小企業診断士は、事業者を支援するにあたって、SWOT分析を行うことが一般的です。SWOTのS(Strength=強み)を見出し、それをSWOTのO(Opportunity=機会)に当てはめ、ビジネスが成功するように方向づけていきます。全てのはじまりは強みに気づき、生かすことです。S社長は、このSWOT分析そのものを実施されたわけではありませんが、フランチャイズ化の着想はSWOT分析そのものでした。そこで見つけた強みをフランチャイジー候補へ訴求することがフランチャイズ化の起点と言えます。
(3)広告制作業の将来
広告制作業は、フリーランスの技術者を主体とした、協働はするものの同業者連携には乏しい業界でした。そこへ、You Tubeなどのテレビ以外の新しい媒体が登場し、映像制作者の数も増えました。撮影機材も、電子技術の進歩に伴って、汎用品化しつつあり高機能品の入手が容易になりつつあります。これらをネット経由のコミュニケーション力が結びつける世界ができつつあります。こういった背景の上に、S社長の着想が、技術者をビジネスの根幹で結びつける役割を果たしつつある、と見ることができます。広告代理店を介さない広告制作ビジネスが広く拡散していく可能性を感じます。
太田 一宏(おおた かずひろ)
経済産業大臣登録 中小企業診断士
日本商工会議所認定 販売士1級 /日本販売士協会登録講師
大手タイヤメーカーに勤め日米欧にて小売を含めた販売組織を運営
コンサルタントとして独立後は「凡事徹底」を基礎にした販路開拓を中心に
幅広い業種の中小企業成長を支援