いまやIoT(Internet of Things)という言葉を新聞やメディアなどで聞かない日はなく、バズワードと言われるような一時的な流行語の域を超えてきている感さえあります。本コラムでは、なぜIoTがここまで注目されているのか、企業経営にどのように活かしていけばよいのか、そしてIoTビジネスのアイデア発想術に触れていきます。

【IoTは見逃せないトレンド】

 IoT関連ビジネスは、2020年には世界中で約365兆円という巨大な市場になるという予測までなされています。また、米国では、1,000社以上のベンチャー企業が消費者向けのIoTビジネスを続々と立ち上げているそうです。製造業においては、「第4次産業革命」、「インダストリー4.0」の中で新しいビジネスモデル創出の中核技術としてIoTが注目されています。
 国内では、大手企業を中心にすでにIoTビジネスを始めているところもあれば、コンソーシアムを形成しているところもあれば、企画部門を立ち上げたばかりというところもあります。一方で、ベンチャーやスタートアップの企業なども続々と参入してきています。経済産業省でもIoTに関する戦略を立案していますし、「世界に先駆けた民間の未来投資を誘発する取組」として予算も振り分けられています。もちろん大学などの研究機関でも研究が進んでいます。今まさに産学官が連携してIoTビジネスの創出を目指しています。
 どの業界、どの規模の企業にとっても、IoT分野を意識した企業経営や事業開発は取り組むべき課題であり、新たな収益を生む機会であり、見逃せないトレンドと言えるでしょう。

【技術の進展がIoT化を加速させる】

 しかし、「そもそもIoTとは何か?」、「何から始めたらよいのかわからない。」といった方も多いのではないでしょうか?IoTは直訳するとモノのインターネット化であり、具体的にはセンサーをあらゆる場所に配置することで、物理的なモノ(ヒトを含む)とインターネットを結びつけることです。
 構成要素としては、
①スマートデバイスやセンサーなどモノの情報を収集するデバイス
②近距離無線やSIMなど情報のやり取りを行う通信
③得た情報を分析し、付加価値を加えるパブリッククラウドなどの処理システム
があり、これらの技術がIoT化を実現します。
 よくIoTと一緒に取り上げられるものにM2M(Machine to Machine;機器と機器を結ぶ)という考え方があります。その始まりは1980年代のFA(Factory Automation)、つまり工場内の計測機器と設備を有線ケーブルで結び、コンピュータ制御することで生産効率や品質向上を図る取り組みでした。考え方としてはIoTと非常に近く、IoTがM2Mを内包しているともいえるのですが、時代の変化により以下の点が決定的な違いとして挙げられます。
1.センサーの小型化/低コスト化
2.プロセッサの小型化/低コスト化
3.無線通信など通信範囲の広域化/通信の低コスト化
4.デバイス特にスマートフォンの爆発的普及
5.ビッグデータ技術の進展
 当時は大企業や大規模工場しか導入できなかった仕組みが、これらの技術革新により、誰でも導入できるといっても過言ではないような状況を作り出しました。

【IoTビジネス参入方法はさまざま】

 では、「どのようにIoTをビジネスに活かすか?」ですが、大きくはIoTの基盤技術を提供する側と活用する側に分けることができます。
 現状、IoTのプレイヤーとしては、
1.センサーや機器などを提供するデバイスメーカー
2.通信ネットワーク事業者
3.システムソリューション事業者
4.IoT向けプラットフォーム事業者
5.上記をうまく活用しIoT化を推進する事業者(ユーザー)
が挙げられます。上記1.~4.の関連事業者であれば、いかにして技術提供側として参入すべきかを考えていくべきでしょう。特に、5.のユーザーに対し、ユーザーと共にどのようなサービスを構築するのか、あるいはユーザー自身もどのように活用していくのか、ユーザー視点、さらには消費者視点を駆使して考えていくことが今後のIoTビジネスの醍醐味であると言えます。

【IoTの本質はモノをインターネットにつなぐことではない】

 さて、ユーザー視点でIoTを活用していくときに考えなければならないのは、IoTはあくまで手段であるということです。IoTはユーザー(企業や消費者)の課題を解決するのに役立ちます。例えば、可視化されていないデータをデジタルに収集し見える化し、分析し、最適化することで、コスト削減や業務効率化、付加価値向上を狙うことができます。工場のラインや物流・公共インフラなどをIoTで見える化、分析、最適化することで業務効率化につながるでしょう。また、自社製品、サービスをIoT化することで、付随サービスのコストダウンや付加価値向上につながるでしょう。
 さらにその先に、今まで全く考えられなかったようなビジネスイノベーションを起こすことが期待されています。あらゆる業界、あらゆる領域でイノベーションの可能性があります。極端な言い方をすれば、今現在インターネットにつながっていないモノやヒトをインターネットにつなげれば、新しい価値が創造される可能性があるのです。その過程では、「製造業のサービス化」や「”モノ”から”コト”へ」といった今ある製品をサービス化していく発想が求められますが、逆に「サービスのモノ化」、つまり「インターネットに接続されたモノを通じて、新しいサービスとしての価値を提供する」という発想も求められていると言えます。

 イノベーションの事例としては、海外のウェアラブル機器の事例が良く取り上げれられますが、ここでは、国内中小企業のIoT事例集を紹介します。
 近畿経済産業局 地域経済部 情報政策課「平成27年度 IT分野における先進的知財アイデア(新IT知財)応用商品事業化促進調査」:http://www.kansai.meti.go.jp/2-7it/report/frontiers2016.pdf

 また、経済産業省では、「中堅・中小製造業向けのIoT活用先進取組事例」を募集していました(平成28年11月30日に締め切り)。冊子や白書などでの本公開はまだですが、ロボット革命イニシアティブ協議会の「ユースケースオンラインマップ」に一部がβ版として公開されています。
 ロボット革命イニシアティブ協議会「ユースケースオンラインマップ」:http://usecase.jmfrri.jp

【IoTビジネスアイデア創出方法】

 最後にIoTビジネスのアイデア創出方法について触れたいと思います。前述の通り、IoTはあらゆる業界、領域でイノベーションを起こす可能性を秘めています。可能性がありすぎるがゆえ、何から考えれば良いのかわからないということもあるかと思います。議論をするにもまずはたたき台が必要です。そこで、初期のアイデアを創出するために、以下の8つの質問がヒントになります。

Q1. ユーザーは誰か?
IoTツールやサービスを使用する事業者や消費者を決めます。ユーザーは既存顧客に限る必要はありません。IoTは、資産やスキル、時間的、場所的な制約のために製品やサービスを受けることができなかった未開拓の顧客にも価値を提供できる可能性があります。

Q2. どのような課題を抱えているのか?
ユーザーあるいは潜在顧客が抱えている課題を考えます。ユーザーが不満に思っていること、より満足度を上げられることは何かを考えます。特に「何をリアルタイムで統制、達成、発見、共有したいのか?」といった問いかけにIoTは有用に働く可能性があります。

Q3. モノは何か?
対象となる物理的なモノやヒトを考えます。あらゆるモノが対象となりますので、身近なモノからかけ離れたモノまで自由に発想すると良いでしょう。ヒトについては、ユーザー自身だけでなく、家族やペットの可能性もあります。

Q4. どのような情報を収集するのか?
対象となるモノから得られるデータや情報を考えます。例えば、形状情報、身体情報、環境情報、位置情報などです。客観的情報だけでなく、ヒトがデバイスなどに入力する思考など主観的な情報も考えられます。

Q5. 情報を収集するために必要な技術は?
物理的なモノなどからデジタルデータに変換、収集する技術を考えます。例えば、スマートデバイス、センサー、GPS、RFIDなどです。

Q6. その情報をどのように分析・活用するのか?
得られたデータから何を見える化し、分析し、最適化するのかを考えます。例えば、位置情報から距離や速度、加速度などの分析を行うなどです。

Q7. どのようなサービスに落とし込むのか?
最終的にどのようなデジタルサービス、アウトプットを提供するのかを考えます。このサービスが本当にユーザーの課題解決になるのか改めて検証する必要があります。

Q8. 協力者は誰か?
IoTビジネスを考えるときに忘れてはならないのが協力者です。IoTはさまざまな技術の組み合わせでできており、すべてを自社でまかなうことは困難であり、前述のIoTプレイヤーとの協力が必須となります。また、公共性の高いものであれば行政などの協力も必要になってきます。このサービスに関心のある第三者は誰か、誰が協力してくれるのかを考えます。

 以上の質問に答えることによってたたき台が出来上がります。このアイデアのたたき台をもって、さまざまな人と議論することでアイデアをよりブラッシュアップしていくことができます。社内であれば、経営層や企画部門だけでなく技術、営業、顧客などあらゆる人に聞いて回ると良いでしょう。また、最近頻繁に開催されている外部のIoT関連のワークショップやアイデアソンなどに参加するのも良い機会だと思います。
 そして、ブラッシュアップの際には、
1.デザイアビリティ(顧客が本当にそれを望んでいるのか?)
2.フィージビリティ(それは技術的に可能なのか?)
3.バイアビリティ(それは持続的に利益を生むのか?)
というデザイン思考の3つの視点から評価していくことが重要です。この3点でうまくいかない場合は、初期の発想にとらわれず、最初からやり直すことも必要になるかもしれません。または、ビジネスモデルをうまく構築することで、あっさりクリアできるかもしれません。いずれにしてもトライ&エラーを繰り返し、小さく一歩ずつ進めていくことが肝要です。

 IoTは、既存のビジネスにとらわれず、ビジネスモデル自体にイノベーションを起こす可能性を秘めています。ただその発端は、シンプルですが課題を認識することにあります。これはIoTに限りませんが、まずは課題認識をしっかりとしなければ、ビジネスにつながるアイデアは出てきません。
 そもそも課題が分からない、なかなかはっきりとしないという中小企業事業者やIoT企画担当の方もいらっしゃると思います。そのような方は、ぜひ、お気軽に中小企業診断士にご相談ください。経営支援のプロである中小企業診断士が現状の課題抽出から戦略立案、ビジネスモデルの構築、事業計画などと多岐にわたってご支援致します!

<参考文献>
日経コミュニケーション編、「成功するIoT」、日経BP社
野村総合研究所ICT・メディア産業コンサルティング部、「ITナビゲーター2017年版」、東洋経済新報社
大野 治、「俯瞰図から見えるIoTで激変する日本型製造業ビジネスモデル」、日刊工業新聞社
日経コンピュータ編、「すべてわかるIoT大全2016」、日経BP社
日経ビッグデータ編、「この1冊でまるごとわかる人工知能&IoTビジネス(日経BPムック)」、日経BP社
ビジネスイノベーションハブ株式会社、「IoTキャンバス」:https://www.businessinnovationhub.co.jp

■ 小島慶亮
中小企業診断士
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員/ビジネス創造部 副部長/広報部
ビジネスイノベーションハブ株式会社 戦略パートナー
https://www.businessinnovationhub.co.jp
ビジネスモデル構築やIoT、サービスデザイン、アイデア発想に関する研究・執筆、セミナー企画、講師登壇など実績多数、戦略立案、事業計画、経営改善、マーケティングなど企業支援にも活かしている。
【セミナー実績】
ビジネスモデル構築系多数、戦略立案、サービスデザイン、アイデア発想、経済学、交渉術、ロジカルシンキング、フレームワーク思考、創業者向けセミナーなど
【ビジネスモデルデザインに関する執筆実績】
・月刊「企業診断」 連載「業界最前線のビジネスモデルを追え!~勝ち組に学ぶ、儲かる仕組み 」(同友館)教育、小売、農業、日本酒業界担当
・共著「ビジネスモデル ギャラリー Vol.2」[電子書籍] ・経営者向けWeb記事など
【コンサルティング実績】
ビジネスモデル、戦略立案、事業計画、経営改善、財務、マーケティング、webプロモーション、ブランディング、創業支援、6次化支援など