企業の最大の目的は「利益」を上げることです。会社は利益を上げ続けなければ生きていけません。どんなに高い理念を掲げても、どれほど社会的に貢献しようとも、利益があがらない会社はつぶれてしまうのです。企業の中にいる者であれば、誰一人として利益を上げるという目的のため以外に存在する人間などいない、ということを経営者だけではなく、社員一人ひとりが考えておかなければなりません。つまり、社員に利益の源泉となる「コスト」についての意識を高めてもらうことが会社には必要なのです。

1.コスト意識の重要性

 経営者や経営幹部にとって「コスト意識」はどんな場面においても頭から離れない重要事項であると思います。しかし、一般の社員にとっては、意味するところは分かるが、今一つ自分のこととして落とし込めていないという人が多いのも事実です。
 会社というところは何もしていなくても確実に「コスト」がかかってくるところです。仮に売上が全くなかったとしても、社員一人ひとりの人件費、会社の家賃や電話などの通信費、そして電気やガス等の光熱費などがかかってしまいます。売上が上がれば、当然、原材料などの仕入も発生します。企業活動に伴う全ての動きに「コスト」が関わってくるのです。
 経費削減の名のもとに、コピーの枚数を削減する、消耗品の使用を少なくするなどは、一般の社員にもわかりやすい「コストダウン」策ではありますが、自分の人件費(給料)が会社のコストの大きな部分を占めると認識している社員は以外にも多くはありません。
 経営者としては、社員に「コスト意識」の意味を正しくとらえてもらい、好不況に関係なく、利益を生み出せる社員として行動してもらいたいと常々感じていると思います。つまり、社員が常に「コスト意識」を持つことで、一人ひとりが日常の仕事のなかで、コストに見合った成果を生むかどうかを判断し、かけたコストに見合った行動ができるようになることが、会社が利益を生み出し、成長していくための企業競争力の源泉であるということを正しく認識してもらうことが必要なのです。

2.コスト意識を認識するための5S

 コストを認識するためには、仕事についての「ムダ、ムリ、ムラ」を認識することが大切です。しかし、社員一人ひとりにおいてその基準ははっきりしているわけではなく、何がムダで、どんなムリをしているのか、そしてどんなムラが発生しているのかは個人の主観におもねるところが多いと思います。そこで企業内のムダ、ムリ、ムラの意識統一とルール策定を行うために5S運動を行うことが「コスト意識」を高めるための一つの方法として重要性を帯びてきます。5S運動とは、Sから始まる以下の5項目を実践していく運動のことです。

・整理
 まず、いらないものを撤去します。放っておけば、活用されていないものがどんどん溜まっていきます。
・整頓
 整理、整頓が行き届いた職場では、「異常」と「正常」がひとめでわかります。「異常」な状態であることを認識するために「整頓」が必要です。
・清掃
 汚れた職場環境ではミスが起こりやすくなります。汚れてゴミだらけの職場に仕事への姿勢が表れてしまいます。
・清潔
 見た目に美しい、整理整頓、清掃の行き届いた状態を常に保つことです。
・躾(しつけ)
 みんなで決めたルールをみんなで守り、規律正しい職場づくりを行います。

 5S運動を徹底していくと、社員一人ひとりが自発的に「コスト」の意味について考えるようになっていきます。コストをコントロールするのは自分達であるという意識が自然に醸成されていくところがこの運動の良いところです。

3.コスト意識が行動効率を上げる

 社員がコストについての意識を高めていくことにより、各自の行動効率が上がっていく効果がもたらされます。自分の行動は「コスト」を減らすことに貢献しているだろうか、しいては会社に利益をもたらすことに貢献しているだろうか、そういうことを自発的に考えることができるようになり、社員の自律心を向上させることができるようになってきます。そして「会社は何もしてくれない」「給料は与えられるものだ」という考えから、「利益の源泉を作っているのは自分達だ」「自分たちが稼ぎ出した利益によって、自分の給料も出ているのだ」という考えに変わっていきます。その結果として、効率の良い行動をとることの重要性に各自が気づき、行動パターンも効率化されていくのです。

4.おわりに

 社員の「コスト意識」を高めることにより、企業の体質は確実に強化されていきます。社員一人一人が利益の源泉を作っているのは自分である、と考えることにより、仕事の仕方、動き方に変化が表れてきます。社員のコスト意識を高めるためには、経営者や経営幹部からの指示という形ではなく、一般の社員が自発的にコストについて考え、行動をしていく企業文化を作っていく必要があります。強い企業体質を作る源泉は社員各自の「コスト意識」にあるということを社員一人一人が考えることができる企業文化を作っていきたいものです。

参考文献:「わーく」 商工にっぽん
     部下を持つ人の時間術 実務教育出版
     課長の時間術 日本実業出版社

■古賀 元
東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員
中小企業診断士 / ファイナンシャルプランナー