Global Wind (グローバル・ウインド)
ベトナム ドンホー村の今昔伝統工芸

中央支部・国際部 関 佳予子

 今年のハノイの冬は、日本と同様に異常気象でした。さすがに積雪はありませんでしたが、毎日が白く厚い雲に覆われた 曇天と霧雨で、青空が見たいと願い続けて約2ヶ月。3月下旬、ハノイにもやっと短い春がやって来ました。その様な折、ハノイを良く知る先輩診断士から話を聞いた 木版画の村 ドンホー村 にドライブして来ましたので、ご紹介します。
 ドンホー村は、ハノイ北部近郊のバクニン省にある小さな村です。円借款事業で綺麗に整備された国道をハノイ市から北に走り、舗装道を東に外れて、でこぼこ道を土埃を巻き上げながら進むと、約30分位で到着します。
 このドンホー村で今なお続いている伝統工芸がドンホー版画です。その昔、中国から伝わり、その後、ベトナム独自のスタイルへ変遷したといわれる木版画で、ベトナムの農民の生活、四季の風物、民話などをモチーフにしています。作風は、何となくユーモラスで味があり、独特の色合いが魅力でしょう。ベトナムでの最重要年間行事である、旧正月の飾りとして今でも愛されており、旧正月近くなると一般家庭でも飾られているのを見ることが出来ます。
 ドンホー版画のモチーフのひとつが農民の願いです。家畜が増えて、大きく育ち、そして、我が子も元気に大きく育ってくれることを願って、幼児が水牛に乗ったり、あひるを抱いている絵柄がみられます。また、他方、風刺的な絵柄もあります。愛人を作って、妻にとっちめられている夫を批判する絵柄、鼠が猫に賄賂を渡している絵柄などなど。現代のベトナム社会にも通用するモチーフで、今も昔も変わらないベトナム社会に気付かせてくれます。
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 ドンホー版画の画材は全て、自然の材料が使われているそうです。紙は和紙の様に柔らかいものですが、樹脂から作られており、表面には、絵の具の発色をよくするために、細かく砕いた貝が塗られており、キラキラと輝いています。絵の具も、全て自然材料から作られているそうで、黒は竹から、赤や青や黄色は花びらや貝などから抽出されているそうです。
 この様にベトナムならではの貴重な付加価値を有する、ドンホー版画ですが、度重なる戦争の影響で、多くの原版が焼失し、現在ドンホー版画製作で生計を立てる世帯は、村でたった2軒のみという状況です。
 ベトナムでは、1980年代ドイモイ路線が打ち出された後、農村における手工芸生産が家計単位の経済活動として奨励、再発展しました。ハノイ市近郊には、ドンホー村のほかに、陶芸村、象嵌細工村、刺繍村などが存在します。こうした伝統工芸村では、家計単位に生産品目が分配され、村全体でそれぞれの生産活動を行っています。
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 木版画に変わって、現在、ドンホー村民の収入基盤となっている伝統工芸がHang Ma(ハン・マ)と呼ばれる、紙で出来た祭事用品です。ハン・マは、お葬式や祭事の際に、亡くなった方が死後の世界でも困らない様にと願って燃やす紙の模型。ハノイ市の道端でも燃やされている光景を時折目にします。ハン・マの種類は、多種多様で、ベトナムドン紙幣やアメリカドル紙幣、スマホ、ベンツ車、3階建て豪邸など、見ていると笑ってしまうほど多様で、意外と現代的です。ハン・マの写真を撮り忘れたので、ご紹介できませんが、厚紙で出来たおもちゃと思っていただければ、半ば外れていません。伝統と実利嗜好が合いまった、ベトナム人ならではの習慣でしょう。
プロフィール
関 佳予子(せき かよこ)
2013年10月よりベトナム赴任中。国際協力機構ベトナム事務所にて、日系中小企業支援事業、民間連携事業を担当。ベトナムは、当事業において世界で最も人気のある国で、ベトナムの発展ならびに日本の中小企業の海外展開を両立する事業案件30件以上が現在進行中。