グローバル・ウインド ベトナムレポート その3 お米の恵み(2015年5月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
ベトナムレポート その3 お米の恵み
ベトナムの首都ハノイのターミナルから私鉄バスで北西に走ること1時間。周りはホン川のデルタ地帯に広がる田園で、2期作目のお米が青々としている。ここの農業の基本は人力で、あちこちで見かける水牛は大事な助っ人である。たまにコンバインが動いているが、機械化は進んでいない。ソンタイ(Son Tay山西)という町でバスからタクシーに乗り換えて10分で、目指すドンラム(Duong Lam)村に着いた。
ドンラムは漢字では唐林で、昔は砂糖黍の林の中の村であった。今は、米やトウモロコシを栽培し、鶏やアヒルが放し飼いされ、池で魚を養殖している。16世紀から続く農村には古い作りの農家が並び、UNESCOの認定を受けた家屋が多い。
村の中央にある伝統的な木造の集会場では、お年寄りが世間話に興じ、子供は鬼ごっこに夢中であった。大人たちは家族単位で民宿、レストラン、土産物屋、酒屋やお菓子屋を営み、村の周りの田んぼで働き、村の市場で野菜、肉、果物、お米や豆を商売している。
村では年間数万人の観光客を受け入れているが、農家の人々はとても素朴で、ボランティアの案内で村を廻ると、お茶やお酒を進めてくれて、笑顔が優しい。ある農家に立ち寄った。ここでは自家製の味噌とお酒を販売している。庭の中央には味噌の入った壺が並び、強い直射日光を受けて発酵が早く進んでいるようだ。庭の奥の木陰には温度を一定に保つために酒壺が地中に埋められている。酒は蒸留酒で、度数が高いがさっぱりした飲み口なので、利き酒だけで酔ってくる。ライチなどの豊富な果物をベースにした果実酒もおいしい。
農家を開放したレストランに予約をすると、土間で豚や鳥をさばき、地元野菜を炒め、春巻や豆腐、などを用意してくれる。味噌やトウガラシをつけて美味しくいただいた。取れたてのお米が何よりも旨い。最近はフランス人などの西洋人観光客が多く来るので、彼らに合わせた料理を出す店もある。
町をぶらつくと、フランスの影響を受けた立派な石造りの教会が立ち、自宅でマリア様の像を飾る家庭もあり、キリスト教が盛んだ。しかし大多数の村民は仏教徒で、お寺や集会所には神輿が置かれて、季節になると山車を担ぐ。宗教は自由で差別はない。むしろ、村と町の差別意識があり、村の人々は大都会ハノイには行きたがらない。とはいえ、若い人は町で働き、ビールやコーヒーを飲み、TVゲームに興じる。村の年寄りは、村で働き、お酒とお茶を飲み、ベトナム将棋に興じる。
ベトナムの人口はまだ大半が農村に住み、農村に住めば食うことには困らない。農作業は大変だが、ベトナムの湿潤な気候が作物の生育を後押ししてくれる。ベトナムの農業は豊かで、ここはお米の国だと思う。
■山田 昭彦(やまだ あきひこ)
2007年中小企業診断士登録。機械部品メーカに30年間勤務し、主に海外展開に携わった。2011年独立、2012年にKaiオフィスを設立した。
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