国際部 小笠原 正一

2024年10月に筆者は日本企業約70社・約100人と共にJETRO主催の「ブルガリア・セルビア ビジネスミッション(海外視察研修)」に参加しました。現地にて様々な会議や意見交流、訪問、視察の機会を通じて感じた東南欧州(東南ヨーロッパ)地域の成長機会についてレポートします。

このビジネスミッションはブルガリアおよびセルビアの最新ビジネス状況を日本企業に体感してもらうための海外現地視察であり、セルビア政府が成田-ベオグラード間往復でチャーター便を運航(飛行機1機分・約200人分の航空賃を無料)するという熱の入り方でした。

1.ブルガリアでの成長機会

初日はブルガリアの首都ソフィアにて両国政府関係者や企業関係者 約130人出席して日本ブルガリア・ビジネスフォーラムが開催されました。以下に魅力と感じたポイントをまとめます。

image1(出典:筆者撮影)

ブルガリアでのビジネスにおける成長機会と魅力のポイント

①EU加盟内で最安レベルの労働コストビジネス環境(最低賃金月額74,000円位とドイツの4分の1程度)
②技術・IT分野で高度なSE人材豊富(日本からはSEGAなどが進出)
③ブルガリアの通貨レフはユーロとの固定為替レート
④法人・個人所得税は10%の単一税制
⑤国営や自治体運営、民営工業団地が多くある。陸路輸送はEU域内のどこに倉庫があっても輸送関連コストは大きくは変わらない
⑥成長分野は自動車産業、特にセンサー製造

コンピュータサイエンス・人工知能・技術研究所(INSAIT)

フォーラム後には世界トップレベルのAI研究所INSAITを現地視察しました。日本の大手自動車メーカーとのAI・ロボティクスの一般的な分野に焦点を当てる新たな共同研究を開始しており、ブルガリアは人口比で科学者の数が世界第3位とのことです。

Sofia Tech Parkにてブルガリア企業とのネットワーキング

image2(出典:Sofia Tech Park HP)

また、様々なステージ段階にあるブルガリア企業スタートアップのピッチとネットワーキングに参加しました。中には日本大手企業数社から出資を受けている有望企業も存在しており、技術・IT分野で高度なSE人材が豊富です。

欧州初の認可無人貨物機航空会社Dronamicsや国営工業団地訪問視察

次にソフィア州ボジュリシュテ国営工業団地や貨物ドローン会社等を視察しました。

image3(出典:Dronamics HP)

企業による説明会では、
①既に欧州初の無人貨物機航空会社として認可を取得済
②約360kg積み約2,500km飛ぶ無人ドローン
③日本の大手電気メーカー主催グローバルビジネスコンテスト受賞
④世界最大級物流企業と提携。中長距離即日配達で最大80%速く、50%安く輸送提供等
メリットが説明されていました。
いずれ日本国中どこでも6時間以内の輸送が出来そうな勢いに感じました。

日本国大使館主催 現地情勢ブリーフィング

在ブルガリア日本大使館公邸にて道上 尚史大使の現地説明やネットワーキング及び夕食会もあり、私も大使に中小企業の東南欧州展開について質問することが出来ました。

ブルガリアでの成長機会をまとめると、

①ドイツやフランスなどの欧州の大国と陸続きであるのは非常に大きなメリット
②人口の割に大きく安価な土地や人件費の安さを利用可能
③人件費の安価なブルガリアで生産・保管して、他のEU加盟国へ納品してコスト削減
④EU加盟国であるブルガリアで生産することでEUの複雑な規制をクリアできるメリット
⑤トルコとも国境を接しているため、物流関係の拠点としても期待
⑥法人税も10%とEU加盟国の中でもっとも低い水準であり、税制上のメリット等

が挙げられると考えます。

編集部より:ブルガリアがどんな国については、「ブルガリア 発掘現場より愛を込めて」(2023年9月)」に記載されています。こちらもお読みになるとブルガリアのイメージがさらにおわかりになるかもしれません。
https://www.rmc-chuo.jp/globalwind/2023090101.html

2.セルビアでの成長機会

次にセルビア国首都ベオグラードのセルビア宮殿にて大統領及び主要閣僚ら11人の方とのラウンドテーブルや日本セルビアビジネスフォーラム、BtoB商談会や昼食ネットワーキングに参加しました。

image4(出典:筆者撮影)

日本企業を100人規模で招待してビジネス交流する当日の様子は現地TVや新聞でも大きく報道されており、セルビア国のビジネス発展に賭ける意気込みを感じました。


Novi Sad※市のNidec(日本電産)セルビア新工場 視察

続いて、セルビアに新工場を設立した日系企業工場を視察しました。日本から赴任している工場長が説明会を開催してくれました。
①今後グループ会社の複数事業が現地に進出する予定。納入先は欧州自動車メーカー
②製品安定供給のためにEU圏の近くで生産して欲しいとのニーズ
③東欧の他地域に比べてもセルビア人件費は安く、英語での意思疎通も容易。製造業の立地としては最適
という海外新市場(東南欧州)による成長機会を知ることが出来ました。晩は在セルビア日本国大使主催の夕食会及びネットワーキングがあり、同じく在セルビア大使に質問することが出来ました。

※Novi Sadについては、日本でも「ノビサト」「ノヴィサド」「ノヴィ・サド」「ノービサード」と名称が統一されていません。よって、英語表記のNovi Sadで統一させていただきます。

Novi Sad大学 Science & Technology Park Novi Sad訪問

翌日は現地テック企業やスタートアップを支援するNovi Sad大学 Science & Technology Park Novi Sadを訪問し、同パークメンバー企業などのピッチに参加したほか、飛び入り参加でセルビア経済大臣のスピーチが行われました。

image5(出典:筆者撮影)

セルビアでの成長機会をまとめると、

①日本の海外進出への好意的な対応が期待
今回のビジネスミッションでは、飛行機1機貸切りチャーター往復代金をセルビア政府で負担手配した経済大臣は40代前半の情熱的で意欲的な女性であり、大統領府訪問時だけでなく、Novi Sadや空港での参加者見送りにまで足を運び、日本・セルビアの経済強化を強く訴えていました。それだけに日本からの海外進出にも好意的対応が期待できます。

②人件費や関税などのコストパフォーマンスの良さ
人件費は東欧EU諸国水準の50%程度で、優秀な人材が多く費用対効果が高い。EU、ロシア、中国と良好な独自の全方位外交ポジションを活用し、西へも東へもほぼ関税なしで自由に輸出入できる経済流通の拠点体制は魅力的。中国と欧州を結ぶ鉄道輸送サービス「中欧班列」で西安をハブに中国国内の122都市と繋がり、一方海外ではセルビア含む欧州25ケ国223都市、アジア11ケ国100都市以上と繋がっており、物流ハブとして活用可能。オフィスやエネルギー等も周辺EU諸国と比較して優位性がある。

③政府による資金援助や税制優遇
ニデックやTOYO TIRE等の大手企業を始め三十数社が相次いで工場開設を行っており、セルビア政府による資金援助や、大型投資を行う企業に10年間法人所得税控除制度、国内15カ所に諸税を免除する経済特区(フリーゾーン)設置等の投資への熱心な勧誘と潤沢な助成。

④2027年セルビア万博の開催
2025年大阪万博の次は2027年セルビア万博であり、更なる注目と発展が期待される。

といった成長機会が挙げられます。

以上、2027年セルビア万博へ向けて応援していきたいと強く思いました。

image6(参加者一人一人と気軽に応対してくれたセルビア経済大臣と握手する筆者)

■小笠原 正一(おがさわら しょういち)

慶應義塾大学卒業後、介護がきっかけで起業し国際交流民泊等を23年以上経営。経営で苦労しながら経営者仲間達と切磋琢磨してきた実践経験と社会経営環境への改善意識から、経営学修士、MBA、中小企業診断士、認定心理士、ITコーディネータ等を修得。現在は国際中小企業診断士としてJICA能力強化研修に参加したり、外国人技能実習生支援でインドネシア・スリランカ等にも関わっている。東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部。

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