グローバルウィンド「ハワイでのビジネスを考える」(2024年11月)
国際部 伊藤きよ枝
はじめに
みなさん、ハワイに行くとしたら、何をしたいですか?
コロナ前の2019年には、日本からのハワイ来訪者は158万人となり、ハワイの人口を超えるほどの日本人が訪れていました。2023年の某大手旅行社の調査によると、初めての海外旅行で行きたい国・地域のランキングで、18.1%の人がハワイを挙げて、第1位となっています。
私の勤務先では、ハワイ大学の医学部とビジネスをしていますが、ハワイ大学には日本人スタッフや日本の名字を持つアメリカ人の方が大変多いです。前学長は日系人でSatoru Izutsu氏といいますし、よくやり取りしているハワイ大の事務の方はUchima氏と言います。もちろん、ハワイ大の病院には日本人の医師もたくさんいます。
コロナ前は私も毎年仕事で訪れていたのですが、残念ながら、コロナを契機に現地に赴くことがパッタリなくなってしまいました。今回は当時を(恋しく)思い出しながら、ハワイでのビジネス環境についてお伝えしたいと思います。
【写真:ハワイ大学医学部のキャンパス】
ハワイの人種構成
ハワイはアメリカの州の中でも、日本との歴史的・文化的・経済的なつながりが深い場所です。1868年に最初の日本人移民が到着して以来、日本人が数多く渡航し、日系人がハワイの社会や政治に大きな影響を与えました。
2023年1月現在のハワイの人口は、およそ1,435,138人と発表されています。そのうち、アジア系は最も多く、37.3%です。アジア系のなかでも、日系人が約31万人、州人口の21%を占めています。日本人のみでは2万3千人ほどです。日系人の方はもちろん、日系人の方以外でも、ワイキキでは日本語が通じることが多いです。
【出典:United States Census Bureau QuickFactsより 筆者作成】
日本との友好都市関係
「都内から2時間のハワイ」として有名な、福島県いわき市にある温水レジャー施設、スパリゾートハワイアンズをご存じの方は多いかもしれませんが、ハワイの州や市、郡と姉妹都市や友好関係を結んでいる都市は、下記のように沢山あります。直行の空港便が就航したり、文化交流、経済交流、青少年交流が行われたりなど、などさまざまな活動が行われています。
図表2:ハワイと日本の姉妹・友好都市
132の島、2つの世界遺産
実はハワイ諸島は全部で132の島があります。しかし、その中で観光客が訪問できるのはカウアイ島、オアフ島、ラナイ島、モロカイ島、マウイ島、ハワイ島の6島です。日本人に人気なワイキキビーチのある島は、オアフ島です。
また、ハワイには下記の2つの世界遺産があります。これらの世界遺産は、ハワイの自然環境の豊かさと、火山活動による地球の営みを示す貴重な場所として、国際的に認められています。
1.ハワイ火山国立公園
1987年に登録された自然遺産であるこの場所は、ハワイ島南部に位置し、キラウエア火山とマウナロア山を含む広大な火山地帯です。世界でも最も活発な火山の一つとして知られるキラウエア火山があり、その火山活動を間近で観察することができます。総面積は約1,335平方キロメートルに及び、火山活動による地形形成過程や独自の生態系を観察できる貴重な場所です。
2.パパハナウモクアケア
2010年に登録された複合遺産で、世界最大級の北西ハワイ諸島とその周辺海域を含む海洋保護区です。広さは約1,900kmにわたり、絶滅危惧種のハワイアンモンクシール(アザラシ)やアオウミガメが生息しています。ハワイ先住民にとって文化的・精神的に重要な場所です。
ただし、パパハナモクアケアは、一般観光客の立ち入りは制限されています。また、ハワイアンモンクシールとアオウミガメには、他の場所で遭遇しても、近づいたり、触ったり、餌を与えたりすることは法律で禁止されており、違反した場合は罰せられる場合がありますので、ご注意ください。
実は高齢化が進むハワイ
ハワイの人口動態としては、2019年は19.3%だった65歳以上人口の割合が、21.2%と増加しました。ハワイ郡では24.4%にもなります。今後もこの傾向が続き、高齢化が進むと予想されています。一方、2024年9月現在、日本の65歳以上人口の割合は、29.3%です。
日本は高齢化先進国であり、日本の技術やビジネスモデルが今後世界の高齢化社会で応用できるのではという議論がされていますが、ハワイにも当てはまると言えます。
【出典:HAWAII POPULATION CHARACTERISTICS 2023 筆者訳】
納税データから見るハワイのビジネス
ハワイのビジネスの構造を知るには、納税データを見るのも一つの方法です。2023年のハワイ州課税局のデータによると、2023年にハワイで事業を行った法人の数は約48,718社でした。
ちなみに、上記は法人形態のビジネス数であり、ハワイにはその3倍以上の個人事業主がいます。課税局が把握しているだけで、2023年の個人事業数は154,566でした。
そのうち、最も多かったのはビジネス関連サービス業で10,725社、次いで不動産や賃貸業で7,269社、金融や保険業で4,565社でした。また、納税額の合計では、小売業が約6億ドル、不動産業が約5億ドル、建設業が約4億ドルとなっています。これらのデータから、ハワイのビジネスは消費者や住宅に関連する業種が多いことがわかります。
図表4:ハワイの業種別納税データ
【出典:ハワイ州課税局ホームページ 筆者加筆】
法人設立は日本と比べるとシンプル
法人設立は、ハワイ州の法律に従って行う必要があります。設立手続き自体は日本と比較して簡単です。日本から電子申請することができ、登記費用も営利企業は50ドルほどです。登記時点で現地の住所は不要ですが、現地に根差し登録されたエージェントが必要となります。エージェントは個人事業主でも法人でもいいのですが、具体的には弁護士か設立代行会社が一般的です。
設立する法人の種類は、株式会社(C株式会社、S株式会社)、合資会社(LLC)、合名会社(LP)、合資会社(LLP)などがあり、法人の種類によって、税金や責任の範囲が異なります。株式会社に2種類ありますが、S株式会社は小規模事業者むけと言われており、税制優遇などがあります。法人設立の際には、自分の目的や状況に合った法人の種類を選びます。
- STEP1 行うビジネスを決める
- STEP2 信頼できる弁護士か登記代行業者を見つける
- STEP3 法人登記
- STEP4 必要なビジネスライセンス(事業開始許可証)を取得
- STEP5 銀行口座開設
- STEP6 事務所を構える
ビザについて
ハワイに仕事で訪れるには、ビザや法人設立の手続きが必要です。ビザは、アメリカのビザ制度に従って申請する必要があります。ビザの種類や条件は、目的や期間によって異なります。ですが、一般的には、観光や短期の商用であれば、ビザ免除プログラム(ESTA)で済む場合が多いです。しかし、長期の商用や就労であれば、ビザの申請が必要になります。ビザの申請は、アメリカ大使館や領事館で行います。
ただし、移住してビジネスを始めたい場合は、業態によって取得に相当時間がかかることがあるので、要注意です。
ハワイでビジネスをする日本企業の例
ハワイでビジネスを成功させた日本人の事例として、ハワイの自然や文化を紹介するサイト「アロハストリート」を運営する株式会社アロハストリートがあります。ハワイの魅力を日本に伝えることを目的として、2009年に設立されました。ハワイの現地の人や企業とのネットワークを活用して、ハワイの観光スポットやグルメ、イベントなどで紹介することで、ハワイへの旅行や移住を検討する日本人に情報を提供しています。ハワイに関する情報提供や日本とハワイの交流促進に貢献したことで、2017年に開催された「111-HAWAII AWARD」というハワイ州観光局公認のプログラムにおいて、表彰されてもいます。
また、ワイキキで行列ができるレストランで有名なのは、株式会社トリドールホールディングスによる丸亀製麺です。丸亀製麺は、2011年に初の海外第一号店である「MARUKAME UDON Waikiki Shop」をハワイに出店しました。2024年2月の同社の発表によると、この店舗の月商は1.3億円(2023年8月時点、1ドル146.16円で換算)とのことです。2018年に私が訪れた際も、40分ほど行列に並びました。日本の店舗には見られないトッピングも魅力です。
【写真:丸亀製麺ワイキキ店 トッピングの “半熟卵天”】
おわりに
ハワイでビジネスを成功させるには、ハワイの市場やニーズに合わせたサービスや商品を提供することが重要です。また、ハワイの人や企業との良好な関係を築くことも、ビジネスの成長に欠かせません。
ハワイは日本からの観光客やビジネスパートナーも多く、日本との貿易額は約10億ドルとも言われています。日本との時差はマイナス5時間と昼夜逆転度合いが少なく、ビジネスや生活に便利な場所です。アメリカ本土やアジアとの中継地点としても重要な役割を果たしており、国際的なビジネスを展開するのにも適しています。アラモアナ地区には日本人のドクターが営むクリニックもあるなど、教育や医療も充実しています。
今後もハワイでのビジネスの可能性も探っていきたいですが、まずは子どもの大学受験が終わったら、ビジネスの視察兼ご褒美として訪れたいと思います。
【写真:ハワイ州最大の総合病院クイーンズ・ヘルス・システム】
伊藤 きよ枝(いとう きよえ)
中小企業診断士(2023年登録)。テレビ番組のディレクター、日本橋の金融企業の人事総務を経て、医師医学生向けの国際的教育サービスを提供する一般社団法人で事務局長を務める企業内診断士。東京都中小企業診断士協会中央支部所属
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