国際部 五百川康子

みなさま、ブルガリアと聞いて何をイメージされますでしょうか?

ヨーグルト?琴欧州?華やかな民族衣装?といったイメージをされる方が多いかもしれません。でも、位置までは分からない方が多いのではないでしょうか。

私は学生の頃、東欧の先史時代を研究していた時期がありました。そのご縁で数度、日本隊としてブルガリアへ発掘に赴いていますバックパックでもブルガリア含めた東欧諸国を縦断する旅をしています。そこで今回は、ビジネス相手としても観光としてもおそらくあまり馴染みが少ないであろうブルガリアについて、愛を込めてご紹介させて頂きたいと思います。

1.ブルガリアってどんな国?

ブルガリア(ブルガリア共和国)は、東ヨーロッパのバルカン半島に位置し、面積はおよそ日本の3分の1人口はおよそ715万人の国です。
主要民族は南スラブ系のブルガリア人が約80%。ほかに、トルコ系やロマ、アルメニア人、ギリシャ人などが暮らしています。
宗教はブルガリア正教が大多数ですが、トルコ系住民などイスラム教を信仰する人も。公用語はブルガリア語です。
2007年にはEU(ヨーロッパ連合)の一員となりましたが、通貨は今でもレヴァ(単数形レフ)です。
日本からの直行便は現在も存在しないため、私はモスクワ経由、もしくはルーマニアから陸路で入国していました。

簡単に歴史と地理を振り返りますと、ブルガリアの歴史は長く、紀元前4000年頃にトラキア人がこの地に住み始めたのが始まりといわれています。下記の地図を見ると分かりますが、アジアとヨーロッパを繋ぐ地形上の要所にある国であることが分かります。

首都はソフィアで、東欧の中では比較的治安は良好です。

西ヨーロッパと中近東、アドリア海と地中海を結ぶ交通の要所にあり、古くから数々の民族が混じり合い独自の文化を築き上げてきました。ソフィアには正教会の教会、イスラムのモスク、ユダヤのシナゴーグが目と鼻の先に建っています。

図1 ブルガリア地図

ブルガリアの地図 出所:GoogleMAPより作成

 

古代には、現在ブルガリアが占めている地域には、トラキア人と呼ばれる古代民族が暮らしていました。トラキア人の起源についてはよくわかっていません。(日本隊が調査していたのは5000年ほど前の青銅器時代の集落の住居跡でした。)その後、古代マケドニアやローマ、第1次・第2次ブルガリア帝国、オスマン朝とさまざまな勢力の支配を受けてきた歴史があります。冷戦の時は親ソ連の体制をとり、ソ連16番目の共和国と呼ばれていました。

古代のトラキアは世界最古の黄金文明を築いたと言われており(エジプトやメソポタミアよりも古い)、2004年にはツタンカーメン以来の世紀の発見と言われている「黄金のマスク」が発見されています。我々が調査していたのと同じトラキア平野で、黄金のマスクは紀元前5世紀頃のものと考えられています。世界で今までに見つかった黄金のマスクの中で一番重いと言われています。ソフィアの考古学博物館で見ることが出来ます。古代ギリシャの詩人が「トラキア王は兜や鎧、馬車までも金銀で装飾され、輝くばかり」とうたうほど、黄金文明を築いた民族でした。

写真1 黄金のマスク

写真1:ソフィア考古学博物館所蔵テレス一世の黄金のマスク
(ユーラシア旅行社HPより)

2.ブルガリアの経済

農業(穀物・酪農)、工業(化学・石油化学、食品加工、エネルギー産業、自動車部品、医薬品産業等)、IT産業・サービス、観光が主要な産業とされています。以下に輸出入の状況を示します。

1)全体貿易傾向

品目別状況 (1)輸出品 機械類(各種完成品・運送機械等)・農産物・食料・化学製品・燃料
  (2)輸入品 機械類・運送機械・化学製品・エネルギー
相手国別状況 (1)輸出国 ドイツ(15%)、ルーマニア(10%)、イタリア(7.6%)、ギリシャ(7.1%)、トルコ(6.3%)
(2)輸入国 ドイツ(12%)、トルコ(7.9%)、ロシア(7.7%)、ルーマニア(7.6%)、イタリア(6.6%)

2)日本の対ブルガリア貿易

(ア)貿易総額(2021年、日本財務省貿易統計) 輸出 216.2億円、輸入 141.6億円
(イ)主要品目 輸出 再輸出品、電気機器、一般機械

輸入 衣類・同付属品、電気機器、一般機械

3)日本からの直接投資

670万ユーロ(2021年、ブルガリア中央銀行)

以上、外務省基礎データより

4)みなさまがおなじみに日常的に使っているあの原料はブルガリア産

上記からは読み取れないのですが、実は皆様は気づかないうちに、ブルガリア産の原料が使われた商品を日常的に使っていらっしゃるかもしれません。

ブルガリアは世界最大のローズオイルの生産国です。世界のローズオイル(香水用バラ)の約7割を生産していると言われています。(出典:ブルガリアローズ株式会社HP)実は、ブルガリア産のローズオイルはフランス等に運ばれ、香水や化粧品に加工されることが多いのです。高価な香水のほとんどに、ブルガリア産ローズオイルが含まれていると言われています。

古来よりブルガリアでは、薬としてバラが用いられました。ブルガリアで香料としてのバラが注目されたのは、第二次世界大戦後の社会主義の時代です。戦後の化粧品産業の成長とともにローズオイルの需要は増大し、それは「ブルガリアの金」と呼ばれるほどの一大輸出品目となり、国家の重要産業に指定され保護されてきました。(出典:同社HP)

バルカン山脈とスレドナ・ゴラ山脈に挟まれた(というエリアは、ブルガリアンローズの一大産地です。6月にはカザンラクにてバラ祭りが開催されますので、その時期に訪れてみるのも良いかもしれません。

ただ、新型コロナウイルス流行に伴う化粧品需要の落ち込みで、ブルガリアの観光名所「バラの谷」では、香油に使うバラの花の収穫が例年より4割減少すると伝えられました。 在宅勤務の増加や外出の減少で香水などの売り上げが鈍り、バラの価格が下落。現地の生産者協会によると、「一部の花は摘んでも捨てざるを得ない状況」とのこと。(出所:中日新聞2021年6月2日)

復活を祈るばかりです。

写真2 バラの谷

 

写真2:バラの谷
(中日新聞2021年6月2日)

 

3.ブルガリアの美味しい食べ物

発掘中のウィークデーは自炊なのでカレーが多かったのですが、ブルガリアは実は日本人の口に合うグルメ大国です。ブルガリア料理はトルコやギリシャの料理に似ています。ブルガリアは、ルーマニア、セルビア、北マケドニア、ギリシャ、トルコの5か国に接しており、各国の影響を受けていると考えらえます。ここでは私がおすすめしたいブルガリア料理を2つご紹介します。

①タラトール(Таратор)

タラトールは、私が現地で一番気に入ったブルガリア料理です。タラトールとは、ヨーグルトのスープでキュウリが入っています。スープと言っても冷たいスープで、色々なレシピがありますが、具材にキュウリ、ディル、ニンニクは必須です。(ディルとはさわやかな香りと苦みのあるセリ科のハーブのこと。)ギリシャのザジキも似たような食べ物ですが、あちらはソースとして扱われています。

最初はヨーグルトにキュウリが浮いているのを見て少し及び腰になりましたが、食べてみるとすぐに虜になりました。強い日差しの暑い現場から帰ってくると、ディルの効いた冷たいキュウリのスープは最高です。ディルが手に入れば、日本でも再現することができます。クルミやナッツが入ると香ばしさが増してさらにおいしいです。

写真3 タラトール

写真3:タラトール
https://bacchetteepomodoro.com/ja/tarator-2/

②ムサカ(Мусака)

ギリシャ料理としても有名なムサカは、ナスやひき肉の重ね焼きのような、ラザニアのような料理です。ギリシャのムサカはベシャメルソースですが、ブルガリアはヨーグルトを使ったりします。原料から想像できるように、安定のおいしさです。

写真4 ムサカ

写真4:ムサカ
(Bulgarian for Japan,2011年7月6日より)

 

4.おまけ(発掘の様子)

トラキア平野ノヴァ・ザゴラ近郊に位置する、「デャドヴォ遺跡」の一角。テルと呼ばれる丘状の集落遺跡のひとつです。左端が筆者です。発掘作業を終え、実測中のようです。画像左端に土を運ぶネコと呼ばれる一輪車、右端には高所から全体像を撮影するための櫓が見えます。地表の穴は柱や竈の跡です。黄金は出土しませんでしたが、土器や動物骨はよく出土しました。

写真5 デャドヴォ発掘

写真5:デャドヴォ遺跡

 

以上、古代トラキア黄金文明、バラの谷、おいしい食べ物と、ブルガリアの魅力のほんの一面をご紹介させて頂きました。

本稿を機に、少しでもブルガリアに対して親近感を感じて頂けますと幸いです。

 

 

五百川康子(いおかわやすこ)

2022年に中小企業診断士に登録、豊島屋様見学研修を機に国際部に入部致しました。本業(食品流通企業)では、食品の輸入実務、海外展示会や工場視察の経験があります。今回は本業とは関係していませんが、これまでで特に縁の深かったブルガリアのご紹介をさせて頂きました。今後ともよろしくお願い致します。