国際部 松島 大介

2022年11月末に、私が代表を務める株式会社国際協力データサービスが、経営品質協議会の経営デザイン認証ランクアップ認証を認めて頂けた(※0)こともあり、この経営デザイン認証と、それに関連し日本経営品質賞を含めた経営品質について述べたいと思います。今回は「その3(3回目最終回))」として、ISO9001との親和性について述べます(その1はこちら、その2はこちら

Ⅳ ISO9001(品質マネジメントシステム)を参照する

この経営品質のフレームワークは、ISO9001との親和性が、特に顧客満足度向上という点で高いと感じています。一方、執筆現在、筆者の会社でISO9001取得に向け、筆者が勉強中であるので、間違っている点があればご指摘のほどお願い申し上げます。今回は、ISO9001:2015(2015年改定バージョン)をベースにお話しさせていただきます。

ISO9001は品質マネジメントですので、もともとは、全業種に適用できるように作られたものの、やはり最初は製造業における製品の品質保証が主になっていたと思います。しかし、2000年の改定で、顧客満足度の向上が要求事項(ISO9001では、「明示されている、通常暗黙のうちに了解されている又は義務として要求されている、ニーズ又は期待」と定義されています)が追加されました。これにより、顧客満足度を上げるために、品質レベルをあげていくということが要求事項から読み取れ、2015年になると、「製品」という記載が、「製品及びサービス」に置き換わりました。つまり、サービス業への適用に向けた考慮がされ、経営品質との仕組みとの親和性がより高くなりました。

留意点として、ISO9001における、顧客満足度の定義が、経営品質を学んでいる人からすると少し異なるので注意が必要です。経営品質等の顧客満足で使われる「期待を超えた価値を提供する」という意味合いとは異なり、ISO9001の顧客満足の定義は「顧客の期待が満たされている程度に関する顧客の受け止め方」となっています。

これは、自社で設定した顧客が満足する基準をクリアできているかどうかを評価することになります。例えば、顧客満足度調査の結果、顧客満足度が70%を超えていればOKとするという基準を決めることです。そして、クリアしたのであれば、翌年は、75%にあげPDCAを回すというイメージです。当然、クリアしていないのであれば、クリアできなかった理由を仮説検証して、クリアを目指すということが必要になります。

ISO9001の要求事項と経営品質の要求事項との比較は、正直なところ切り口が違うので、比較検討について、今回は省略させていただきます。参考までに、ISO9001:2015の要求事項は以下のようになっています。

ISO9001:2015の要求事項

1 適用範囲
2 引用規格
3 用語及び定義
4 組織の状況
4.1 組織及びその状況の理解
4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解
4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定
4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス
5 リーダーシップ
5.1 リーダーシップ及びコミットメント
5.2 方針
5.3 組織の役割,責任及び権限
6 計画
6.1 リスク及び機会への取組み
6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定
6.3 変更の計画
7 支援
7.1 資源
7.2 力量
7.3 認識
7.4 コミュニケーション
7.5 文書化した情報
8 運用
8.1 運用の計画及び管理
8.2 製品及びサービスに関する要求事項
8.3 製品及びサービスの設計・開発
8.4 外部から提供されるプロセス,製品及びサービスの管理
8.5 製造及びサービス提供
8.6 製品及びサービスのリリース
8.7 不適合なアウトプットの管理
9 パフォーマンス評価
9.1 監視,測定,分析及び評価
9.2 内部監査
9.3 マネジメントレビュー
10 改善
10.1 一般
10.2 不適合及び是正処置
10.3 継続的改善
附属書A(参考)新たな構造,用語及び概念の明確化
附属書B(参考)ISO/TC 176によって作成された品質マネジメント及び品質マネジメントシステムの他の規格類

経営品質のPDCA(変革実践サイクル)の回し方については、すでに経営品質を実施している人にとっては、当たり前だと思いますが、ISO9001では図表9(下記)のように、経営レベルのPDCAは中長期、管理レベルは短中期、オペレーションレベルは超短期~短期で回すような仕組みになっています。つまり、経営レベルのPDCAのDの中に、管理レベルのPDCAが入っており、この管理レベルのPDCAを何回転させて、経営レベルのCにいくという構造になっているので、実際にやってみるときには、この考え方をどこかにいれて、変革実践サイクルを決めていくことが大切だなということがわかります。

図表9 ISO9001が要求する事項のPDCA連鎖サイクル

図表9PDCAサイクル

出典:ISO9001:2015要求事項の解説(日本規格協会)P180を一部加筆修正

また、経営品質プログラムで利用される顧客価値経営ガイドラインは、パッと見、フレームワークとその概略・説明解説が記載されているものの、中身は企業に合わせて自由に作って下さいと汎用性が非常に高くなっているため、少々とっつきにくいかもしれません。すでに述べていますが、これは、今までのフレームワークではカバーしきれない多様なビジネスが出始め(最近でいうと、SDGsの実践で有名な石坂産業株式会社(※8)(2020年度日本経営品質賞中小企業部門受賞(※9)など)、卓越した経営をしているにも関わらず、基準がないために評価できないことが増えてきたためだそうです(経営品質協議会の方からお伺いしました)。とはいえ、もう少し具体的に知りたいという場合には、ISO9001の要求事項が参考になるかもしれません。一方、ISO9001は、最低限やるべきことであるので、そこから先については、PDCAを回すことで改善していくことが必要であるということ、そしてISOの文書は、もともと英語だったのを翻訳したものであるため、日本語が難解で理解しにくいことが多いと感じると思います。例えば、力量ってなに?と思いますよね。よって、必ずしもISO9001を取得する必要はありませんが、要求事項の解説書等を参考に、より良い視点の発見や見逃していた視点のチェック等、経営品質の向上のために、卓越した経営のために活用するのも一考かと思います

Ⅴ おわりに

経営品質は、とにかく策定したあとのPDCA(変革実践サイクル)が大切になります。多くの中小企業がPDCAのPDの繰り返しという、いわゆるやりっぱなしを繰り返すだけになっているのではないかと思います。例えば、この経営品質プログラムを作成したことに満足して、それで終わってしまうような感じです。私が代表を勤める会社もそうならないように、現在は、忙しくてもなんとかPDCAを回すようにしています。とはいえ、スケジュールよりやや遅れていますが(苦笑)
中小企業診断士のみなさんには釈迦に説法だと思いますが、PDCLAという言い方もあるようにPlan, Do, Check, Learn or Actionのまさに上手くいかなかったときはLearnで改善し、次に進めることが大切ということになります。

この経営品質プログラムの仕組みを利用するか、しないかは、企業に任せられています。そして、残念ながら、このプログラムは1年で劇的な効果が現れるものでもありません。それこそ、中小企業診断士が、顧客先と寄り添って伴走していくことが必要なのではないかと、経営者である私も感じています。この経営品質プログラムが、中小企業診断士のみなさんにとって、顧客支援のために活用していただく際のヒントになればと幸甚です。

(※0)https://www.jqac.com/management_design/certification
(※8)https://ishizaka-group.co.jp/
(※9)https://www.jqac.com/jqaward/detail/64/1

 

■松島 大介(まつしま だいすけ)
2012年11月中小企業診断士登録 / 東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部所属
株式会社国際協力データサービス 代表取締役
CQ Center 公認ファシリテーター / CWQ 公認アソシエイト /
異文化エキスパート養成講座 第1期生 / 2030SDGsゲーム 公認ファシリテーター