グローバル・ウインド「ラオスへの海外進出の支援のために」(2022年11月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
国際部 本村 公一
去る2022年9月21日の「国際派診断士リーダー養成講座」(またの名を「国際社中」)2022年度第2回では、「ラオスへの海外進出の支援のために」と題して、日本企業の海外展開候補国の一つとして、東南アジアのラオスという国を取り上げました。今回のグローバルウィンドは、その発表内容に少しアレンジを加えてお送りいたします。
1.ラオスの一般概況
まず、ラオスの一般概況です。と言いたいところですが、ラオスの位置や人口、民族、宗教などに関する基礎情報については、インターネット上や先行研究で調べることができますので、今回は以下にまとめた図のみを掲載し、詳細は割愛させて頂きます。
図1:ラオスの一般概況
出典:外務省ウェブサイト、JICA(国際協力機構)ラオス事務所ウェブサイト、JETRO(日本貿易振興機構)ウェブサイトなど
2.経済:一人当たりGDPとインフレ率高騰
図2: ラオスの一人当たりGDPの推移(隣国との比較)
出典: World Bank Open Dataより執筆者作成
ラオス経済について少しだけ触れます。ラオスの一人当たりGDP(※1)の推移を、周辺国の同指標と比較してみたものが上のグラフです(図2)。赤い色の折れ線グラフが、ラオスの一人当たりGDPの推移を示しています。2020年で約2,600USドルと、青色のグラフのベトナムよりは低いものの、緑色と紫色のグラフのカンボジアとミャンマーよりはかなり高い水準にあります。
なお、上記の数値はラオス「全体」の一人当たりGDPですが、首都ビエンチャンだけの一人当たりGDPは、6,000ドルを超えているとされています。6,000ドルというのは、隣国のタイよりは低いですが、ASEANの一国のインドネシアよりは、遥か上の水準です。
一方で、実は、直近のラオス経済は大きな不安材料を抱えています。インフレ率の高騰です。ラオス計画・投資省所管のラオス統計局が発表した2022年9月のインフレ率は、前年同月比34%に達しました(※2)。食品・非アルコール飲料は全体で35.5%上昇したと報道されています。ラオスの一般家庭にとって、現状は非常に大変な状況と推察されます。
※1:一人当たりGDP等の数値については、参照する統計データによって、若干のずれがあります。
※2:2022年10月12日The Daily NNAミャンマー版
3.投資環境:ラオスの投資環境上のメリット
ラオスを海外進出先として検討される企業にとって気になる点は、ラオスの投資環境上のメリットでしょう。
JETROがラオス進出済の日系企業に行ったアンケートの結果(2021年)では、ラオスの投資環境メリットは、「人件費の安さ」や「安定した政治・社会情勢」の回答が多くなっています。
「人件費の安さ」については、ラオスの法定最低賃金は月額120万キープ(2022年10月の為替レートで約70USドル)(※3)ですから、周辺国のカンボジア(月額194ドル)やベトナム(月額約190ドル)(※4)と比較しても、まだまだメリットがあります。
また、「安定した政治・社会情勢」については、ラオスの一般概況のところでは触れませんでしたが、ラオスの政治は、ラオス人民革命党による一党独裁体制が続いており、基本的に安定しています(最近では、SNS等で体制批判というのもちらほらあるようですが)。「安定した政治・社会情勢」というのは、企業にとって、長期的なオペレーションの観点からは、非常に重要な要素であると考えられます。
上記のアンケート結果では、その他にも、市場規模・成長性や、従業員の雇いやすさ、前述の税制インセンティブ、そして電力インフラの充実なども、ラオスの投資環境メリットとして、回答が多かったようです。
※3:2023年5月からは130万キープに改正となる予定。
※4:ベトナムの最低賃金は、経済発展の程度に応じた4つの地域別に示されるが、月額約190ドル(468万ドン)は「第一地域」(ハノイ市、ハイフォン市、ホーチミン市などの都市部)の金額。
4.投資環境:外資に関する奨励
次に、ラオスの投資環境についてです。ラオスの投資環境を検討する際、まず把握しておくべきは、ラオスにおける投資政策や優遇を規定している「投資奨励法」と考えられます。ラオスの現行の投資奨励法は、2017年4月に改正されたものです。
ラオスの投資奨励法のポイントとしては、大きく3つあります。
・基本的には、すべての業種、活動、全地域への投資を奨励している
・特に重視する9つのセクターを定めている
・SEZ(経済特区)への投資には、その特区ごとに優遇策を定めている
上記の一点目と二点目については、他の先行研究に詳細を譲るとして(※5)、今回は、三点目のSEZ(経済特区)における投資優遇措置について、ご紹介します。
※5:ラオスの経済特区における優遇措置を含め、ラオスへの投資については、JETROの「ラオス投資ガイドブック」(現在、2016から2022があります)が大変参考になります。ご興味がある方は、ラオス投資ガイドブック2022(2022年2月)のページをご参照ください。
図3:ラオスの経済特区の位置図
出典:ラオス計画投資省投資奨励局ウェブサイト(https://investlaos.gov.la/where-to-invest/special-economic-zone-sez/)
まず、SEZそのものについてです。ラオス計画投資省によれば、上記図3のとおり、ラオスには国内に12カ所のSEZがあります(※6)。そのうち、図3の位置図のなかで、日本語名をつけている1、4、6、そして11のSEZが、日系製造業の進出先として実績があるところです。
1:サワン・セノ経済特区C(サワンパーク)
4:サイセター総合開発区
6:ビタ・パーク経済特区
11:パクセー・ジャパン経済特区
※6:JETROウェブサイト(https://www.jetro.go.jp/world/asia/la/sezinfo.html)
表1:ラオス主要経済特区の優遇措置
出典:JETROウェブサイト(https://www.jetro.go.jp/world/asia/la/sezinfo/)ほか
各SEZでは、国家経済特区委員会と当該経済特区の開発業者の間で独自に設定した、優遇措置が提供されています(※7)。上記の表1にはそれら優遇措置をまとめましたが、参照元の情報が古い可能性もありますので、JETROウェブサイトや各SEZのページに掲載されている概要資料などをご参照ください。
※7: JETRO「ラオス投資ガイドブック2016」
5.日系企業のラオスへの進出状況
前述したように、上記図3に示した12カ所のSEZのうち、日系製造業の進出先として実績があるのは、4つのSEZです(※8)。冒頭で触れた2022年度第2回の国際社中の発表のなかでは、それら4つのSEZに進出している日系企業の具体名を挙げて紹介しましたが、ここでは各SEZへの進出企業数や製造品目名・事業内容をご紹介するに止めます。
※8:JETROは、これら4つのSEZと2019年9月に業務協力覚書(MoC)を締結しています。
■1:サワン・セノ経済特区C(サワンパーク):
少なくとも日系10社が入居。デジタル一眼レフカメラ用ユニットの組立、自動車用シートカバー等の内装部品の製造、入浴剤・玩具成形品の製造、商業車の修理・点検・整備など
■4:サイセター総合開発区:
少なくとも日系3社が入居。HDD用ガラス基板の生産、業務用・家庭用LPガスのシリンダー卸売り・小売、生コンクリートの製造など
■6:ビタ・パーク経済特区
少なくとも日系6社が入居。玩具および記念品の製造、ワイヤーハーネス製品の組立、電子デバイス・温度センサーの製造、キャスター・車輪等の製造など
■11:パクセー・ジャパン経済特区
少なくとも日系12社が入居。ウィッグの製造、子供服の製造、貴金属宝飾品の加工、武道具の製造、和装小物の製造、化粧筆の製造、革製品の製造など
後ほど、ラオス人の国民性のパートでも述べますが、一般的に、ラオス人は手先が器用なため、細かい手作業を要する製品を製造する業種の日系企業が、多くラオスに進出しています。
例えば、上記1のサワン・セノ経済特区に進出済の日系企業の「入浴剤・玩具成形品の製造」というのは、バスボール(入浴剤を固めてボール状にしたもの)の中のおもちゃの絵付けですし、上記6のビタ・パーク経済特区に進出済の日系企業の「玩具」というのは、非常に小さい人形の洋服やドールハウスの家具です。また、上記11のパクセー・ジャパン経済特区に進出済の日系企業の「ウィッグの製造」は、かつらの製造のことです。かつらの製造というのは、一本一本、手作業で人工の毛を植えていく作業で、そうしないとウィッグの手触りは出ないとのことです。
6.ラオス人の国民性
最後に、ラオス人の国民性について述べます。企業がラオスに進出する際、例えば、自社工場の従業員としてラオス人を雇用し、共に働いていく際に、ラオス人の国民性について一般的な傾向でも事前に何らかの情報を得ておくことは非常に重要です。
まず、強みとして挙げるとすれば、ラオス人は「手先が器用」と言われています。5.の日系企業のラオスへの進出状況でも触れましたが、ラオス人の手先が器用という強みは、細かい手作業を要する製品の製造に活かすことができます。先行例としては、玩具やウィッグ、化粧筆、和装小物(つまみ細工など)、ワイヤーハーネス等の電子部品の製造が挙げられます。
次の強みとして、ラオス人の多くがタイ語を理解できるという点が挙げられます。ラオスの人たちは、幼少期から日常的にタイ語に接している頻度が高いため、タイ語を理解できる人が多いです。日常的に接するタイ語はどこにあるかというと、タイ語のテレビ番組、タイ語の音楽、タイ語の映画やドラマなどなど、ラオスにはタイ語が溢れています。そのため、特にタイ・プラスワンでラオスに進出される企業は、タイ人スタッフをトレーナーとしてラオスに送り込むことが可能となるため、人材育成という面でもメリットがあると考えられます。
強みの最後として、ラオス人は「衝突を避ける」という点が挙げられます。一般的に、ラオスの方々は、喧嘩や争いごとが嫌いです。車のクラクションを鳴らしている場面に遭遇したことはありません。喧嘩を表立ってしないため、労働争議というものをほとんど聞きません。従業員のマネジメントという観点から、特筆すべき国民性と考えられます。
上記のような強みとして挙げられる国民性がある一方で、弱みとして捉えられる国民性も幾つか考えられるのですが、それらはまたの機会にお伝えすることにしたいと思います。
以上
■ご注意
上記記事の文章、図表は情報提供を目的に作成したものです。
執筆者は文章、図表をできる限り正確に記載するよう努力しておりますが、その正確性を保証するものではありません。
本情報の採否は、読者の皆様のご判断で行いください。また、万一、不利益を被る事態が生じましても、
執筆者は責任を負うことができませんのでご了承ください。
プロフィール
■本村 公一(もとむら こういち)
現在、(独)国際協力機構(JICA)にて、日本企業の海外展開支援に従事。
ラオスにてJICAプロジェクトに従事した後、ラオス中部サワンナケート県にてカフェレストラン「Cafe Chai Dee」を経営。事業譲渡後、和装小物メーカーのラオス工場運営に携わった後に、JICAラオス事務所で日本企業の海外展開支援を担当。ラオスのほか南アフリカ、バングラデシュにて駐在経験あり。2022年5月に中小企業診断士登録。長崎出身。