国際部 松島大介

以前、「外国人をはじめ、日本人同士でも使える異文化適応力(CQ)のご紹介」(2021年3月)で、CQ(文化の知能指数:様々な文化的背景の中で、効果的に協働する力)を紹介しました。
そのCQ力を強化するために使われているのがDKSAというフレームワークです。

CQはグローバル企業になればなるほど必要となる能力として認められており、Google、スターバックスといったグローバル企業のほか、米国軍隊の研修でもその能力強化で取り入れられているほどです。最近では、日本のグローバル企業の幹部研修でも取り入れ始められてきています。

我々がよく知っているフレームワークというと、PDCA【Plan(計画)→Do(行動)→Check(評価)→Action(改善)】や、Googleなどで使われているというOODA【Observe(観察)→Orient(方向付け)→Decide(判断)→Action(行動)】ですよね。

これと同じように、CQ能力を強化するために、必要なフレームワークがDKSAです。

CQ Drive(興味・意欲)
CQ Knowledge(知識)
CQ Strategy(戦略)
CQ Action(行動)

最初に興味・意欲のDriveがくるのを見ると、マーケティングで学んだAIDMA、AISAS、AISCEAS、AIDCAS(※1)といった消費行動に関するフレームワークに入っているInterest(興味・関心)を思い出しますね。
ちなみに、DriveとInterestの違いは、日本語に訳すと似たようになりますが、Driveのほうは、どちらかというか感情的に強く駆り立てる興味・意欲と、Interestよりも強い印象となります。

では、この4つのフレームワークについて、Cultural Intelligence CenterのDavid Livermore Ph.D氏のブログを参考文献(※2)として、英文を引用し訳しながら説明します。

CQ Drive(興味・意欲)
【多文化な状況に適応するための興味、意欲、自信】のことで、多様な文化的状況で、協働したいという動機・意欲のことです。

たとえば、行列で並んでいるのに、割り込みされて不快を思うのか、それとも、この人はなんで割り込みをするのだろうと思うのかなど、自分との違いをどのように感じるのか、人によって違います。その自分との違いを感じたストレスや戸惑いが生じたときに、その調整能力がCQ力を高める上で大切になります。

グローバル企業では、異なる国の人々と一緒に働くことが普通だと思います。もちろん、日本人のみの企業でも、様々な個性や価値観を持った人と一緒に働くことがあります。

その個性や価値観を創り出している文化の違いは、時間とストレスのプレッシャーの中で最も重要な意味を持ちます。そのため、グローバル・リーダーシップ・プログラムやダイバーシティ・イニシアチブの多くでは、文化的多様性の利点についての過度にポジティブな激励に重点を置くのではなく、個人やチームが異文化の状況で態度やストレスを管理するための具体的な戦略を開発することに焦点をあてていると聞いています。

好奇心は、CQ Driveを向上させる最も重要な鍵の一つです。アメリカのTVドラム「24」、映画「ダビンチ・コード」「アポロ13」などを手がけたハリウッドのプロデューサー、ブライアン・グレイザーの著書『好奇心のチカラ(原書A Curious Mind)』には、日常の会話の中で好奇心を高めるためのクリエイティブなアプローチが紹介されています。時間のない方は、付録に記載されている「好奇心会話のやりかた」だけでも読んで見て、ぜひ参考にしてください。

CQ Knowledge(知識)
【文化の類似性と相違性を理解する】とは、つまり、ある状況下で関係する文化について、どのように似ていて、どのように違っているのかを理解していることです。

たとえば、あいさつの仕方で、握手をするのか、ほっぺにキスをするのか、お辞儀をするのかなど、文化によっても違いますよね。食事も、はしなのか、フォーム・ナイフなのか、素手なのか、素手でもどちらの手(例えば、不浄の手)で食べてはいけないなど、文化・宗教によっても違うますよね。ビジネスで考えると、名刺の交換方法も、日本では律儀なやり方が多いとは思いますが、海外ではもっとカジュアルに交換していたり、名刺のサイズ、形などもっと自由な感じですよね。そして、前回お伝えした、日本とタイの文化の違いの数値化などを始め、文化にはどのような違いがあるのかという知識があり、それをベースに理解しているのかというのが大切になります。

デレク・シバーズのTEDトーク「Weird or Just Different」は、CQ Knowledgeを考える良い動画になっています。日本語字幕もあります。2分40秒ほどの動画なので、ぜひ見てみて下さい。

CQ Strategy(戦略・メタ認知)
【多文化な状況に対応するための意識と能力】とは、つまり、異文化との出会いをどのように計画し、認識していくかということです。戦略ということですので、メタ認知(鳥の目のように、高い位置から物事を見ること)も大切です。

CQストラテジー(メタ認知)は、異文化環境における様々なニュアンスや複雑さを戦略的に解決する方法を見いだしていきます。

グローバル・リーダーシップ・プログラムなどでは、異文化間で仕事をしたり関係を築いたりするための「If-Then」戦略を個人が構築できるようなプログラムもあります。この「If-Then」戦略とは、異文化的な状況の中で可能な対応方法を事前に決めておくことです。例えば、仕事仲間や上司から「酒を飲め」と言われたら、どうすればいいのか。また、友人が人種差別的な発言をした場合、どのように対応すればよいのか。仕事よりも家庭を重視する人がいた場合どうしたらよいのかなど、文化的に優れた戦略を前もって想定しておけば、文化的に優れた方法で行動できる可能性が高くなります。

文化的にというとわかりにくいかもしれませんが、仕事で、上司の決裁をとるためには、どうしたらよいのか、そのために、上司が決裁を出す上で必要なポイントは何かを先輩や同僚に聞いたり、調べた上で、どうすれば決裁が取れるのかを考えている(戦略の練る)ことを思い浮かべていただければ理解しやすいかと思います。実は、この聞いたりしている行動によって得たノウハウや知識は、上司の文化的背景を調べて得たCQ Knowledgeともいえるものなのですが、文化の話は少々長くなるので、今回は省略します。

このように、いろんな個性をもっているチーム仲間と一緒に仕事をするシーンや、お客様とより良い関係をもって付き合って行くためにどうすればよいのかというシーンにおいて、仕事でも使っている事例の1つになると思います。

CQ Action(行動)
【異文化の中で仕事をしたり、関係を築いたりする際の適応能力】とは、つまり、異文化の状況に置かれたときに、関係を構築し、仕事をする際に適応する能力、行動のことです。

異なる文化や違いに出会ったときに、拒否反応を出したり、無視したりするような反応もあるかもしれません。しかし、仕事など付き合って行く上では、適応していく必要があります。そのため、「やるべきこと」や「やってはいけないこと」をベースに行動するのではなく、個人や組織の価値観や貢献度を維持しながら、それぞれが効果的に活動できるだけの適応力を身につけるための具体的な戦略に焦点を当てて、行動に移す必要があります。

このDKSAというフレームワークは中小企業診断士のみなさんであれば、文化を背景にしているかどうかというは違うかもしれませんが、似たようなことであれば実は誰しもやってきていることだと想います。

イメージとして簡単に書くと、
1周目
D・・・中小企業診断士になりたいという意欲
K・・・資格を取得するために必要な情報の収集
S・・・独学や専門学校か、専門学校ならどこなのか、どういう風に勉強していくのかを検討
A・・・実際に勉強をスタートさせる

2周目
D・・・なんか勉強方法が違うのか、成績が伸びないが合格したい
K・・・合格するための勉強方法を再検討。私の場合は忘却曲線とかがあることを知りました。
S・・・忘却曲線に沿った復習をいれながらの勉強をするためのタイムマネジメントを検討
A・・・実際に戦略に合わせた勉強をスタート

3周目・・・・・という風に軌道修正しながらやっていきました。

このように、DKSAをPDCAのように回すのが大切なのです。
CQ DKSA

今のあなたのCQ力を可視化する
「CQ Drive」と「CQ Action」は、例えば、未知の文化的背景を持つ人と直接出会ったときに、その人がどのように行動するかを推測することに役立てることができます。一方、「CQ Knowledge」と「CQ Strategy」は、文化的に多様なユーザーが使用するポリシーや製品を開発するなど、より間接的な関わりを持つ場合の役立つことができます。

実は、このCQ Drive、CQ Knowledge、CQ Strategy、CQ Actionも現在のあなたのスコアを数値化し、確認することができるツール:CQアセスメントがあります。このスコアは、世界100カ国15万人以上の人との比較になります。正直、意外な結果がでてくるかもしれませんが、それはあくまで現在のあなたの状況に合わせた結果であって、このスコアは、上記のDKSAを繰り返し行っていくことで、伸ばすことができるのです。

この繰り返しは、仕事でも、家族でも、ニュースからでも、どこから得た情報でも、「へーそうなんだ」でおしまいにせずに、なぜ、なぜ、なぜと興味をもって、なんでそういうことが起こるのだろうかと考え、調べることだけでも最初はよいかと思います。まず重要なのは、そのなぜ、なぜ、なぜを考えて、その原因を考えて行く上での知らなかったことを知ることです。これの対象が人間であれば、その人の知らなかったこと(文化的背景)を知ることなのです。

最後に
このCQアセスメントは、このアセスメントは、ユニリーバ、スターバックス、IBM、スタンフォード大学、マクドナルド、Google、ウォルマートといったグローバル企業でも採用されています。自分が世界100カ国15万人以上と比較して、現在、どういうポジジョンにいるのかとご興味がある方は、手前味噌になりますが、info@cqlab.comまでお問い合わせください。

世界と比較して、今自分のポジションはどこらへんなのかと知ってそれをベースに自分の強みを更に強くしたり、伸びしろがたくさんあるところを伸ばしていくのかを考えていく手段にもなります。

最後に・・・・・

CQは誰しもが伸ばすことができる知性なのです。

By David Livermore Ph.D

【脚注】
※1 1次試験で出てきた内容ですね。私が勉強したときはAISASまでだったのですが、進化していますね。
●AIDMA
Attention(認知・注意)→ Interest(興味・関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)

●AISAS
Attention(認知・注意)→Interest(興味・関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)」

●AISCEAS
Attention(認知・注意)→Interest(興味・関心)→Search(検索)→Comparison(比較)→Examination(検討)→Action(行動)→Share(共有)

●AIDCAS
Attention(認知・注意)→Interest(興味・関心)→Desire(欲求)→Conviction(確信)→Action(購入)→Satisfaction(満足)

※2 参考文献)Cultural Intelligence 2.0: New Insights for Measuring and Improving CQ
https://davidlivermore.com/2016/07/18/

■松島 大介(まつしま だいすけ)
2012年11月中小企業診断士登録
東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部所属
株式会社国際協力データサービス 代表取締役
一般社団法人CQラボ 監事
CQ Center 公認ファシリテーター
異文化エキスパート養成講座 第1期生
2030SDGsゲーム 公認ファシリテーター