グローバル・ウインド「インバウンド旋風と”コト消費” with Furoshiki」(2021年7月)
国際部 鶴﨑 実穂子
インバウンド旋風の日本で「外国の方と日本人がフラットに学べる場」として、ふろしきのバイリンガル講座を開催し、同時に店舗や講座の英語化プロデュースもお手伝いしてきました。事業を通して数十カ国の方達と出会い、様々な活動に参加することができました。市井から日本のインバウンド対応を見つめた経験をお話しします。
はじめに
インバウンド旋風の日本で「外国の方と日本人がフラットに学べる場」として、私はふろしきのバイリンガル講座を開催し、同時に店舗や講座の英語化プロデュースもお手伝いしました。事業を通して数十カ国の方達と出会い、様々な活動に参加することができました。市井から日本のインバウンド対応を見つめた経験にご興味を持っていただければ幸いです。
2003年ビジットジャパン開始
観光庁が2003年、訪日外国人数1000万人を目標とする“ビジットジャパン”を始動させたと聞き、外国人向けにアクティビティを提供できる場作りが必要ではないかと漠然と考えるようになりました。“コト消費”という言葉が聞かれるようになる10年ほど前のことです。
出典:国土交通省官公庁HP
訪日外国人数の激増でインバウンド本格化
訪日外国人数が2013年に1000万人を超えたころ、2020年の東京オリンピック招致も決定し、2000万人を目指してインバウンドの機運はようやく盛り上がりを見せてきます。外国人にとって魅力的な日本の観光資源について、在日外国人にヒアリングするなど、各所で動きが見られるようになりました。私が和文化講座や店舗の英語化をサポートする事業を始めたのもこの頃です。
インバウンドに対する街の反応
2013年頃のインバウンドに対する街の反応はとても薄く「日本人のお客さまだけで充分」「商店街でインバウンドの足並みが揃わないからやらない」「良い翻訳機が出てくるのを待つ」といった外国語にかなり消極的な意見が目立っていました。
それが、2015年、2017年と訪日外国人が2000万人、3000万人と急激に増え、中国人の爆買いなど、あちらこちらで外国人を見かけるようになると接客英語の需要が急激に高まり、各自治体主導の”指さしシート”や接客英語のサイトも一挙に増えることとなりました。
“コト消費”が外国人と日本人の場作りに
「外国人と日本人がフラットに学べる場」を作りたいと考えた私は、英語の和文化講座を持つことにしました。
数ある和文化の中から人気がありそうな日本料理や和菓子を試してみましたが、調理室の確保等が難しいこと、衛生的リスクもあることから他のコンテンツを検討することにしました。老若男女、いつでもどこでも気軽にできる“Origami(折り紙)”のようなものはないだろうか?そこで思いついたのが、外資系で働いていた頃、海外オフィスのお土産にしていた風呂敷でした。
講座開催を前に、日本風呂敷協会とふろしき研究会という2大組織の風呂敷認定講師となりました。新幹線で京都に行き、日本風呂敷協会の久保村先生にお願いしたところ、快く東京で講座を開催してくださり、無事、認定講師となることができました。
武蔵野市外国人モニタリングツアー
中国人観光客が大量に商品を購買するいわゆる“爆買い”の勢いが2015年の1140億円(春節期間中)から2016年にはほぼ半減し、そこで”コト消費“にスポットライトが当たるようになっていきました。
地元の武蔵野市でも和文化を通して吉祥寺の魅力を外国人の方々に知っていただくという主旨で「武蔵野市外国人向けモニターツアー」が開催されました。これは東京都(事業主)と武蔵野市役所、武蔵野商工会議所(企画提案)、武蔵野市観光機構(企画提案)が協力団体となって民間の運営事務局と共に実現した事業で、2016年に申請が通り、実施が2017年2月でした。
私は武蔵野市の関係各所と面談をし、なんとか英語のふろしき講座の企画書を都への提案書に加えていただくことになりました。かくして3つのコース、A. 剣舞体験、B.時代劇殺陣ショー、C. 着物ガウン+ふろしき講座が設定され、多数の応募がありました。
ABCの3コースとも動画や写真をカメラマンやスタッフが撮影し、参加者に自国に向けてのSNS投稿を促しました。
さて、当日の私は通訳とふろしき講師の1人2役をいただき、着物ガウンを着た参加者の方々と吉祥寺の街や井の頭公園の通訳ガイドとして廻り、ふろしき講師に早変わりするという面白い演出となりました。
ふろしき講座の最後には、和菓子の詰め合わせを花包みにしてそのまま風呂敷ごとお土産にしました。事前のお菓子のラインナップの打ち合わせで、海外で最も有名な和菓子「ドラ焼き」も加えていたので、「初めてのどら焼き体験」に参加者が感動する場面もありました。2日間の体験ツアーで5大陸から数十カ国の参加があり、吉祥寺を楽しんでいただきました。
世界初、外国人のふろしき講師の誕生
武蔵野市モニターツアーに参加したスペインの女性が風呂敷のファンとなり、私のふろしき講座にMIA(武蔵野市国際交流協会)の友人と一緒に参加してくれるようになりました。
一気に国際色豊かになり、アメリカ、台湾、中国、インドネシア、タイ、イギリス、日本と念願通りの多国籍なクラスです。
英語より日本語の方が得意という外国人も現れて、日本語も交えてのバイリンガルふろしき講座になりました。スペインの彼女はとても熱心だったので、講師認定講座の受講をお勧めし、1年半後の2018年8月に、外国人では初めてのふろしき講師誕生となりました。
真結びもおぼつかなかった彼女の成長がとても誇らしく、嬉しい出来事でした。その後、スペインに帰国してしまいましたが、今でもSNSにふろしきの投稿をするなどふろしき愛にあふれている彼女です。
京都文化力プロジェクト認証事業
毎夏、ふろしき研究会では「指導者養成講座」が東京と京都で開催され、日本全国からふろしき講師が集まります。2018年には「京都文化力プロジェクト認証事業」に認定され、コース3「英語出前講座」の講師として私にお声がかかりました。急速に進む国際化に対応し、英語で講座をするために日本全国の講師の皆さんに学んでいただきました。ふろしき結びに欠かせない英語の言い回しや外国人が喜ぶエンターテインメント性のある講座についてもお伝えしました。外国人の参加に消極的だった講師の皆さんにも、英語に自信を持っていただけるタイムリーな講座となったようです
日本語講師(外国人)研修でのふろしき講座
ふろしき研究会には全国からふろしき講座やふろしきに関する依頼があります。会員は本部から連絡を受け、出張講座やふろしき撮影の協力に出向いたりします。
その中で、外国人の日本語教師の方達の研修施設に行き、ふろしきを体験していただいたことがあります。
日本語教師ですが外国の方達なので、日本語でゆっくり話すことやふろしき文様などの表現は英語も交えて説明するといった工夫をしました。教鞭に立つ皆さんは、母国の授業でふろしきの結び方を生徒達に教えたいと、それは熱心にマスターするまで何回も結んでいらっしゃいました。
研修施設には、研修生各班の訪日レポートが展示してあり、そのテーマが「公共施設に見るユニバーサル化」や「日本のゴミの分別方法」等、社会的なものも多く、日本の古典文化だけでなく、あらゆる分野の日本文化に外国の方々は興味があるのだと気づかされました。
ふろしきの3R、SDG’s
ところで、ふろしきの講座では毎回、始めに“ふろしきエコバッグ”を作り、基本の結びである”真結び”と”ひとつ結び”を覚えていただきます。そうすると「Eco friendly!」と1枚の布からあっという間にできたバッグに感嘆の声が上がります。そして、ワインボトルやプレゼントボックスも花包みなどでふろしき1枚でどんどんラッピングしていくと「It’s magic!」と言ってふろしきが欲しくなります(笑)。実際にどこで買えるのかと毎回、聞かれます。
日本ではお店で当たり前にラッピングしてもらえますが、海外では自分でラッピングペーパーやリボンを買って包むことが多いのでそう思われるのでしょうか。クリスマスの後、大量のラッピングペーバーが捨てられることが、海外では社会問題として取り上げられています。“ふろしき”という1枚の美しい布があれば、毎回包装材を買わずに何度でも使用できますから、人気となるのも頷けます。
そうしたエコの活動は、ふろしき研究会、日本風呂敷協会共に数十年前から続けられ、3R、リユース、SDG’sなどとも結びつき、海外からも注目され、ふろしきのワークショップが招聘されたりしてきました。2018年パリのふろしきパビリオンは来場者数が予想を大きく上回る盛況ぶりでした。
日本では環境庁が3Rふろしきを配布したことがあり、その時の環境大臣が小池百合子さんでした。
東京都主催の国際パーティでのふろしき
東京都主催の国際パーティでは、小池都知事がごあいさつされるときに壇上で、ふろしき包みを結んで披露されることが恒例となっています。ときには私たちのふろしきブースに立ち寄り、海外メディアのカメラの前でエコ風呂敷バッグの結び方を笑顔で披露されることもありました。その効果もあり、私たちはたくさんの外国のお客さまにふろしきの結び方を体験していただくことができました。
中でも“東京都の防災風呂敷”を配布した会では、超撥水の最新技術で作られた風呂敷を自国にぜひ持ち帰りたいと、次から次へとワークショップに人が集まりました。
超撥水は群馬県の企業が開発した水分をはじくコーティング技術で、それを使用したのが超撥水風呂敷です。超撥水の風呂敷バッグにはそのまま直接、水を入れて運ぶことができ、それを手で絞り出すと中の水がシャワー状に出てくるという画期的なものです。災害時や非常時にとても役立ちます。東京都の防災風呂敷は防災意識の高さやエコロジーと共に最新技術力をも世界に発信することとなりました。
国際パーティと厳しいセキュリティ
国際のパーティではセキュリティが最重視され、パーティの情報については口外厳禁です。会場も直前まで知らされないこともあります。外国の要人の所在がパーティ会場の情報から漏れるなんて御法度なのです。入場時には関係者であっても持ち物検査を受けます。SNSへの写真投稿もパーティ後一定期間をおいて、当局の許可が必要となり、招待客の姿も基本的にNGです。SPの皆さんも配置され、安全を見守ってくださいます。
コロナ禍前の2019年までに10回程度は参加させていただき、オリンピックで盛り上がる東京を見られたのはよい経験となりました。
2025年の大阪万博、そしてその先へ
順調に伸びるかと思われた“コト消費”ですが、新型コロナウイルスにより、リアルでの講座はすっかり低迷してしまいました。その中でオンラインによる広いエリアに発信する方達も増えてきたのは頼もしい限りです。
そして新型コロナワクチンの普及で、ようやく新しい世界も見えてきました。コロナ終息後に訪れたい国の第1位は私たちの日本です。インバウンド、アウトバウンドの新しい風が吹いています。さて皆さん、何からはじめましょうか。
■鶴﨑 実穂子(つるさき みほこ)
2021年に中小企業診断士に合格・登録し、中央支部国際部に入部。ビジネスコーチ。
外資系やグローバル企業にて新事業の立ち上げや改善プロジェクトの経験を持つ。
“コト消費”事業「おもてなしEnglish」を立ち上げ、ふろしきを中心に英日バイリンガルの講座開催をする傍ら、店舗や講座の多言語化プロデュースを行う。